「思い出トランプ」 を見る
「思い出トランプ」 青山円劇カウンシル#2~Relation~/ONEOR8プロデュース公演
原作 向田邦子
[劇作・脚本 ・演出 田村孝裕
出演 田中麗奈/根岸季衣/八十田勇一/宮地雅子
弘中麻紀/中島愛子/野本光一郎/恩田隆一
和田ひろこ/冨田直美/阿知波悟美/山口良一
観劇日 2008年10月17日(金曜日)午後7時30分開演
劇場 青山円形劇場 Aブロック14番
料金 5500円
上演時間 1時間55分
そういえば、例えばパンフレットや原作小説の販売をロビーでしていたのだろうか。
気がつかなかった。
ネタバレありの感想は以下に。
円形劇場でも、完全に舞台を円として使って360度から見られるようにしていることは少ないと思う。円形でも何となく「こっちが正面」という位置がやっぱりある。
今回は、「こっちが正面」というのが割と明確に判る舞台セットで、Aブロックの一番(推定)Fブロックよりというほぼ正面から見ることができてラッキーだった。
最初のシーンはお通夜の後のようである。
恩田隆一演じる健太と冨田直美演じる奈美の夫婦が、健太の祖母の通夜の後、お線香を絶やさないように一晩ついていることになったらしい。
健太は「祖母との思い出」らしいトランプをコンビニで買ってきて、2人はババヌキを始める。
そして、場面はいつの間にか、健太の少年時代に遡っている。
舞台は、何というか割とよくある感じの昭和の家のイメージである。
お台所があって、流し台の上の蛍光灯は明るくなるまでちょっと時間がかかる。その台所から続きで畳の部屋があり、縁側がある。そこと繋がっているのか繋がっていないのか曖昧な感じで応接間っぽい空間があるのだけれど、ソファとテーブルではなく椅子とテーブルになっていて、あるときは学校の一室にもなる。
そこを、先ほどの夫婦が「外枠」のように最初と最後のシーンを演じる他、田中麗奈演じる英子と野本光一郎演じる夫の秀一、その息子の健太と根岸季衣演じる祖母との4人が暮らす家になったり、英子の実家である山口良一演じる宅次と阿知波悟美演じる厚子夫婦が暮らし、英子の姉である和田ひろこ演じるさゆりが時々やってくる家になったり、英子が子どもの頃から知っている八十田勇一演じる今里と宮地雅子演じるその妻恒子の家になったり、今里の愛人である中島愛子演じるつわ子が暮らすアパートになったりする。
落ち着いた出入りだし、お芝居自体のテンポもゆっくりめだし、何よりそれを狙っていないからそうは見えないのだけれど、よくよく考えると、人の出入りと照明のタイミングだけで場面を次々と展開していくその手法は「ベントラー・ベントラー・ベントラー」の綱渡りの展開とよく似ている。
あちらは「同じ場」でのタイミングのずれを大きく見せて笑いを取り、こちらは「違う場」であることをさりげなく示すためにやっていて目的は全く違うのだけれど、タイミング命で場を展開させているのは同じような気がした。
さまざまな家が出てくるのだけれど、流石に向田邦子で全く問題のない家などどこにもない。
英子は自分の不注意から息子の健太の指を包丁で切ってしまう。元々、上手く行っていたわけではない姑との関係はどうにもならないほどだし、気の小さい夫は母の言いなりで全く自分をかばおうとはしてくれず、家を出て実家に戻る。
実家では、父は脳卒中で身体がきかず、母はその父に内緒で家の庭にマンションを建てることを考えている。時々やってくる姉は生活が苦しいようだ。
その相談に出向いた不動産関係の仕事をしているらしい今里の家では、今里の浮気に常子が気がついて、部屋につわぶきの花を飾っている。そのつわ子と今里の関係は妙に歪んで見える。
成長した健太夫婦も、奈美が健太の父親から「子どもはまだか」と言われ「健太さんが欲しがらないんです」と本当のことを答えたのだと言うのだから、何か屈託があるのは間違いない。
とりあえず問題が表面上見えてこないのは、弘中麻紀演じる健太の担任である村瀬先生くらいである。
最初のシーンからずっと、英子は健太が怪我をした後家を出て、ずっと帰ってこなかったんじゃないかと思わせる。
でも、帰ったのである。
それは、秀一が英子に「戻ってきてくれ」と言えたからかもしれないし、村瀬先生からの呼び出しを姑の幸恵が英子に伝えたからかもしれないし、英子が言うように「大根の月が出ていたから」かも知れない。
伝法な口調でしゃべるようになった、30年後の英子の姿を見て、でもやっぱりほっとさせられた。
健太が子どもの頃に祖母とババヌキをしたトランプは、健太は捨てたのだという。
だからこそ最初のシーンで買いに行ったわけだけれど、そのトランプは祖母の部屋にあったという。
そして、そのトランプにジョーカーが入っていないと母に言われ、健太は初めて泣き出す。
この涙の理由が判らなかったのが、何とも悔しく残念だった。
多分、私が見落とすか聞き落とすかした理由があったのだろう。
伏線がかなり絡み合ったお芝居で、その伏線は多分「人情の機微」とでもいうもので、でも一番肝心な何かを掴み損ねた気がする。
原作を読んでみようと思ったのだった。
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