「きみがいた時間 ぼくのいく時間」を見る
「きみがいた時間 ぼくのいく時間」演劇集団キャラメルボックス
原作 梶尾真治「きみがいた時間 ぼくのいく時間」
脚本・演出 成井豊
出演 上川隆也/西山繭子/岡内美喜子/西川浩幸
温井摩耶/阿部丈二/渡邊安理/筒井俊作
坂口理恵/岡田達也/左藤広之/青山千洋
三浦剛/小林千恵
観劇日 2008年3月29日(土曜日) 午後7時開演
劇場 サンシャイン劇場 2階1列27番
料金 6300円
上演時間 2時間50分(15分間の休憩あり)
「キャラメル史上初の休憩」というのは前から聞いていたけれど、加藤昌史の前説のない舞台も私は初めてだった。代わりに、開演前には上川隆也のアナウンスが入っていた。
もちろん、ロビーでの物販はあふれるほど行われている。
大昔に購入したキャラメルボックス・プリペイドチケットが余っていたので、有料パンフレットを購入した。いつも通り、配役や役者のコメントや写真の入った無料のフライヤー(というのか?)は配布され、その他に有料パンフレットを販売しているというのは、私は初めてだった。いつ頃から始めたのだろう。
ネタバレありの感想は以下に。
「クロノス・ジョウンターの伝説」から始まった、梶尾真治原作の「タイムマシンもの」の4作目である。
今回出てきたのは「クロノス・スパイラル」という機械で、これまでの「クロノス・ジョウンター」というマシンが、狙った時間と場所に行けるけど5分しか滞在できず、未来にはじき飛ばされるという欠陥品だったのに対し、「クロノス・スパイラル」は39年前の同じ場所にしか行けず、しかも帰って来られない(その場に居続ける)という欠陥品である。
この4作は、「欠陥」をものともせずにそれを利用し、自分にとって大切な人の命を救うという物語であることは共通している。
つまるところ、死んでしまった人を死なないようにするためにタイムマシンを利用するというストーリーだから、タイムパラドックスの問題は常につきまとう。
今回も、結婚したばかりの上川隆也演じる秋沢が、西山繭子演じる妻の絋未を交通事故で亡くすことから物語が動き始める。
ここから始めればいいものを、5年振りの秋沢の帰国、岡内美喜子演じる秋沢の妹真帆が親友でもあり兄の元恋人でもあった絋未を空港に連れて行き、2人のデートを仕組み、プロポーズして結婚の約束をした2人に謎の人物からシャンパンが贈られ、絋未は勤めている会社の社長に頼まれて楠本という人物に会いに行く。そこでは坂口理恵演じる柿沢という女性が秘書を務めており、勝手に付いてきた秋沢と押し問答の末に絋未は1人で楠本と会う。結婚式を挙げる。
休憩後の2幕になって判るのだけれど、シャンパンを贈ったのは、39年前に飛んでその後の絋未を見守り続けていた秋沢だったし、楠本というのは39年前に飛んだ秋沢が名乗って生きてきた名前である。
つまり、絋未の交通事故が起こる前から物語を動かし始め、絋未の交通事故を防ぐために起きた「秋沢の時間旅行」の結果であるシャンパンや楠本という人物の存在を、絋未の交通事故前の出来事として描いてしまったために、「それなら最初から交通事故は防がれていた筈じゃない」という疑問がどうしても浮かんでしまうのだ。
終演後、2階席から降りる階段でその疑問を口にしている人達が随分多くいたように思う。
絋未のおかげで変わった秋沢を描くとか、「1幕のあれはああいうことだったのね!」という伏線の効果を狙うためには、この構成で行くしかないのだろうとは思うのだけれど、タイムマシンものを扱う以上はタイムパラドックスは解決しておかないと、舞台として非常に損なのではないかと思う。
帰る道々で舞台のことではなく、タイムパラドックスのことがまず話題になり、疑問に思われてしまうのは勿体ない。
久しぶりにキャラメルボックスのお芝居を見ようと思ったのは、ミーハーなことに舞台上での上川隆也を見たいというのが最大の理由だったのだけれど、前2作と比べて「上川隆也一人勝ち」な感じはかなり薄まっていたように思う。
ヒロインに客演を呼んだためかも知れないし、パンフレットに書いてあったように「出演者全員が上川隆也と絡むように」書かれた脚本のためかも知れない。
そして、好みの問題だと思うけれど、誰かが一人勝ちしている舞台よりも、全員のアンサンブルでできあがった舞台の方がずっと面白い。
舞台の1幕目は、現在の秋沢と絋未の物語で、2幕目は39年前に飛んだ秋沢の物語と、休憩の前後で舞台を全く違え、上川隆也が演じる「秋沢」は「秋沢」なのだけれど、それは別の人格を持つ人物(になりつつある)ということになる。
その違いを上手くつなげ、流すためにも、休憩を上手く使ったなという感じがする。
そして、2幕目はある意味で、秋沢と、秋沢が雇われることになる馬車道ホテル創業者の娘である坂口理恵演じる柿沼純子との物語であるともいえる。
うーん、やっぱり上川隆也と坂口理恵ってゴールデンコンビよね、と思って、この2人の組み合わせが見られたことが、何だかやけに嬉しかった。
絋未を演じた西山繭子は、2幕目では、秋沢のイメージの中の絋未を演じ、婚約時代の絋未の母親を演じ、中学生になった絋未の母親も演じて、地味に大活躍しているのも何だか凄い。
秋沢が馬車道ホテルに現れたことによって、恐らくは人生が変わってしまい、最後には秋沢を刺してしまった、岡田達也演じる純子の従兄弟である柿沼浩二が、敵役を演じただけでふいっといなくなってしまったのも実は気になっている。彼はあの後、どんな人生を選んだのだろう。
舞台上で動いている物語の書き手として、ほぼ出ずっぱりで岡内美喜子が舞台上にいる。
ジーンズにくっきりしたオレンジの上着という「目立つ」衣装なのだけれど、スポットが当たらないせいなのか、舞台下手に置かれたパソコンデスクにいることが多いせいなのか、時々は自分の書く物語にツッコミを入れたりしつつ、登場人物になって演じることもありつつ、不思議なくらい邪魔にならず違和感がなかったのが見事だった。
春の人事異動や新体制でバタバタそわそわドキドキしてここ1週間はやけに疲れたり、ブルーになったり、不安になったりしていたのだけれど、見終わったときには何故だか「何とかなりそう」という気持ちになっていた。
なんだかんだと言いつつも、元気をもらえる、穏やかな気持ちになれる、舞台だった。
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