「けんか哀歌」を見る
「けんか哀歌」猫のホテル
作・演出 千葉雅子
出演 中村まこと/森田ガンツ/市川しんぺー/佐藤真弓
池田鉄洋/村上航/いけだしん/岩本靖輝
菅原永二/前田悟
観劇日 2008年5月5日(月曜日)午後5時開演
劇場 本多劇場 I列12番
料金 4600円
上演時間 2時間10分
ロビーでは、劇団の役者名鑑ほか、中村まことと市川しんぺーが組んだフォークデュオのCD、Tシャツなどが販売されていた。
チラシの中に役者さんの名前と役名の載った紙(これは正式名称は何というのだろう)が入っていたし、恐らくパンフレットは売っていなかったように思うのだけれど、ちゃんとチェックしたわけではない。
客席で篠井英介と松金よね子を見かけた。
ネタバレありの感想は以下に。
(ラストシーンをばらしていますので、未見の方は絶対に見ない方がいいと思います。)
「真心一座」などで千葉雅子の脚本や俳優としての千葉雅子を見たことはあるけれど、猫のホテルの劇団公演は初めてである。恐らく、千葉雅子演出の芝居を見たのも初めてじゃないだろうか。月影十番勝負に千葉雅子演出の回があったろうか。
外部で見かける千葉雅子の印象から、ブラックかつハードボイルドな感じの舞台を想像していた。
今日、出かける前に突然「もの凄い不条理劇だったりスプラッタだったりしたらどうしよう」とネットをうろうろし、戦後すぐの映画撮影所で起こった労働争議の話だと知った時点で実は少し安心していた。
実際に見てみたら、そもそも千葉雅子は出演しておらず、女優は佐藤真弓一人で、男優さんが女装して出てきた時点で、徹頭徹尾シリアスというわけでなさそうだとさらに安心する。
前半は、本当の終戦直後の撮影所や映画監督たちの姿が描かれる。
1人だけいわゆる共産主義思想を持っている(らしい)映画監督が、勉強会に他の仲間を誘おうとしているけれど、それが労働組合結成にたどり着くような雰囲気はない。
もしかして労働争議の話にするのを止めちゃったのかも知れないとすら思って見ていた。
どういう展開になるのか判らないけれど、どうも前半はこの後の話の筋にそれほど絡んで来そうにない。そういう風に思ってしまうと(後でそれは大勘違いだと判るのだけれど)、物語とは関係ないところが気になってしまう。
「猫のホテル」は初見ということもあって、まず思ったのは「声がいい役者さんが揃っているなぁ。もしかして、声でオーディションやっているんじゃないかしら」ということだった。
中村まことも池田鉄洋も市川しんぺーも、それぞれに特徴的な深いいい声なのである。
池田鉄洋といえば、ドラマ「医龍」のときの印象が強すぎて、最初に登場したときにはハンチングのような帽子を被っていたこともあって、本人だとは全く気がつかなかった。
ちょっと変わった、エキセントリックといってもいいような役柄を想像していたので、普通に格好良くしているのが、本当に不思議だった。しかも、テレビで見た印象よりもずっと大柄に感じられる。
ギャグがあり、踊りがあり、アドリブかな? というやりとりがあり、結構笑っているうちにいつの間にか話が暗い方向にシフトしていく。
GHQの部局のひとつであるCIE(民間情報教育局)から、映画の台本に指導という名の検閲が入る。
その話のウエイトがさりげなく少しずつ大きくなっていく。
中村まこと演じる柳田という映画監督が撮影所を追われたのは戦時中に戦意高揚の映画を撮っていたからだし、GHQの指導(主導)でスタッフや俳優達の労働組合が結成される。
最初は組合活動に興味もやる気なさそうだった池田鉄洋演じる片倉という映画監督が、「映画を撮れるようになりたいだけだ」と言いつつ、いつの間にか組合委員長に祭り上げられ、それだけではなくて何故かリーダーシップを発揮している。
組合の人々は映画撮影用のスタジオに籠もり、GHQは労働運動の高まりと共産主義の台頭を恐れて介入しようとする。
そこで、「スパイ」として送り込まれたのが柳田である。
以前に撮影所を追われていた柳田がGHQ側について交渉に当たり、京都でパンパンをやっていた片倉の妹はいつの間にかCIEの制服を着て「指導」する側に回っている。
前半で「このシーンは必要なのか?」と失礼なことながら疑っていたあんなことやこんなことが、ここへ来て効いてきているのが何だか楽しい。
柳田は、片倉らの集会を潰すためにGHQはヘリと戦車を出している、委員長の開会の挨拶のときに共産党員の名前を1人でもいいから挙げてくれれば、好きなように映画を撮らせてやると交換条件を持ち出す。
えげつない限りだ。
それが、どうもこの柳田が、決して善人には見えないのだけれど、裏切り者とかそういう風にも見えないのが不思議である。
さて、片倉はどう出るか。
私の予想は「あくまで闘い、仲間を売るような真似はしない」か「GHQの介入を避けるために仲間の名前を告げるが、本人も映画監督を辞めてしまう」かどちらか、だった。
それが、まさか、片倉がある人物の名を告げ、撮影所の所長から企画書と台本を渡されて、躊躇はするものの受取り、すぐさま撮影に向かうとは思わなかった。
ついでに、こういう「スパイ」の約束というのは守られることもあるんだー、と変なところに感心してしまった。
それにしても、ここへ来て、全ての皮肉とハードボイルドとシリアスとが炸裂したという感じである。
そういえばこの芝居のタイトルは「けんか哀歌」だったよ、やられたよ、と思ったことだった。
見終わった後で、「けんか哀歌」のチラシを見たら、隅っこに、でも結構大きく「そのけんか、来なかったのは軍艦だけ」と書かれていて、これまた「やられた!」と思ったのだった。
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