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「キル」NODA・MAP
作・演出 野田秀樹
出演 妻夫木聡/広末涼子/勝村政信/高田聖子
山田まりや/村岡希美/市川しんぺー/中山祐一朗
小林勝也/高橋惠子/野田秀樹
観劇日 2008年1月26日 午後7時開演
劇場 シアターコクーン G列5番
料金 9500円
上演時間 2時間25分(15分間の休憩あり)
10日振り2回目の観劇である。
パンフレット(1000円)を購入したけれど、上演終了予定時刻が「21時22分」になっている謎の答えはどこにも書いていなかった。いっそのことスタッフの方に聞いてみようかとまで思ったのだけれど、みなさんとても忙しそうにしていたので断念した。
ネタバレありの感想は以下に。
やっぱり、お芝居は舞台上で演じている役者さんと目線の高さが同じくらいの席で見られた方が楽しいと改めて思った。
そして、客席後方から見ているときは、舞台全体を見ているつもりでいたのだけれど、意外と「場の中心」しか見ていなかったようで、舞台に近いところから見ているときの方が「場の中心」以外の場所に視線が行くことが多かったように思う。
もっとも、1回目と2回目という私の方の理由が大きいのかも知れない。
10日しか立っていないというのに、覚えていないシーンが多くて我ながら情けなかった。
「あら? こんな仕草をしていたっけ?」とかならまだしも10日の間に演出が変わったとかアドリブが入ったという可能性もあるけれど、「あれ? こんなシーンあったっけ?」に至っては、どう考えても私の記憶力のなさの為せる業である。
言い訳をすると、前回はどうも「テムジンの物語」に直接関係のあるシーンを中心に自分の中でストーリーを追っていたらしい。
それにしても、一幕のラストシーン、前回は満面の笑顔のシルクにスポットが当たっていてそのままフェイドアウトしたと思っていたのだけれど、今日見たら、満面の笑みのシルクが妊娠していることに気づいたテムジンが驚愕の表情を見せ、そのテムジンを見たシルクが絶望の表情に一瞬で変わったところで明かりが消えていた。
前回、あんなにも印象に残っていたつもりだったのに、随分と脚色した印象を持っていたらしい。
自由の外側に愛がある、という設定のためなのか、このお芝居は「一人って寂しいよね」ということを言っているように感じられた。
脚本も役者さんもそういうメッセージを伝えようとはしていないのかもしれないのだけれど、この舞台を見て、「一人って淋しいものなんだな」ということを感じたと言った方が正しいようにも思う。
舞台上で「一人」だったのが誰なのかはよく判らない。
もう一つ感じたのは、言葉っていうのは恐ろしいものだなということだ。
テムジンが世界を征服することにあんなにも執着したのは、「世界中に制服を着せるとき、おまえは蒼き狼になる」と言って死んだ父親の言葉に縛られていたためかも知れない。逆に言うと、父親の血を引いていない自分は、父親が語った「蒼き狼と白い牝鹿」の物語を継いでいない、世界中に制服を着せない限り自分が「蒼き狼」になることはないという想いが、テムジンを駆り立てていたように感じる。
「父親が語った物語」と「父親の臨終の言葉」に支配されてしまっている。
テムジンの息子のバンリも、やはり父親の「蒼い狼を倒したときに蒼き狼になれる」という言葉に発憤して、西に征服の旅に出たようにも見える。
でも、彼の場合は、こまっしゃくれた造形の故か、「父親の言葉に縛られている」という感じはしない。どこかに「そういうことにしておこう」という計算の匂いも感じる。ただ、逆にその「自分の計算」に絡め取られてしまったんじゃないかという印象は残る。
だから、バンリの最後は判らないままなのだけれど、テムジンは自分のブランド「蒼き狼」をそっくり真似た贋ブランドの「青い狼」のデザイナーは父親だと確信し、父親の影と言葉が自分に巣くっている限り、贋ブランドも消えはしないという確信を持ったのだろうという気がする。
結局のところ、(やっぱり前回の感想で書いた舞台の始まりは私の記憶違いで)テムジンの「宣言」から始まる舞台は、でも赤ん坊の誕生を待たない父親の姿から始まり、赤ん坊の誕生を待つ家族をバックにしたこれから生まれようとするテムジンの姿で終わるのだろう。
テムジンの出ていないシーンの印象が強いのに、感想を書こうとすると、やっぱりテムジンの物語なのね、という書き方になってしまうのが、我ながら不思議である。
妻夫木聡のテムジンは、やっぱり堤真一の台詞回しに似ていると感じたけれど、今回はそれが非常にこなれて聞こえた。「妻夫木聡のテムジン」を見たという感じがする。
広末涼子は、びっくりするくらい高いテンションで「同じ」水準を維持している。10代の頃の彼女の可愛さは実はピンと来なかったのだけれど、今回、広末涼子って綺麗だなと思った。
綺麗といえば、スノコ状になった舞台の床から明かりが射すシーンはとても綺麗だった。
何だか、やっぱり「大きな」物語だった。
帰り道、劇中で使われている音楽がずっと頭の中をゆったりと流れていた。
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