「喜劇 俺たちに品格はない」を見る
伊東四朗一座 ~帰ってきた座長奮闘公演~「喜劇 俺たちに品格はない」
作 妹尾匡夫
演出 伊東四朗/三宅裕司
出演 伊東四朗/三宅裕司/戸田恵子/渡辺正行
ラサール石井/小倉久寛/春風亭昇太/東貴博
坂田鉄平/河本千明
観劇日 2008年6月7日(土曜日)午後7時開演
劇場 本多劇場 O列21番
料金 7000円
上演時間 2時間25分
大盛況だった。
ロビーでは、パンフレット(1300円)や、Tシャツ、エコバッグ(最近、これを劇場ロビーでの物販で見かけることが多くなったように思う)、出演者陣のDVD作品などが販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
毎回見ている訳ではないから定かではないのだけれど、この「喜劇」は多分、「一見アドリブのように見せて作り込まれた」のではなく、本当に「ある程度の規制の中でそれぞれが自由にやっている」舞台のように見えた。
客入れに多少の時間がかかったり、カーテンコールが3回あったりしたとはいえ、上演時間2時間の予定が2時間25分になったことからも、それは推測できるのではないかと思う。
舞台の上は、飛び道具が飛び交う真剣勝負の場と化していて、それぞれ、相手が何を始めるか、どこで脚本から逸脱し始めるか、このエンドレスなギャグをいつまで続けるか、間合いをケモノのように計りつつ身構えている感じが伝わってくる。
それが変な緊張ではなく、笑いに繋がる「緊張と緩和」になっているところが、流石に笑いの達人の集まりという感じがする。
大体、のっけから笑わせてもらった。
携帯電話の電源を切るようにというアナウンスを、舞台上から、船場吉兆の母子の記者会見を模して見せる。ついでに「使い回し」の話も使い回してしまうところが上手い。
ストーリーとしては、三宅裕司演じるスズキ政調会長と、ラサール石井演じるナガイ幹事長が、春風亭昇太演じるオオイズミ首相の後釜を狙っていたところ、何故か首相は警察民営化について民意を問うと言い始めて解散総選挙を行い、何故かトップ当選した伊東四郎演じる政調会長秘書の西園寺が首相になってしまう、言ってしまえばただそれだけのストーリーである。
でも、このディテイルが可笑しい。
戸田恵子演じる八千草ルリ子は歌手で、スズキと付き合っている。
このルリ子は歌が上手いのに、何故か歌っているとどんどん曲調をマイナーに変えてしまうという癖がある。
この歌いつつ音程を半音下げ、メジャーからマイナーに変え、最後にはド演歌に変えてしまうという技は、大笑いしながら聴いてしまったけれど、相当の音感と練習がないと難しいのではなかろうか。
比べるのも失礼だけれど、カラオケで声が出なくて半音上げ下げしたりすると、音程が取れなくなるのはよくある私としてはア然としてしまった。
ナガイは、渡辺正行演じる幼なじみの雑誌記者からこの「不倫」ネタを聞き、スキャンダルにしてスズキを失脚させようとする。
一方で、ナガイは、東貴博演じる某IT企業社長を彷彿とさせるアイカワという人物と付き合い、賄賂をもらいまくり、便宜を図りまくっている。
このアイカワ社長が音楽ダウンロードを身体を張って説明するところが可笑しい。いや、説明自体は別に可笑しくないのだけれど、明らかに体力勝負のヒンズースクワットばりのジェスチャーを「その説明じゃ判らない」と何度もやらせられるのが、気の毒にも可笑しい。
伊東四郎演じる西園寺秘書は、記憶力が減退してきたと言い、体中に重要機密事項を付箋で貼っている。これは「博士の愛した数式」のパロディなんだろうか。
小倉久寛演じる総務会長の名前もどうしても覚えられず、でも、「ナマケモノに抱きつかれた」という話はすぐにインプットされたようで「ナマケモノさん」などと呼んだりする。
ほとんど素のように、三宅裕司のスズキ政調会長が「その人と絡むんじゃない、長くなるから」などと言っているのが可笑しすぎる。
スキャンダルにするには八千草ルリ子が売れていなさすぎると、ナガイとアイカワとが組んで彼女を売り出し、追い落とし作戦を黙々と遂行していたのに、素っ頓狂なオオイズミ首相のおかげで解散総選挙となり、そうなれば「人気者」のスズキの人気を最大限に使いたいところなのに、雑誌記者(役名が思い出せない・・・)は、サイオンジとルリ子の写真を「政調会長の不倫」としてスクープし、総務会長の曖昧な記者会見のおかげで政調会長はサイオンジに替わったということになってしまう。
オオイズミの発案で、彼ら党の中心人物とルリ子とアイカワまで加わってコントで選挙運動を行おうということになる。
そして、すぐ場とは関係ない歌に持って行ってしまうコントの重要ポジションを演じたサイオンジがトップ当選を果たし、首相指名を受ける。
コントで、いきなりアンパンマンの声まで披露した戸田恵子にはびっくりしたけれど、最大のびっくりは、彼女が演じた八千草ルリ子が実は東京地検の検事で、総選挙終了後、ナガイとアイカワを贈収賄容疑で逮捕してしまったことである。
この「喜劇」で唯一のシリアスなシーンと言っていいであろう、スズキと芸名八千草ルリ子との別れのシーンで、戸田恵子が台詞を噛んでしまったのが惜しい。惜しいけれど、可笑しい。
もう一つ、シリアスなシーンがあったとすれば、サイオンジにスズキが「記憶力回復のために円周率を覚えろ」と命じ、その成果を見せると称して、伊東四郎が小数点以下100桁までの円周率を暗唱したシーンである。
カーテンコールで言っていたけれど、カンペもプロンプもなく、本当に覚えたのだということだった。伊東四郎71歳。見事である。
確か、この選挙は1議席差で彼らの党が勝っていて、アイカワ氏は比例区での当選という話が出ていたからいいとして、ナガイ氏はどう考えても小選挙区から出たんじゃないかな、だとすると補欠選挙の対象になるから、議席は与野党同数になるんじゃないか、そうなるとサイオンジは内閣総理大臣になれるのかという疑問も浮かぶのだけれど、ラストシーンはとにかくサイオンジの就任会見である。
しかし、サイオンジは記憶力が激しく減退しているのであった。
最後「品格を取り戻せ!」だったか「取り戻す!」だったかと叫んで幕である。
何というか、ストーリーが破綻しないのが不思議なくらいの、小技に飛び道具、アドリブに最終兵器までが飛び交うまさに「喜劇」の舞台である。
そんな中、恐らくは暴走しまくっていただろうこれだけの「喜劇役者」を向こうに回し、違和感なく彼らの「アドリブ」が終わるのを待ち続けた坂田鉄平と河本千明という2人の若手(ではないのかも知れないけれど、この面子の中に入るとかなり若い)の役者さんが、実は最高殊勲選手なんじゃないかと思う。
アドリブを炸裂させているところに、そのアドリブの邪魔にならないよう、不自然にならないよう、かつ素で笑ったりしないよう待つというのは、高級難度の技なのではないかと、ついじーっと注目してしまった。
カーテンコール1回目は、伊東四郎が「昨日のアンケートから」と言って、何人分かの「面白い」アンケートを読み上げていた。
心なしか、終演後、熱心にアンケートを書いている人の姿が多かったように思う。
アンケートを書いてくださいとアナウンスするよりも、ずっと確実かつ見事な誘導である。
手拍子は止まず、春風亭昇太師匠の小話、三宅裕司の小話とカーテンコールが2度続き、お開きとなった。
可笑しかった。
ひたすら笑い続けた「喜劇」だった。
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