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「SISTERS」
作・演出 長塚圭史
出演 松たか子/鈴木杏/田中哲司/中村まこと
梅沢昌代/吉田鋼太郎
観劇日 2008年8月2日(土曜日)午後2時開演
劇場 パルコ劇場 M列29番
料金 8000円
上演時間 2時間30分
ロビーではパンフレット等が販売されていたのだけれど、10年振りくらいで会う友人とバッタリ(しかも御手洗いで)再会し、あまりにもびっくりしたのでチェックし忘れてしまった。
本当に驚いたなぁ。
彼女の嗜好とは違うはずと思っていたら、旦那様が松たか子のファンなのだそうだ。旦那様にも初めてお目にかかってしまい、二重三重に驚いたのだった。
友人との再会はともかくとして、ネタバレありの感想は以下に。
公演が始まってからでもチケットが割と入手しやすそうなのが意外だったのだけれど、千秋楽前日の今日でも僅かに空席があるのが意外だった。
長塚圭史の1年間のイギリス留学前最後の舞台だし、このある意味クセのある出演者陣なのに、何だか地味な感じだったのが意外だった。
舞台は日本の田舎のホテルである。
中村まこと演じるオーナーが「こんな田舎のホテル」を連発していたから間違いない。
そのホテルの一室が舞台で、その部屋の感じから、最初は何となく外国物なのかと思っていた。
ジャリというのか、ザラというのか、真っ暗闇で聞くにはかなり不気味な音を響かせつつ部屋の柱をタワシで洗っている梅沢昌代演じる稔子と、そこにやってきた客である松たか子演じる馨との会話を聞いているだけだと、そこが外国なのか日本なのか、彼らはひょっとしたら外国人なのかも知れないと思っていた。
日本のホテルを舞台にした日本人が出てくる物語だと確信できたのは、馨が稔子に「尾崎の妻の・・・」と言ってからである。
田中哲司演じる尾崎は、オーナーの従兄弟である。オーナーの妻の操子(みさこと発音されていたと思う)が突然自殺し、彼女が切り盛りしていたレストランを何とか続けようと、東京でビストロを開いている尾崎に助けを求めたということらしい。
尾崎と馨は新婚旅行を終えたばかりのようなのだけれど、馨の様子は明らかにおかしい。生来のものなのか今だけなのかはよく判らないのだけれど、見るからにエキセントリックである。不安定というのか、ピリピリしているというのか、ちょっと近寄りたくない感じだ。
別の意味で不安定でピリピリしているのが、吉田鋼太郎演じる操子の兄の神城と、鈴木杏演じる神城の娘の美鳥である。
こちらは2人まとめて一触即発という雰囲気を漂わせている。
曲者のオーナーは助けを求めた割りに自分は何もしようとしないし、どちらかというと東京で成功した従兄弟の尾崎を妬んでいるようにも隙あらば引きずり下ろしてやろうと考えているようにも見える。
稔子は親友だった操子の死のショックから立ち直れていない。
馨と神城親子はピリピリしているし、比較的、安定した状態を保っているのは尾崎一人で、彼が一人でこのホテル全体を覆っている不安定さを支えきれる訳がない。
「あったことをなかったことのように語るのは難しい」と馨が繰り返していたから、美鳥が語った、尾崎夫妻に提供された部屋が操子が首を吊った部屋なんだという話は本当なのだろう。
馨と美鳥が親しくなり、尾崎と馨の新婚旅行で「何か」があったらしく、神城親子が尋常でなく密着しているということが少しずつ語られてゆく間に、馨と美鳥が抱えている問題も少しずつ、でも割とあからさまに提示される。
馨には亡くなった妹がいて、彼女と美鳥を重ねているようだ。
馨は美鳥に執着し始め、尾崎の実家に行くのを止めて自分だけホテルに居残ると言い始めたりする。
そして、本当に馨だけがホテルに残り、まず彼女は美鳥と対決する。
美鳥が不安定だったのは妊娠しているためで、操子が自殺したのは、美鳥の妊娠と赤ちゃんの父親が誰かを知ったためだとここではっきりと提示される。
同時に、馨自身の過去も馨の口から語られる。
そこにはいつの間にか床に水が浸みだしてくる。
美鳥を洗面所に追いやって、馨は神城がいかに空っぽかをはっきりさせてやると、神城と対決し始める。
どうして水浸しにしなくてはならないのか、それは現実に馨と神城が水浸しの部屋で対決しているということなのか、それとも何かの「象徴」であって実際には乾いた部屋での出来事なのか。
馨が尾崎の包丁を振り回し、高校生の頃の美鳥を追い詰めたオーナーを殺してしまうのは、現実ではあり得ないけれどかといって夢の中のできごととも思えない。
神城と対決している馨は余りにも弱そうで、びしょぬれで耳を手でふさいで神城の大声が聞こえないように震えていたり、神城が一歩前に出ると二歩後ずさったり、この弱さが実際に弱いのか、最後の最後で大逆転をするための計算なのか、もっと強くなってよ、と叱りつけたくなる。
あなたは美鳥を助けよう、そのことで自分のせいで死んでしまった妹を助けられなかったことから少しでも自由になろうとしているんでしょ、と叱りとばしたくなるのだ。
こんな神城なんて男は、あなたにとってのあなたの父親より全然怖くない存在でしょ、と言いたくなるのだ。
でも、やっぱり馨は弱い。
大反撃に出てすっきりするのかと期待していたのに、結局、美鳥の妊娠を馨が神城に告げると、その場の混乱は大きくなり、美鳥が現れ、馨の父親と馨の妹がそうしたように、神城と美鳥も(多分)心中してしまう。
水が張られたようになった部屋に赤い花がたくさん流されてきたのは「死」の象徴なのだと判る。
実は、申し訳ないことに、私には、神城と美鳥が何故死ななければならなかったのか、死を選んだのか、その理由が全く判らなかった。
多分、だからなのだと思うのだけれど、危篤の母親の病院に向かった筈の尾崎が戻ってきて、死んでしまった神城に「パパ」と呼びかけて泣き叫んでいた馨に、「家に帰ろう」と強くきつく言ったとき、馨の返事は「はい」という可能性もあるし「いいえ」という可能性もあるなと思っていた。
どちらかというと「いいえ」と答えるのじゃないかと思っていたのだけれど、たっぷりと溜めた後での馨の返答は「はい」だった。
そして、それは多分「希望」にちょっとだけ近い返答だったのだと思う。
それにしても、エキセントリックな人物を演じさせたらピカイチな役者さんばかりよくこれだけ集めたことである。
今回は「唯一の普通の人」を演じていた田中哲司も、私の中ではどちらかというと裏のあるというのか、影のある突然高笑いを始めるようなキャラのイメージが強かったりする。
そこに、長塚圭史の作・演出なのだから(というよりも、こちらが先にあった筈だけれど)、ひりひりして、わぁっと叫んで逃げ出したくなるようなお芝居になっているのは、ある意味では予想通りだし、準備もできていた筈なのに、やっぱりひりひりして逃げ出したくなった。
長塚圭史という人は、この「ひりひり」を狙って作・演出をしているのだろうか。それとも、彼が意識せずとも「いいものを作ろう」としていると自然と「ひりひり」した方向を目指してしまうということなのだろうか。
最後にふと思ったのだった。
松たか子一人勝ちにならなかったのは、もちろんそういう作・演出でもあったのだろうし、「妹」を演じた鈴木杏のキャラが被りそうで被らない強気の存在によるところが大きいのじゃないかと思う。
突然、この2人の「奇跡の人」を見てみたいと思った。
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