「サド侯爵夫人」を見る
「サド侯爵夫人」「女方:篠井英介×演出:鈴木勝秀」シリーズ
作 三島由紀夫
演出 鈴木勝秀
出演 篠井英介/石井正則/小林高鹿/山本芳樹
天宮良/加納幸和
観劇日 2008年10月18日(土曜日)午後1時開演
劇場 東京グローブ座 E列25番
料金 8000円
上演時間 2時間45分(10分、15分の休憩あり)
ロビーではパンフレット(1200円)が販売されていた。
東京グローブ座に久しぶりに行ったら、ロビーのカフェが新しくなっていた。白を基調とした内装になり、ロビーの中で浮いているような気がしなくもないけれど、その一角が新しく明るくなったことは確かである。
ネタバレありの感想は以下に。
シェイクスピアゲキのオールメールシリーズをそういえば先週見たばかりなのだけれど、図らずも今週も出演者が全員男性というお芝居を見ることになった。
しかも、こちらは登場人物6人が全て女性だし、席が舞台に近かったので、迫力もいや増そうというものである。
「サド侯爵夫人」は前に見たことがあって、でも「見たことがある」ということと、サド侯爵夫人ルネを高橋礼恵が演じていたこと、舞台の照明が非常に暗かったこと、舞台を挟む(囲んでいたかどうかまでは自信がない)形で客席が作られていたことしか覚えていない。
つまり、ストーリーは全く覚えていなかったということが、今日になって明らかになった。
多分「サド侯爵夫人」というこの戯曲は徹底して「台詞劇」として書かれているのだと思う。
そして、恐らくその戯曲にこの舞台は恐ろしいくらいに忠実で、ドレスが動きにくいということだけでなく、動きは徹底的に刈り込まれ、台詞が途切れることなく流れ出す。
申し訳ないのだけれど、その台詞が途中で全く入ってこなくなる時間がある。多分、役者さんと私と両方のバイオリズムが一致して低くなったときなんじゃないかと疑っているのだけれど、どうだろう。単なる私の集中力不足のためかも知れない。
どうして三島由紀夫がフランスを舞台にしたフランス人のそれも女性しか登場しない戯曲を書いたのだろう。
最初は「翻訳劇だから言葉が入ってこないんだわ」と勝手に思っていたのだけれど、途中でハタと書き手が日本人だということに気がついた。
観客にも教養が必要なのだと言われたら返す言葉もない。
サド侯爵は、「サディズム」という言葉の語源となったくらいの人で、それがために投獄される。
その侯爵と「離婚しない」と言い張り、自由の身にしようと奔走するルネは、ルネの幸せを願う母との対立と和解を繰り返す。
サド侯爵の「性癖」がルネにも向けられていたことを知った母は激怒し、「貞淑」という言葉を何度も発するルネを責めるのだけれど、それが加納幸和演じるルネの母であるモントルイユ夫人が言いつのるほど悪徳には感じられない。
女性の役を男性が演じることで、意外なくらい淡泊に仕上がっていたのではないかと思う。
もっと女の人ってドロドロしているし、艶っぽいし、悪賢いし、したたかだし、天宮良演じるサン・フォン伯爵夫人だってもっと肉欲的で肉惑的でいいし、小林高鹿演じる妹のアンヌだってもっと意地悪で打算的でいいように思うのだ。
逆に、ルネと石井正則演じる最後には修道女になっているシミアーヌ男爵夫人の一見した淑女ぶりは、やけにハマっているように感じられる。
男性が女性を演じるときに、悪女を演じるより聖女を演じた方が似合うなんて、ちょっと意外である。
恐らくモントルイユ夫人は「常識的」な上流社会の典型的な住人として描かれていると思うのだけれど、あまりにも周りに個性的な女性が集まり、そこに「サド侯爵」などというスパイスまで加わって、ひどく俗に見えてしまうのは気の毒である。
そのモントルイユ夫人とルネという2人を、加納幸和と篠井英介という2人の女形で見られるというのはなかなか得難いし、迫力だし、倒錯的(というのはこの場合合っている言葉なんだろうか)だ。
物語の始まりから18年後、フランス革命が始まり、サド侯爵は釈放される。
今日明日にもパリのモントルイユ夫人宅に来るというのに、ルネは修道女となっているシミアーヌ男爵夫人に頼んで自分も修道女になるという。
「あと1ヶ月で出られる」という連絡を受ける前までは、月に一度の差し入れも欠かさずに出かけていたのにである。
サド侯爵が逮捕された頃のルネの「離婚しない理由」も判らなかったけれど、このときの「修道女になる理由」もよく判らなかった。
こういうとき、舞台上にいる人物も同じように判っていないらしいことは救いである。
でも、本当にルネは一体何を考えていたのだろう。
もの凄く単純な聞いてはいけない質問のようにも思えるのだけれど、ルネの人生は幸せだったんだろうか。そして、修道女になることで幸せに平穏に暮らせるのだろうか。
何だかよく知らない世界に放り込まれ、放り出されて、ぼーっとしてしまったのだった。
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