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2008.11.02

「学おじさん」を見る

「学おじさん」
作・演出 水谷龍二
出演 伊東四朗/平田満/片桐はいり/馬渕英俚可
    森本亮治/飯田基祐/吉田麻起子
観劇日 2008年11月1日(土曜日)午後2時開演
劇場 本多劇場 M列23番
料金 6500円
上演時間 1時間50分

 休日の昼公演でもチラホラと空席があるのが意外だった。勿体ないことである。
 値引きしたリピータチケットの販売も行われていたようだ。

 配られたちらし(でいいのだろうか)に写真付きで役名と役者さんのお名前が紹介されていたので満足し、パンフレットのお値段はチェックしそびれた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 

 50歳を目前にして勤めていた会社が倒産した、平田満演じる米村直也と、引っ越し先のアパートを探している片桐はいり演じるその妻和江との会話から幕が開く。
 2人は叔母の家に居候しているらしく、でもその叔母の存在感はない。
 息子に居候のくせに偉そうなことを言うなと言われ、2人は職と家を探しているらしく、この息子を特に和江は怖がっているようである。

 そこまで見せておいて、舞台は次の日。
 森本亮治演じる息子の克彦が、電話で誰かの指示を受けつつ、叔母の家から「金目の物」を盗み出そうとしている。
 そこに、とうとう(?)伊東四朗の登場である。

 この一行がまた怪しい。
 「先生」と呼ばれている伊東四朗演じる蓮見学が「学おじさん」なわけだけれど、そんなことは示されない。ただの怪しい空き巣狙い(にしては荷物が多すぎるし、服も目立ちすぎるけど)の風情で、留守と判っている家にとっとと上がり込む。確かにこの家のことを知っている風情で、最初は「叔母さんの前の住人かしら」と思っていた。

 そして、学おじさんを「先生」と崇めているのが、飯田基祐演じる一番弟子の青木と、馬渕英俚可演じる二番弟子の丸岡と、吉田麻起子演じる三番弟子の河辺である。
 いかにも落ち着いた物腰の青木と、いかにも気の強そうな丸岡と、ぎっくり腰になって歩くのも辛そうな河辺と、3人揃って学おじさんに心酔しているらしい。

 そこに和江が帰宅し、物語が本格的に動き出す。
 直也が帰宅してさらに事情が判明し、学おじさんは、彼ら夫婦が居候している叔母の元夫なのだそうだ。現在は金沢でスナック(バーだったかも)を経営しつつ、風水師として活動し、その風水の弟子兼スナックの従業員が3人、東京まで付いてきたということのようだ。

 彼らが東京に何をしに来たのかということは判らないまま、彼らは叔母の家に泊まることになり、次の日から「風水大作戦」が決行される。
 家の中心点が測られ、北方向にあった換気扇も彼らの手によってキレイに掃除され、東方向には赤いモノを置けと指示される。

 「200万円必要だ」と家にしょっちゅう現れる克彦と直也夫婦のやりとりで、学おじさんは彼ら一家の状況を察したようだ。気の強い丸岡は正面切って克彦に噛みつき、それを穏やかに制する青木が元ヤクザだということが河辺の口から明かされる。その河辺も丸岡と知り合ったのは刑務所の中でのことだという。
 何ものなんだ、学おじさん!

 赤いモノを置けと指示されて、和江の赤いクマのぬいぐるみを持ち出してきた直也は、その中に手紙と写真が隠されていることに気づき、それを見てしまう。
 その日の夜になって、「克彦とその写真の男が似ている」と言い出すのだから、話は深刻である。

 抱腹絶倒で笑っていない時間のほとんどない喜劇なんだろうと勝手に想像していたので、あちこちにもちろん笑いはちりばめられているのだけれど、この妙に深刻な設定と展開には驚いた。
 大学を辞めホストの仕事を始めた息子を本当に怖がって、腫れ物に触るようにしている和江の様子や、これまで25年続けてきた経理の仕事を探しているのに就職活動先の会社から電話で警備員の仕事を勧められる直也の様子など、リアル過ぎて、身につまされはしないのだけれどいたたまれない気持ちになる。
 笑って笑える喜劇なんじゃなかったのか?

 学おじさんの状況の目的が実は「首相官邸に行って、今後の日本の進むべき方向について意見を述べた手紙を渡す」ということだったなんて、突飛すぎて笑うこともできない。
 「それはないだろう」「本人はともかく、風水の弟子達はそんなことを本気で信じて東京までついて来たのか」などと思っていると、学おじさんが「実はそれは諦めた」とあっさりと言い出すのでさらに驚く。
 急展開すぎる。

 そして、最後の最後、学おじさんの状況の目的が、実は「息子」に会うためであったということが本人の口から明かされる。
 その「息子」は、甥だということになっている直也のことである。

 直也が持っている「バナナの大きな房を持っておじさんが来てくれた」という記憶が、実は学おじさんが離婚の日に直也の母である義姉に挨拶に行ったときのことだということは明かされていたのだけれど、ここで義姉に挨拶というよりも最後に息子の顔を見に行ったのだなということが判る。

 それを聞いた丸岡は、最後に学おじさんと直也とが2人で話せる時間を作ろうとする。
 風水師の筈の学おじさんが「占いなんて関係ない。おまえの未来は明るい。」なんてことを言うのも泣かせる話である。
 学おじさんが帰った後、また叔母さんの部屋に潜んでいたらしい克彦が出てくる。

 克彦は学おじさんの話を全部聞いていたのか。
 克彦は直也と和江の子どもなのか。
 直也は本当に50歳になるまで自分が実は叔母夫婦の子どもだとは知らずに育ったのか。

 実はこの家族の問題は全く解決していないような気がする。
 笑っていられる場合じゃないだろうという感じもする。

 でも、克彦は1500万円もする叔母の絵を売ることはできないと言い、200万円は実は付き合っている彼女が妊娠してその出産費用等々であると父親に話し、直也は仕事のえり好みなんかしないと決心し、和江はデパートでへそくりを使い果たすほど買い物してすっきりした顔で帰ってくる。
 叔母もエジプトから帰国したようで、克彦は「ひ孫ができるよ」と報告する。その一言に引っかかる直也とスルーしている和江という組み合わせも妙である。

 何だかんだ言いつつも、学おじさんは息子一家の危機を救い、正体を告げずに去ってゆく。
 ちょっとしたヒーローである。
 「笑って笑える大喜劇」というよりも「ほろりと来る人情話」という感じで、何だかちょっとほっとするいい感じのお芝居だった。

 カーテンコールで前日のアンケートからいくつかを読むのが恒例になっているようなのだけれど、褒めまくられて照れる飯田基祐と、「美しい」と言われて澄ましているというよりも無反応な馬渕英俚可のギャップが可笑しい。

 可笑しいといえば、アンケートを読みながら「まさか和江さんが別の風水師に見に行ってもらうとは思わなかった」とか「それで克彦は直也の息子なんですか」とか、虚実とりまぜて片桐はいりに真顔で質問している伊東四朗もかなり可笑しかった。

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