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2008.07.20

「シンベリン」を見る

子供のためのシェイクスピア「シンベリン」
作 ウィリアム・シェイクスピア
翻訳 小田島雄志
脚本・演出 山崎清介
出演 伊沢磨紀/佐藤誓/山口雅義/戸谷昌弘
    土屋良太/石村みか/若松力/山崎清介
観劇日 2008年7月20日(日曜日)午後2時開演
劇場 あうるすぽっと A列10番
料金 4800円
上演時間 2時間25分(15分間の休憩あり)

 ロビーでは、パンフレット(900円)や、ポスター(300円)が販売されていた。
 パンフレットはかなりかなり迷ったのだけれど、購入しなかった。実は今でも「やっぱり買っておけばよかったかも」と思っている。

 その他、韓国公演が決まった旨のお知らせも張り出されていた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 全くいつもの「子供のためのシェイクスピア」の世界だった。
 これはもちろん褒め言葉である。
 それなのに、うっかりと忘れていて、開演前のイエローヘルメッツのステージを見損ねたのが返す返すも悔やまれる。

 幕の降りていないオープンなステージ、シンプルかつ頑丈そうな(中学校の美術室にあったような感じの)木の机と椅子、黒い衣装に帽子を被ってクラッピングで登場する役者さんたち。
 一瞬で懐かしい世界に入れる。
 クラッピングの音がした瞬間、隣に座っていた小さな女の子が姿勢を正し、ピタリとおしゃべりを止めていた。いい子だ。

 それでいきなり、「キスをした」で始まるから驚いた。
 えー、子どもも見ているのにいいの? というくらい、若松力演じるポステュマスを囲む黒づくめの人々がささやき声で語るその様子は妖艶である。
 このシーンそのものはもちろん妖艶ではないのだけれど、そういうイメージを喚起する。
 驚いた。

 「シンベリン」を見るのはもちろん初めてで、そういえばシェイクスピア劇のタイトルは人名であることが多いのだけれど(「ハムレット」とか「リチャード3世」とか)、この「シンベリン」もやっぱり人名で王の名だった。
 でも、この「シンベリン」という王があまり活躍しないのはどういうわけだろう。

 佐藤誓演じるシンベリンには前王妃との間に息子が2人、娘が1人いる。しかし息子2人は20年前に行方不明となり、石村みか演じる娘のイモージェンと、伊沢磨紀演じる現王妃の連れ子である、戸谷昌弘演じるクロートンを結婚させて跡を継がせようと思っていたら、イモージェンはポステュマスと結婚してしまう。
 この辺りは、現王妃は意地悪そうだったり、その連れ子はどうも頼りなく阿呆そうだったり、娘は清らかで純粋で、その結婚相手は何だかんだいいつつもいい奴そうで、おとぎ話の世界かと思うくらいに類型的である。

 それが、ポステュマスがブリテンから追放されてローマに行き、そこで出会った山口雅義演じるヤーキモーと、「自分の妻の貞淑さ」を賭ける辺りから不穏な空気が漂い始める。
 このヤーキモーという男がまた、自分の色男振りに自信もあるのだろうけれど、それ以上に腹黒そうな、目的のために手段を選ばなさそうな顔をしているのである。

 シェイクスピアなのだから最後は大団円のハッピーエンドの筈だと信じつつ(この場合、「ハムレット」や「ロミオとジュリエット」は頭に浮かばなかった)、もの凄く嫌なものを見せられるんじゃないかという感じがして、このお芝居を見るんじゃなかったと思うくらいドキドキはらはらしてしまった。

 そしてやっぱりヤーキモーはイモージェンの寝室に忍び込み、部屋の様子をつぶさに観察し、彼女がポステュマスから贈られた腕輪を盗み、彼女の胸元にほくろが5つあることを確認する。
 書きかけの手紙まで盗まれたら、普通気づいて起きるだろう!
 起きた後、ポステュマスが残していった従者の土屋良太演じるピザーニオに「腕輪を探せ」と命じていたけれど、いや眠っていた間に手紙もろとも盗まれたと気付け!
 イモージェンにはぜひそう言ってやりたいと思う。

 さらに、このヤーキモーの策略にまんまと引っかかったポステュマスが逆上して、イモージェンをののしり始め、ピザーニオにイモージェンを殺せと命じた辺りから、あまりといえばあまりの展開にドキドキしなくなった。
 ポステュマスのような男を婿にしてイモージェンはいいのか?
 ここまでハチャメチャにするのなら、間違いなく最後は大団円である。

 その後の展開は、何だかご都合主義の権化であるシェイクスピアの面目躍如といった感じである。
 20年前にシンベリンが追放した男が実はそのときに王子2人を誘拐し、自分の息子として育てている。そこにピザーニオにポステュマスの逆上を知らされ、さらに男装して山崎清介演じるローマの将軍に使えてローマへ行けと言われたイモージェンがやってくる。イモージェンを追ってきたクロートンは弟王子に首を落とされる。

 シンベリンはローマと戦って勝ち、クロートンを失った王妃は数々の罪を告白して亡くなる。
 戦争で活躍した王子2人は育ての父から正体を明かされてシンベリンと再会し、王子2人が現れたためか戦争でシンベリンの命を救った手柄があったためか、ポステュマスとイモージェンの結婚はいつかなし崩しに認められている。
 シンベリンが「また、新たな事実があるのか!」と叫んだ気持ちがよく判る。

 濡れ衣を着せられていた臣下、男装するお姫様、追放される王子様、ダメそうな男と結婚させられそうになるお姫様、悪徳王妃様、高潔な将軍、飲めば仮死状態になる薬。
 クロートンと兄王子、ヤーキモーと王子2人の育ての親、ローマの将軍と薬を調合した医師がそれぞれ2役だったものだから、最後の「新たな事実が!」のシーンでは、「物陰から見ておりました!」と叫んで走ってくることが繰り返されて、これは昨日見たばかりのような気もするのである。
 早変わりはともかくとして、「シンベリン」は、何だかシェイクスピア劇のどこかで出会ったような「何か」がとことん散りばめられて構成された物語だった。

 その「シンベリン」という馴染みはないけれどいつかどこかで見たご都合主義の集合体のような物語を「魅せて」しまう子供のためのシェイクスピアカンパニーの力量は、見事としか言いようがない。

 ところで、しつこいようだけれど、どうしてこのお芝居に「シンベリン」というタイトルが付いているのだろう。
 他の誰が主役かと聞かれると困るのだけれど、シンベリンではないように思うのだ。

 シェイクスピア人形の今回の役どころは、雷鳴の神ジュピターだった。
 最初のクラッピングでの登場シーンにいなかったので「今回はまさか出番がないのでは」と心配したのだけれど、再会できて嬉しかった。

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