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2008.03.22

「罪と、罪なき罪」を見る

「罪と、罪なき罪」リリパットアーミーII
作・演出・出演 わかぎゑふ
出演 コング桑田/朝深大介/生田朗子/千田訓子
    上田宏/谷川未佳/祖父江伸如/粟根まこと(劇団☆新感線)
    八代進一(花組芝居)/橋田雄一郎/美津乃あわ/小山茜
    森崎正弘(MousePiece-ree)/木村基秀(南河内万歳一座)
    福田靖久(デス電所)/曽我廼家八十吉(新生松竹喜劇)他
観劇日 2008年3月21日(金曜日) 午後7時開演
劇場 ザ・スズナリ E列9番
料金 4000円
上演時間 2時間20分

 ロビーでは、パンフレット(1500円)、Tシャツ、今回の出演者が出演しているお芝居のDVDなどが販売されていた。
 開演前にパンフレットを購入したら、その場でわかぎさんとコングさんがサインをしてくれた。
 ということは、終演後のサイン会はなしかなと思っていたら、ちゃんと開催されて、福田さんと木村さんという客演陣のサインもしっかりいただいてきた。

 土日のチケットは売り切れてしまっているようだけれど、月・火曜のチケットはまだ余裕があるそうだ(と劇中で何度も呟かれていた)。

 ネタバレありの感想は以下に。

 明治時代を舞台にし、大津事件をモチーフとした、特に後半は舞台がほぼ法廷に限定されるお芝居のためか、千田訓子演じる講釈師が狂言回しとなって、時代背景を説明し、ときには寸劇や紙芝居で見せることでそのギャップを埋めようとしている。
 最初の頃は、「長いよ」と思ったりしていたのだけれど、特に後半にはお芝居の流れに溶け込んでいたように見える。何より、緩急をつけ、緊張と緩和を自在に操っているように見える千田訓子の技が見事である。

 そういうわけで、実は、チラシに書かれたインターミッションとは、実はかなり内容が異なっている。
 チラシには、以下のように書かれている。

*****
−略−
新政府から選ばれた4人の法学性
彼らは「子どもを産めない王妃に罪はありやなきや?」
というテーマを打ち出す。
−中略−
図らずも、明治天皇の世継ぎ問題に触れることに発展し、
罪なきところに罪が生じることになってしまう。
予定していた仮装裁判の筋書きを巧みに口先で変えつつ、
自らが作り出した罪なき罪をぬぐうため、
ぶっつけ本番の大舞台で
歴史を変える弁護を始めるのだった。
−略−
*****

 確かに、明治天皇も、3人の法学性も出てくるし、仮装裁判のシーンもあるけれど、この舞台はチラシに書かれた内容の舞台ではない。
 実在の大津事件を扱い、でも内容を大胆に変えることで、より多くのことを伝えようとしたように見える。

 牛鍋屋にいた木村基秀、福田靖久、祖父江伸如演じる若手弁護士たちに「うるさい」と文句を言いに来る客、その客に対してキッパリと「迷惑だ」と啖呵を切る小山茜演じる牛鍋屋の店主の若い女性。若手弁護士の一人で「若」と呼ばれる人物と八代進一演じる文句を言いに来た人物は実は異母兄弟で貴族でもあるらしい。一方で、橋田雄一郎演じる若手弁護士のうち大阪から来た人物の兄は、警察官を務めているようである。
 かなり後になって明かされるのだけれど、別室で牛鍋を食しているコング桑田と生田朗子演じる男女が実は明治天皇夫妻だったし、このワンシーンに、結婚観だったり、男女差別だったり、四民平等のその後だったり、家制度だったり、溢れんばかりの内容を詰め込んで、話は進む。

 場面は変わって、まるで隠居住まいのような朝深大介演じる「先生」と呼ばれる人物が、福井千夏演じるその家に来たばかりの女中に言葉を教え、文字を教え、英語を教え、到来物のチョコレートを食べさせる。
 そこに、「兜町に来て欲しい」という使いの人物が現れ、里帰りしていたもう一人の女中も戻って来て、2人に美津乃あわ演じる別居中の妻への連絡を頼んで彼は出かけて行く。
 その帰りに、道ばたで曽我廼家八十吉演じるところの医師である親友としゃべっている内容から、「先生」は裁判官であり、大津事件の裁判を任されたことが判る。そこへ、「先生」を探しに来た谷川未佳演じる女中が大津に里帰りしていたことを思い出し、「何か聞かなかったか」と尋ねたことが、思えば悲劇の始まりだったのだ。という展開がやっぱり見事である。

 決して広いとは言えないスズナリの舞台に14人以上の登場人物を入れ替わり立ち替わり登場させ、賑やかにしつつも混乱させず、しかも一人一人の登場人物に意義と意味があり伏線がある。
 相変わらず鮮やかである。

 そして、休憩なしの後半、物語は一気に進み始める。
 欲張りな我が儘を言うと、この後半までの運びがもうちょっと端折られてスピーディだともっといいと思う。

 粟根まこと演じる貴族院議員の圧力で「きちんとした」裁判を諦め、辞職覚悟でただ死刑判決をするだけの裁判を始めようとする「先生」だが、そこに大津事件の犯人の弁護を買って出ようという若手弁護士達が現れ、彼らの一人が実は皇族の端に連なる人物だということが判明し、彼が明治天皇を担ぎ出して「公正な裁判を」という言質を引き出す。
 この若手弁護士達を昨日襲ったのが、キラキラメイクの森崎正弘演じる判事の一人であることが判明し、彼は退廷を命じられる。
 どちらかというと、いじいじうじうじ優しげでふにゃふにゃしていた「先生」の表情が変わり、姿勢もピンと伸びているところが格好良い。

 そして、改めて「裁判」が始まる。
 検察官はおらず、判事が被告人に尋問し、弁護人が尋問する。ここが義兄弟の対決にもなっているし、実は2人とも目的とするところは同じだというのがいい。

 そこに、「先生」の親友である久馬医師が飛び込んできて、女中の自死を告げ、彼女が残した「大津事件の真相」を語る嘆願状を読む。
 真相を語ろうとせず、「死刑にしてくれ」と言い続けていた上田宏演じる被告の男に、「先生」は無期懲役を告げる。
 司法の独立、裁判官の良心を全うすればそれしかないという判決なのだけれど、「先生」は「死刑にして、彼女の元に送ってやりたかった。彼女を殺したのは俺だ」と嘆く。前日、裁判の行方を気にする彼女に、死を持って真相を告げた人物の証言が採用されたという話を彼女にしていたのだ。

 そして、ラストシーンは再び牛鍋屋である。
 神経を病んだ「先生」は再び妻と暮らし始め、女中のときを養女としたらしい。「先生」に元気になってもらおうと牛鍋屋に来たのだ。
 そこには若手弁護士3人と警官の兄もいて、義理の兄もいて、彼ら義兄弟は元々仲が悪かったわけでもないのだけれど仲直りをした模様である。4人揃ってプロポーズしていたけれど、牛鍋屋の店主は警官の兄を選んだらしい。「先生」は女中とその許嫁だった男に似た2人を見かけ、目で追う。
 そして、全員揃ったところで幕である。

 多分、これでも登場人物全員は紹介し切れていない筈である。
 広くない舞台でこれだけ大勢を登場させてうるさくならず、混乱させない手腕はやっぱり見事である。
 誰が主役なんだろう、誰の物語なんだろうと思いながら見ていたのだけれど、やはり、この舞台の中心人物は、大津事件を裁いた「先生」ということになるだろう。普段は二日酔いで仕事をさぼったり、柔らかにふにゃふにゃ頼りない風情だけれど、いざというときには覚悟を決めて謹厳実直、でも弱さも見せる「先生」は、ある意味理想の男性そのものだよなと思う。

 最初にちらっと出てきただけで勿体ないよと思っていた生田朗子が実は「明治天皇の皇后」を演じていて後でドレスに白塗りの顔で出てくるのも楽しいし、久しぶりに見た洋服で男性を演じた八代進一を見て、せっかく格好良いのだからもっと男役で見たいなと思う。
 谷川未佳はいつ見てもどんな役を演じていても地に足の着いた風情を醸し出していて安定している。実はリリパットアーミーIIの女優陣では彼女が一番好きかも知れない。

 そういえば、リリパットアーミーIIは、「りりぱっとあーみーせかんど」と発音することを、今回初めて知ってしまった。

 しつこいようだけれど、来週月曜と火曜の回はチケットに余裕があるそうだ。
 お勧めである。

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