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2008.10.13

「The Diver」を見る

現代能楽集Ⅳ「The Diver」
作・演出 野田秀樹
共同脚本 コリン・ティーバン
企画 野村萬斎
出演 野田秀樹/キャサリン・ハンター
    グレン・プリチャード/ハリー・ゴストロウ
観劇日 2008年10月11日(土曜日)午後7時開演
劇場 シアタートラム K列2番
料金 6000円
上演時間 1時間20分

 ロビーで売られていたパンフレット(1000円、だったと思う)には袋綴じページがあり、倫敦公演の舞台写真が載せられているということだった。
 かなり惹かれたけれど、結局購入しなかった。
 あるいは、パンフレットを購入してインタビューなどを読めば、もっと判ったのかも知れないという気もする。

 ネタバレありの感想は以下に。

 舞台の両脇に電光字幕が立ち、台詞は前編ほとんどが英語である。
 野田秀樹も含め、日本語の台詞はほとんど話されていなかったのではないだろうか(ほとんど、ということなので、皆無ではなかった)。
 舞台は2つの空間に切られ、下手側に笛と太鼓と琴を演奏する方が羽織袴で控えている。

 舞台の始まりは、野田秀樹が読んでいた本をそのまま顔の前まで持ってくると、本の表紙には能のお面が描かれており、そのお面をつけてそれっぽい(としか私には言いようがない。ご存知の方が見れば恐らく何らかの型なのだと思う)動きが行われる。

 そこは取調室のようで、キャサリン・ハンター演じる女は「山中ユミ」という名で、放火犯として逮捕されているらしい。
 ハリー・ゴストロウ演じる検察官は彼女に責任能力があるかどうか気にして野田秀樹演じる精神科医に鑑定を依頼したけれど、グリン・プリチャード演じる署長はそのやり方に反発し、彼女は罪を逃れるために狂った振りをしているだけだと主張している。
 割とこの辺りの設定がステレオタイプなのも面白い。

 女と話すうちに、精神科医は、彼女が源氏物語の世界を騙っていることに気づく。
 彼女は六条御息所だったり、夕顔だったりする。
 六条御息所が「ROKUJO」と呼ばれるのに対し、夕顔が「EVENING FACE」と呼ばれているのが何だかアンバランスな感じがする。

 現実の精神鑑定の場面と、源氏物語の場面と、もう一つ海中の場面とが出てくる。
 これは源氏物語の世界の一部分のようにも見えるのだけれど、海中に宝物を落としてしまい、竜に奪われてしまい、それを彼女が取り戻すというモチーフが何度か繰り返される。
 その「宝」は彼女の子ども(彼女の意識の中では天皇の子どもらしい)のようなのだけれど、その辺は少しだけ曖昧にしてある。
 この繰り返される水中に潜り宝を取り返すというシーンからタイトルが取られているのも面白い。「取調室」でも「源氏物語」でもない。

 女はやっぱり「山中ユミ」で、逮捕された罪状は放火である。
 不倫していた相手の男の家を燃やしてしまった。
 最初の頃は、「2人殺した」と言っているので相手の男とその奥さんが死んでしまったのかと思っていたのだけれど、そうではなく、彼らの子ども2人が死んでしまったのだということが、劇の最終版に近づいた辺りで示される。
 彼女がそれでも「4人殺した」と言うのは、彼女が妊った彼の子どもを2回中絶しているからということのようだ。
 だから、源氏物語の中でも、六条御息所であり夕顔であり葵の上の場面を彼女は何度も演じることになったのだろう。

 字幕でも確かに判る。
 でも、同時に、話されている英語の台詞ではもっともっと他のことも語られているのである。
 電光字幕は、例えば歌を詠んでいるときは自体が活字っぽくなくなるというのか、行書体っぽくなるというのか、そういう風に工夫されていて、いきなり歌を詠まれても聞き取れる自信もないし、意味も判らないだろうと思うのでそれは嬉しい。
 でも、やっぱり字幕になったときに情報量は激減していると思うのである。

 「赤鬼」のときは、最初に日本語版があって、その後、英語版とタイ語版とともに再演された。
 「THE BEE」のときは、英語版と日本語版があって、その両方が上演された。
 「赤鬼」のときは、ある意味で「赤鬼」は言葉と生活習慣の違うストレンジャーであって、異国の人が演じることに判りやすい意味があったと思う。
 「THE BEE」のときは英語版を見なかったので全く的はずれかも知れないのだけれど、演出と出演者と「言葉」を変えて同じ戯曲を上演するということに意味があったんじゃないかという気がする。

 今回の「The Diver」は、「山中ユミ」だし、舞台は日本のようだから、他の登場人物の名前は判らなかったけれど多分全員が日本人である。
 日本人の役を日本的な舞台とモチーフを使って英語で演じることに、このお芝居のポイントは隠されているんだろうなと思う。
 というよりも、そう思わないと、英語の台詞をほとんど聞き取れなかった私としては「日本語で上演してくれないかな」と思わずにいられないのである。

 「THE BEE」のときは見終わって(見ているうちから)衝撃的だったし、その衝撃はストレートなものだったけれど、「The Diver」は、もの凄くゆっくりと何かが揺り動くのじゃないかという感じがした。

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