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「岡本でございます!」Orega Challenge Vol.2
脚本 池田真一
演出 石山英憲
出演 西村雅彦/川口真五/阿部英貴/加瀬竜彦
池田真一/北嶋哲也/竹匠/深来勝
中本奈奈/坂井三恵/鎌田有紀
観劇日 2008年3月15日(土曜日) 午後6時開演
劇場 シアタートップス A列3番
料金 4500円
上演時間 2時間
シアタートップスに上がる階段もロビーもお花でいっぱいだった。
物販は過去の上演作品のDVDが何枚か販売されていたと思う。
ネタバレありの感想は以下に。
舞台の最後に、西村雅彦が客演の役者を紹介していた。ということは、Orega Challengeは劇団として活動しているということなんだろうか。
その辺りの予備知識が全くなく見てしまったので、逆に、この「岡本でございます!」というお芝居そのものを楽しめたようにも思う。
A列3番という席は、もちろん最前列で、手を伸ばせば舞台に手が届く。
しかも、目の前に、西村雅彦演じる岡本候補と、中本奈奈演じるウグイス嬢の寿暁子の2人がぐっと客席に身を乗り出すようにして、寿が岡本を説得したり叱りつけたり罵倒したりするシーンが何度もあったので、緊張してしまった。
同時に、「うーん、西村雅彦の化粧はかなり塗ってあるな」なんてことをつい思ってしまうくらいの距離でもあった。
妙につんつるてんの、ダークオレンジというのか薄茶というのか、いずれにしろ余り見ない色のスーツに蝶ネクタイという格好の岡本は、突然なんとなく大東山市(だったと思う)市議会議員選挙に立候補する。
突然のことだから、何の準備もないし、何となくだから何の覚悟もない。
唯一、過去選挙で12連勝というウグイス嬢の寿暁子を新聞広告で雇うことができたのが、希望の光だ。
劇中でも、「ウグイス嬢の重要さ」ということは語られるのだけれど、この寿嬢の活躍はもの凄い。
候補者本人以外の全ての仕事は彼女がやっているようなものである。
岡本候補は、選挙カー(最初「せんしゃ」と発音されていたときには、私は「選挙カー」じゃなくて「宣伝カー」だと思っていた・・・)を運転するのみである。
対照的に描かれる対立候補は、兄が国会議員で党の公認候補で兄を国会に送り出した際の選挙参謀をそのまま連れてきているという「地盤・看板・鞄」の全てが整っているような若手である。
この片岡候補が、また限りなく情けなく描かれている。
自分の気に入った女の子をウグイス嬢として連れてくるのだけれど、この伊刈嬢がすこぶるつきで下手くそである。それを兄が許しているのは、彼女が党の大物の孫娘だからというところが、また何とも泥くさい。
こうなってくると、川口真五演じる柴田という選挙参謀が、限りなくいい人で限りなく苦労人に見えてくる。実のところ、こうやって裏で支えている人の方が隅々まで知り尽くしてえげつないんじゃないかという気がしなくもないのだけれど、でも、一見、いい人に思えてくるのが不思議である。
実は、このお芝居は、柴田が考えた演説草稿をそのまま「暗記パン(ドラえもんの「暗記パン」のことである)」で丸暗記して叫び、実のところ全く何も考えていなかった阿部英貴演じる片岡慎也候補が、伊刈を辞めさせた兄への対抗心と反発から、最後の最後で化ける、その成長物語なんじゃないかという気もしてくる。
一方の岡本は、ベテランかつ凄腕ウグイス嬢である寿のおかげで選挙戦は何とか進められるが、でも、寿の存在が片岡陣営からチェックされる原因にもなる。
そもそも、22人定員の市議会で、21人の現職はほとんど当選確実、残り1議席を3人の候補が争っているという設定なのだ。
しかも、投票率が20%台という全国最低レベルだから、組織票の有無が大きく意味を持ち、ほとんど何の基盤もない岡本に勝ち目はほとんどない。
それにも関わらず、片岡陣営は僅か4人の岡本の選挙事務所に星野というスパイを送り込んで選挙活動を妨害し、なりゆきで開催することになった公開討論会では、応援演説をする筈だった上谷を怪我させて出席できなくさせる。
そんなことをしなくても、岡本は、「人前でしゃべることは苦手だ」と選挙カーでも一言も発せなかったように、公開討論会でも一言も発せられなかったのだ。
恐らくは星野の工作で、岡本の同級生で「たかりに来ているのか?」といういかにもいじめっ子の風情だった三木本と上谷が対立し、2人とも選挙事務所を去ってしまう。ついでに、星野は選挙カーとして使っていた岡本の車も壊している。
星野も目的を達成して出て行く。
それを追いかけた寿が戻らず、事務所に1人でいた岡本のところに、元工場の同僚である古茶が訪ねてくる。新社長に邪険にされて工場を去った岡本に「闘わずに逃げたと思っていたら、市議会議員選挙に立候補していて驚いた。でも、公開討論会で見たが、結局、逃げているんですね」と言う。
そう言われても怒りもせずに「そうですね」と言う岡本もどうかと思う。
でも、この会話がきっかけで、古茶はケンカ別れした元彼女と一緒に期日前投票で選挙に行けることが判るし、岡本はもう一回がんばろうという気持ちになる。
寿は「何故立候補したのか」と岡本に尋ね、「遠くに通って働いている時間を、今まで住んで育って働いてきたこの町のために使いたい」という答えを得る。
実は、この答えに感動した寿のその「感動」がどこにあるのか、私には今ひとつよく判らなかった。
でも、そこから、選挙戦の最終日に駅で街頭演説を行おうという計画が始まる。
翌日には、去った筈の運動員3人も戻ってくる。
何故だか判らないのだけれど、このお芝居、後半は泣けて泣けて仕方がなかった。
特に悲しいことはないと思う。
岡本の人柄にそれぞれが「何か」を見いだして運動員は再結集するのだけれど、そこに、涙を誘うような物語もいかにもな展開もない。
それでも、何故だか、泣けて泣けて仕方がなかったのが、泣きながら自分でも謎だった。
選挙戦の最終日、岡本は、やっと自分の言葉で、寿との痴話げんか作戦につられて集まってきた人々に語りかけることができる。
「私に投票しなくてもいいですから、選挙に行ってください」と言う。
それは、この1週間の岡本の奮闘を見てきた私たちには感動の瞬間だけれど、その演説だけを聴いていた東大山市民にはやはり届かなかったようだ。
選挙結果が出る前、寿は役目を終えて去ってゆこうとし、「多分、落選していると思う。」と告げる。
彼女のウグイス嬢としての連勝記録にストップがかかったわけだけれど、そんなことはどうでもいいというすっきりした表情である。
そして、選挙結果は客席に知らせることなく、選挙で選ばれたばかりの市長が選挙違反で逮捕されたニュースが届き、岡本は「市長選に立候補する!」と叫び、寿の手を取って駆け出す。
そこで、幕である。
実はもっといいシーンがたくさんあったと思う。
寿と伊刈が中学時代の同級生だったこと、三木本と片岡(兄)も同級生だったのに片岡は三木本のことをすっかり忘れておりそれで三木本が岡本の応援に俄然熱を入れたこと、星野が柴田に「岡本の応援をする。あなたも散々騙されてきたでしょう」と告げたときの2人の表情、「世直しを直す」と真剣な顔で断言した片岡候補と「お兄さんも昔はそう言っていた」と還した柴田の片岡(兄)を見やる目、別居中の妻がこちらにやってくると電話で告げたときの三木本の表情など、もっとたくさんあったと思う。
友人がやはり議員1年生をやっていたりとか(正直に言ってその言動には賛成しかねる部分もあるのだけれど)、畠中恵の「「アコギなのかリッパなのか」を読み始めたところだったりとか、そのためかも知れないのだけれど、とにかく不思議と泣けたお芝居だった。
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