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2008.07.27

「五右衛門ロック」を見る

SHINKANSEN☆RX「五右衛門ロック」
作 中島かずき
演出 いのうえひでのり
出演 古田新太/松雪泰子/森山未來/江口洋介
    川平慈英/濱田マリ/橋本じゅん/高田聖子
    粟根まこと/北大路欣也/他
観劇日 2008年7月26日(土曜日)午後6時開演
劇場 新宿コマ劇場 26列84番
料金 12500円
上演時間 3時間30分(20分間の休憩あり)

 ロビーではもちろんグッズや過去上演作品のDVDなどが山と販売されていた。意外と売場が空いていたのは、東京公演も終盤でリピータの観客が多かったからのように見受けられた。
 コマ劇場の客席が、満席とは言わないけれどほぼ埋まっているのだから素晴らしい。

 流石に26列目(本当に26列目だった)の席となるとオペラグラスが役に立ったけれど、なくても問題なかったと思う。

 閉館が決まっているコマ劇場に行くことは多分もうないと思う。
 そう思って見ると、天井がはがれかけているように見えるところもあり、かなりガタが来ているのは確かなようだ。
 でも、段差がかなりあって後方の席でも舞台は見やすいし、扇形に広がる客席なので端の方にいても舞台が見やすい。なくなってしまうには惜しい劇場だと思う。

 ネタバレありの感想は以下に。

 古田新太が石川五右衛門を演じるというところで、すでに面白くなるのは決まったようなものだ。
 どちらかというと、今まで演じていなかったことの方が不思議なくらいだ。
 そして、舞台上で見得を切り走り回る古田新太は、どうしてあのメタボ決定のような体型にも関わらず色気たっぷりで格好良すぎるくらい格好良く見えてしまうのか。毎度のことながら謎である。

 中島かずきの筆の冴えも相変わらずで、石川五右衛門が伊賀の抜け忍だったという説や、石川五右衛門について書き残したアビラ・ヒロン(貿易商)やペドロ・モレホン(イエズス会宣教師)の名前を、さりげなく「月生石」探索を石川五右衛門に依頼するスペイン人武器商人の名前に使う、釜ゆでの刑に処せられる石川五右衛門を捕縛したのは前田玄以であったことなど、史実を少しずつ正確に混ぜることで、全体の大嘘を見事に隠しおおせる(というよりも、気にしようという意欲を失わせる)荒技を使いこなして危なげがない。
 だから、新感線の舞台は面白いし、ずーっと引き込まれてしまうんだよなと思う。

 石川五右衛門は、あわや釜ゆでの刑というところを松雪泰子演じる真砂のお竜という峰不二子を地で行く女に助けられ、彼女の手引きで川平慈英演じるペドロら武器商人からの依頼で、南方の海にあるというタタラ島でだけ産出されるという月生石を奪うという仕事を請け負う。
 月生石って、音で「ゲッショウセキ」と聞いていたときは、てっきり「月晶石」だと思っていた。

 タタラ島に向かう途中、銭形警部を地で行くような江口洋介演じる岩倉左門字に追っかけられ、追いつかれた途端に嵐に遭い、岩倉左門字と五右衛門は都合よろしくタタラ島に流れ着く。
 ここで、まずタタラの兵と一戦。
 五右衛門と左門字を縄でつないだままの殺陣なのだけれど、これが面白い。
 「縄がほどけない」とギリギリまで嘘をついて、実は刀も隠し持っていた左門字が、人がよい単細胞の熱血役人というだけじゃない人物だと判るというオマケつきである。

 タタラ島を狙っているのはスペイン人だけではなく、橋本じゅん演じるバラバのボノー将軍と濱田マリ演じるその奥方もなかなか「マクベス」な感じを醸し出している。そこに森山未來演じるこのタタラ島のカルマ王子が身を寄せているのもなかなか因縁ありげである。
 このボノー将軍も、カルマ王子に北大路欣也演じるタタラの王クガイのところまで切り込ませておいて、彼の乳母に裏で手を回して裏切らせるなど、これまた単純莫迦ではない策士なところも見せる。
 お竜はあっという間にクガイの側近のような立場に付いており、口先三寸で世の中を渡ってきた峰不二子ぶりを存分に発揮している。

 要するに登場人物は全員揃って裏があって腹黒くて何やら思惑があるようである。

 かなり歌が入るし、その歌詞がかなり重要なことを伝えているのだけれど、殺陣のシーンでタタラの兵の衣装で歌っていた人(申し訳ないが、お名前が判らない)と松雪泰子の歌が、歌声が割れてしまって歌詞がよく聞き取れない。この2人が歌うシーンは結構多かったので、もしかして舞台の重要な秘密やモチーフを私は最後まで気がつけなかったのじゃないかという気もする。

 高田聖子はいつ登場するんだ、まだ見ていないぞと思っていたら、一幕の最後に五右衛門が月生石の採掘現場に連れて来られて掘り出す仕事に就かせられようというところで、その人足たちの監視役なのか隊長役としてなのか、彼女が登場してちょっとほっとした。
 役名がインガだというのも、因果である。
 役名の意味を考えるのも楽しい。

 楽しいといえば、この2人が競う意味は何もないのに川平慈英のペドロと森山未來のカルマ王子がタップダンスで戦っているところも楽しい。
 彼らですら拍手を客席に求めて巻き込んでいたのに、江口洋介の左門字はタタラの島民と歌うシーンでギター1本でフォークソングを歌っているときに自然に拍手を起こさせていた。この客席は江口洋介ファンが多いのか? とヒネクレ者の私は思ってしまったくらいだ。

 二幕に入ると、織田信長の家臣であったクガイは伊賀を攻め、そのときに五右衛門をかばって死んだと思っていたシラナミが今はインガと名乗ってクガイと共にいる。
 タタラ島にクガイが来る前から住んでいた島民はみな穏やかで歌を愛し、ほわ〜んと暮らしている。皆殺しにしたはずのクガイが彼らに食べ物を与え、楽器や衣服も与えているらしい。
 月生石の採掘場で牢に閉じこめられていた男たちは心を失い凶暴極まりない。彼らを皆殺しにしたインガは、これが月生石の恐ろしさであり、さらに中毒が進むと意思のない穏やかなだけの人間になってしまうのだと語る。
 スペイン人と手を組んだボノーらは、クガイに銃弾を浴びせ、お竜が窮地を救ったものの、その隙に総攻撃をかけようとする。

 この辺りから俄然物語は最後の一点を目指して収斂し始める。
 カルマ王子の母親は月生石の中毒となり自分からクガイ王に切られて死ぬことを望んだこと、クガイが兵や島民を恐怖政治で押さえ込んだのは月生石中毒にさせないためであること、クガイの目的は月生石のあるこの島を沈めてしまうことであること。
 次々と明かされる真実に、王になるためにクガイが母を殺したと信じていたカルマ王子はクガイに付き、そんな特殊な石を持ち帰ることが秀吉への忠義だとペドロに吹き込まれていた左門字も「おまえらのやり方は気にくわない」と「情によって」クガイに味方する。
 五右衛門は、シラナミへの借りを返すためにクガイに味方する。

 恐怖政治で島民を押さえつける悪の権化のように描かれていたクガイが瞬く間に善人というのか、「損をすると判っているのに必要なことを的確に処理する男」に変わっていく。実際のところは、クガイが変わるわけではなく、彼に対する見方が変わるだけなのだけれど、そうした「変化」を目の当たりにすると、クガイが月生石中毒になった島民たちに「もうすぐこの島は沈む」「おまえたちはこの島でしか生きていけない」「だからこの島とともに沈め」と言い聞かせていたことも許せるような気がしてくるのである。

 スペインの砲撃開始とともに、月生石の採掘場に仕掛けられた火薬が爆発し始め、島は沈み始める。
 撃たれた傷が治りそうにないクガイと、「クガイと心中する気はないけど、もう少し寝顔を見ていたい」というインガを残して、あっさりと五右衛門とお竜が去るのはいいとして、何故カルマ王子まで一緒になって全く未練のない様子で去ってゆくのか。

 そして、沈みゆく島のシーンで1回だけ、コマ劇場の二重回しの盆を使うところが憎い。
 ちょうどデコレーションケーキのように、一番上にクガイ王が眠り、その周りの一段低いところに昔から住んでいた島民達が並び、高さが上がった分を海の絵で隠すことで「沈みつつある島」を表現する。
 最初の頃から、舞台を円形に走り回ったり、衝立のようなものを滑らせたり円を描くように動かすことで場面転換したりしていたので、使おうと思えば使えるシーンはいくらでもあった筈である。
 それを最後の最後に1回だけ使うというのも潔い、格好良い使い方だなという風に思った。

 タタラの島とクガイは沈み、「インガ隊長が五右衛門のダンナに付いていけば食いっぱぐれはないと言って」という台詞から、インガも恐らくはクガイと共に沈んだのだろう。
 二重にインガの恋敵であった、かも知れないお竜は、島からちゃっかり宝石を盗み出し、空飛ぶ翼もクガイから譲り受け、「海賊になるか」という五右衛門の船から飛び立つ。
 そこにたらい船に乗った左門字が追いかけてくる。

 そこで幕である。

 もう、本当に楽しかった。
 舞台は遠いし広いし、それなのに「対岸で起こっていること」という感じがほとんどない。その世界に完全に招き寄せられ、入り込んでドキドキはらはらしてしまう。
 これだけ「掴む力」の強烈な劇団は他にないのではなかろうか。
 お芝居の中で悲しいことも理不尽なこともたくさんあったのだけれど、でも残っているのは「カタルシスを味わった」という確信だけである。

 カーテンコールが3回。
 最後にはほぼ全員でのスタンディングオーベイションになっていた。

 面白かった。
 こういう「謎が謎を呼ぶ」お話と大団円の結末と格好良い役者さん達(五右衛門とお竜と左門字とカルマ王子の4人で円を描きつつ代わる代わる見得を切るところなんて、格好良すぎだった)が作るお芝居、大好きである。

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コメント

 ガマ王子さま、コメントありがとうございます。

 五右衛門ロック、楽しかったですねー。
 私はたくさんあった殺陣も含めてスカッとしました(笑)。

 それよりも、歌詞が聞き取れない歌の方が気になったかなぁ。
 新感線の役者さんはもちろんですが、森山未來と江口洋介のお二方がきちんと歌詞を最後列に近い私の席の辺りまで届けていたのは見事だと思います。失礼ながら見直しちゃいました。

投稿: 姫林檎 | 2008.07.28 22:32

新宿コマはこんどはじめてプロレスやるらしいですよ(笑)

五右衛門ロック痛快でしたね~チケット代高いだけある!
殺陣が多すぎなようなきがしませんでした?
IZOでも感じたのだけど^^;

それ以外は楽しかったです^^

投稿: ガマ王子 | 2008.07.28 20:12

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