「シャープさんフラットさん」を見る
NYLON100℃ 32nd SESSION「シャープさんフラットさん」
作・演出 ケラリーノ・サンドロヴィッチ
ブラックチーム
出演 大倉孝二/犬山イヌコ/みのすけ/峯村リエ
長田奈麻/植木夏十/喜安浩平/大山鎬則
廻飛雄/柚木幹斗/三宅弘城
ゲスト 小池栄子/坂井真紀/住田隆/マギー
観劇日 2008年9月27日(土曜日)午後1時30分開演
劇場 本多劇場 P列1番
料金 6800円
上演時間 2時間40分
ブラックチームとホワイトチームがあって、大倉孝二と三宅弘城は両方に違う役で出演するけれど、全キャスト総入れ替え、結末も違うというお芝居である。
私は、残念ながらこちらのブラックチームのチケットしか取ることができなかった。
パンフレット(2500円)や過去の上演作品のDVDが販売されていたけれど、購入しなかった。
ネタバレありの感想は以下に。
作・演出のケラリーノ・サンドロヴィッチの自伝的な物語なのだそうで、確かに大倉孝二演じる主人公の辻煙は、劇団の座付き作家で、放送作家の仕事もしているらしい。
彼の子どもの頃から、1990年代に劇団の仕事を放り投げてサナトリウムに入っていた辺りまでの人生を描いているのだけれど、その中心はサナトリウムでの生活である。
時の行ったり来たりも多分ケラ作の芝居としては異常なくらい少なくて、自伝的と銘打っているだけのことはあって、何というか登場人物も舞台も、非常に「現実」に近い。突然(あるいは気づかれないようにゆっくりと)時空がぐにゃと歪むようないつもの世界観はなりを潜めている。
せいぜいが、作家の頭の中の想像が現実世界に流れ出してしまうくらいである。
そういうわけで、私にとってはかなり取っつきやすい舞台だった。
P列1番という席は、本多劇場の最後列の端っこで、この舞台までの距離感が逆に幸いしたような気もする。舞台に近いと、このお芝居のインパクトに負けていたかも知れない。
それでも、見ながら思っていたのは、やっぱりケラさんのお芝居は負の感情を刺激されるなということだった。
私自身がけっこう今、職場の人間関係で凹んでいるせいかも知れないのだけれど、何というか、自分のダメなところとか、悪いところとかが次々と頭に浮かんできて、それがちっとも建設的な方向に進まないのだ。
「あぁ、あれもダメだったな」「あれはいけなかったな」ということは次々と鮮明なイメージとして頭に浮かぶのだけれど、「そこを反省しよう」とか「あそこはこういう風に改めよう」といったイメージは頑として浮かんで来ない。
自分は駄目な人間である。
そういう認識だけが、ドーンともの凄い大きさと重さでのしかかってくる感じなのだ。
本当に、舞台から遠い席で良かった。
小さい頃の母親との関係から、小池栄子演じる美果との同棲生活、劇団を主宰していたのに公演直前にサナトリウムに脱出してしまったこと、そこでの生活が描かれる。
ブラックチームとホワイトチームで結末が違うというのだから、完全に事実を語っているわけでも真実を語ろうとしているわけでもないと思うのだけれど、「本当にあったことかも」と思ってしまうとさらにこのお芝居の痛さは倍増する。
劇団は喧嘩別れした元劇団員が演出を引き継ぎ、公演を打ち、客の受けも非常にいい。
けれども、突然劇団を放り投げた辻煙をなじりに来た役者も、ちょっと変わった旗揚げメンバーも「面白くなくなった」「何だか違う」と辞めて行こうとしていたのだと描くのは、作家の弱気の表れなのかもという気もする。
ここでちょっとだけ自己弁護に匂いを感じるのは、狙ったのか、はからずも出てしまったのか。
「世の中に笑っちゃいけないことなどないんだ!」と辻煙本人に叫ばせることはせず、同じサナトリウムに入院している父親を見舞いに来た娘に「あの人がそう言っていた」と言わせる。
劇団の旗揚げメンバーの小学校時代の同級生がサナトリウムで働いており、旗揚げメンバーが「世の中に普通の人などはいなくて、みんなが少しずつずれている」というようなことを小学校の卒業文集に書いていたのだとその彼女に言わせる。
しかも、その作文のタイトルが「シャープさんフラットさん」なのだという。
ストレートなのか一ひねりも二ひねりもしてあるのか、何だかよく判らないけれど、多分、このお芝居の肝はこの2つの台詞に込められているのだと思う。
ラストシーンで、サナトリウムに入院していた末期癌の元コメディアンが亡くなってしまう。
書き下ろしの新作を書くと約束したのにやっぱり書けないと言い出した辻煙を責めに来た劇団員たちと一緒に来ていた美果が、帰り道に自動車事故に遭う。
そう聴いても、辻煙と、元コメディアンの相棒だった女性と、「笑いのセンスが合う」2人はお互いに相手を笑わせようとし、笑い続ける。
そして、照明が消える。
このラストシーンを見て、「世の中に笑っちゃいけないことなどない」のではなく、「世の中に笑い飛ばしちゃいけないことなどない」のではないかと思った。
というか、私に許せるのは「笑い飛ばす」ことまでで「笑いにする」ことではないな、と思った。
私がケラさんのお芝居を苦手としている原因はここだったのかも知れないと思う。
相変わらず舞台と映像とのマッチングが凄い。
オープニングや役者紹介に使うだけではなく、暗転はもちろんのこと、何というか映像を舞台セットの一部として使い、背景の一部として使い、その中に役者さんもこっそり登場させたりしている。
ときどき、それが生身で舞台に乗っている役者さんなのか、映像で投影された役者さんなのか、迷ってしまったくらいである。
ホワイトチームも見たかった。
それは本当である。
| 固定リンク
「*芝居」カテゴリの記事
- 「骨と軽蔑」の抽選予約に申し込む(2023.12.04)
- 「連鎖街のひとびと」を見る(2023.12.03)
- 「リア王」の抽選予約に申し込む(2023.12.02)
- 「無駄な抵抗」を見る(2023.11.26)
- 「ねじまき鳥クロニクル」を見る(2023.11.19)
「*感想」カテゴリの記事
- 「連鎖街のひとびと」を見る(2023.12.03)
- 「無駄な抵抗」を見る(2023.11.26)
- 「ねじまき鳥クロニクル」を見る(2023.11.19)
- 「ガラスの動物園」「消えなさいローラ」を見る(2023.11.12)
- 「終わりよければすべてよし」を見る(2023.10.28)
コメント