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2008.01.13

「夢のひと」を見る

「夢のひと」
作 わかぎゑふ
演出 マキノノゾミ
出演 升毅/渡辺いっけい/神田沙也加/安倍麻美
    三上真史/野田晋一/小椋あずき/宮吉康夫
    林英世/酒井高陽/木村美月/四條久美子
観劇日 2008年1月12日 午後6時開演
劇場 サンシャイン劇場 5列22番
料金 6500円
上演時間 2時間25分

 2008年観劇は、この「夢のひと」でスタートした。
 とても楽しかったのに、客席に空席が目立つのが非常に勿体ない。サンシャイン劇場では14日までで、その後は北海道の各地を回る予定らしい。「北の方にお知り合いのいらっしゃる方は・・・。みなまで申しませんが」という升毅の挨拶が全てを物語っている感じだ。
 でも、お勧めである。

 この日が収録日だったそうで、ロビーではDVDの予約を受け付けていた。パンフレット(1500円、だったと思う)も売られていたけれど、今回は購入しなかった。

 ネタバレありの感想は以下に。

 昭和10年の大阪にある女郎屋「梅川」を舞台にした、作のわかぎゑふがちらしに語って曰く「あり得ない人と一緒に、あり得ない協調を奏でる男女の物語」「夢のような出会いから生まれた恋の話である。」である。
 わかぎゑふの作品で、ほぼ同じ設定の舞台を前に見たことがあるような気がして、必死に思い出したらそれはスズナリで見た「お願い」だった。「お願い」でも泣かされたけれど、この「夢のひと」でも泣かされた。
 さらに、年末だったか年が明けてからだったかテレビで見た「吉原炎上」のストーリーまで頭の中をぐるぐるしてしまい、困った。

 「梅川」にいつの間にか間借りしてしまった三越社員の升毅演じる久我山と、家を出たい一心で自分の身売りを偽装した神田沙也加演じる千代。
 間借りした久我山を頼ってきた海軍少尉である渡辺いっけい演じる牧岡と、梅川で生まれ育った安部麻美演じる明美。
 確かにあり得ない組み合わせなのかも知れない。

 久我山と千代は同棲しつつも男女の関係にはならず、牧岡が身請けして結婚したいと申し出たのを明美は断る。
 幸せな結末を迎えられそうにないことは、始まってすぐに示されてしまう。
 明美は登場シーンからして体が弱く病院に行くということだったし、物語も中盤に差し掛かると久我山が実家の病院を継いで医者にならなかったのは心臓が悪いからだということが明らかになる。
 それぞれの片割れが命に関わる何かを抱えているとなれば、少しあざといと言えるほどの設定だとも思える。

 カーテンコールの挨拶で、渡辺いっけいが「自分は大阪の出身じゃないので大阪弁は無理ですと言ったら、わかぎさんが東京弁の役に書き換えてくれた。でも、神田沙也加ちゃんや安部麻美ちゃんががんばっているのを見て肩身が狭くて・・・」というような意味のことを言っていたけれど、言葉の問題だけでなく、この2人が、意外と言っては失礼なのだけれど、でも、意外なほどいい。
 言葉はもともと西の方の言葉に縁がない私にはその違いは判らないのだけれど、小椋あずき演じる梅川の女将に「肝の太い子や」と言わせる千代も、酒井高陽演じる梅川の旦那に「身請けされて海軍少尉の奥さんになれるわけがないことを、あの子は骨の髄まで判っている」と言わせる明美も、説得力をもってそこに存在している。
 升毅に渡辺いっけいを始めとする芸達者な役者陣に支えられてということももちろんありつつも、見事だったと思う。

 牧岡が、女は結婚でそれまでの人生をチャラにしてしまえるチャンスがあるから女が羨ましいと言うシーンがある。
 それを女郎である林英世演じる椿に言うこの男は無神経なんじゃあるまいかと思わなくもないのだけれど、どうも本心からの言葉で、本人に悪気は全くないようだ。でも、その本人は「海軍少尉」でエリートなんだよなという気がどうしてもしてしまう。牧岡というキャラが、上に莫迦が付くほどの真面目な奴でなかったら、殴りたくなっているところだ。

 けれど、千代は恐らくは久我山と結婚しなくてもたくましく生きていっただろうと思わせるし(実際に、ラストシーンで彼女は久我山を亡くした後、梅川の旦那夫妻も番頭だった宮吉康夫演じる林も引き取って花屋を経営する肝っ玉母さんとして登場する)、久我山の妹は結婚しないまま医者となり実家の病院を継いだのだなと思わせる。
 そして、上官の弟に口添えまでしてもらって明美と結婚しようとした牧岡自身、戦地にいるまま籍を入れ、けれども明美はウエディングドレスを着て結婚記念の写真を撮ろうとしたまさにその瞬間に死んでしまう。
 牧岡は彼女の人生を変えられたのか、変えられたとしても変えられなかったとしても、皮肉な話だ。
 もっとも、やはり明美の死がこのお芝居の涙のクライマックスで、泣かされた。

 けれど、実は明美の死のシーンよりも泣かされたのは、ラストシーンで林が「自分がここにいなければ息子が探してしまう。今でも戦争からぽつぽつ帰ってきている人がいる。息子も待っていればいつかふら〜っと」と牧岡に語るシーンだったりする。
 彼の息子は実は久我山が病臥しているときに家に入り込み、お金を奪って逃げようとして官憲に殺されており、そのことは久我山と千代しか知らないのだ。林が淡々としている分、泣けてしまった。

 升毅は「こういうほっこりしたお芝居もいい」とカーテンコールで言っていたけれど、本当にその通りだ。泣かされたけど、前向きな気持ちになれる。お勧めである。 

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