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「昭和島ウォーカー」
作・演出 上田誠
出演 井ノ原快彦/京野ことみ/松本まりか/粟根まこと
福田転球/中山祐一朗/石田剛太/酒井善史
諏訪雅/土佐和成/中川晴樹/永野宗典/本多力
観劇日 2008年11月15日(土曜日)午後6時開演
劇場 東京グローブ座 2階B列47番
料金 8500円
上演時間 2時間10分
ロビーではパンフレット(2000円)が販売されていた。
客席の女性率がびっくりするほど高い。流石ジャニーズ事務所である。
でも、私がいたのが2階席だったからか、意外なくらい観劇マナーが良くてほっとした。
それにしても、2階席の、しかもサイドでかなり舞台に対して斜めになる席がS席として販売されていることに納得がゆかない。
一体、A席とB席はどこにあったのか、明らかにしてもらいたいものである。
「昭和島ウォーカー」というタイトルから、勝手に「昭和時代の工場の話(G2プロデュースの「キャンディーズ」とか、吉永小百合の「キューポラのある街」とか)」をイメージしていたら、全く違っていて、未来の世界のロボット工場の話だった。
それでもやっぱり、工場内部のセットは「昭和」っぽいのが可笑しい。いい感じである。
粟根まこと演じるマネージャーが「ライン監査」とのたまって出演者全員をハンディのビデオカメラで撮影し、それをシャッターのスクリーンに映して出演者紹介をするのが楽しい。
小うるさい感じのマネージャーが、この撮影のときだけ、やけに調子のいい司会振りを発揮するのも笑わせられる。
このときスクリーンに出たクレジットで、「井ノ原快彦」が「いのはらよしひこ」と読むことを初めて知ってしまった。
先端的なロボットを開発して「二足歩行自動販売機」が爆発的に売れていたこの工場も、「転んでぶつかって回避と回復の方法を覚えさせる」というコンセプトが、新しく制定された「人間を傷つけてはいけない」といったロボット三原則に反するということになり、衰退の一途を辿っている。
その過程で社長が自殺してしまっている。
今では、超巨大ロボット産業企業「ユニバーサル」の下請けとして、ロボットの部品を作っている日々である。
井ノ原快彦演じる自殺した社長の肖像画がやけに楽しそうに笑って工場に飾られていたり、やさぐれたマネージャーが一人でお酒を飲んでいると何故か実体化し、しかもやけにそれが健康そうだったりして、この「自殺」というのは最初から引っかかるように作られている。
それにしても、工場の感じとか、この肖像画の使い方とか、実は最初の頃は「このお芝居ってG2作だったっけ?」と思ったりしていた。何となく似た匂いを感じる。
井ノ原快彦が2役で演じる(といっても、口ひげのあるなしで演じ分けられているのだけれど)社長の息子「小鉄」が世界放浪の旅から帰ってきて、何となく工場に居ついてしまう。
最初は大反対していた京野ことみ演じるアカネら従業員もいつの間にか慣らされてしまう。
でも、コイツが本当にトラブルメーカーで、仕事しようとしては機械を次々と壊していく。
そこに反省は全くないのだけれど、突拍子もないことを言いつつ言っていることは妙に「業務改善」に向かって正論だったりするのが腹立たしい(笑)。
製造ラインにいる従業員とは別に、その昔ロボット開発に携わっていた、中山祐一朗演じる工場長を始めとする機械担当の従業員達は、明らかに腕が立ちそうなのに明らかにヒマそうで仕事をしていなさそうである。
マネージャーも、仕事の発注元であるユニバーサルのエラそうな担当社員が来たときに見事な土下座を見せて謝るのが最大の見せ場だったりする。
その雰囲気を、機械を壊すことで変えていく「小鉄」はなかなか小憎らしいキャラなのだけれど、演じる井ノ原快彦が持つ「人の良い」雰囲気にも大いに助けられて、嫌みに見えないところがいい。
ユニバーサルで「組み立てロボット」を完成させたことで、工場の「製造ライン」の仕事もなくなってしまう。
それを契機に、ロボット三原則をすり抜ける(クリアするではないところが格好良い)ロボットを作ろうという取り組みが始まる。
というか、始まろうとしたところで、なーんにもしてなさそうだった工場長から、実は製造ラインにいた福田転球演じるゲンさんと、松本まりか演じるハナが、実はこの工場で作られたヒューマノイドであったことが明かされる。
それっぽかったといえばそれっぽかったし、いやそれっぽくなかったでしょといえばそれっぽくなかった、この2人のヒューマノイド振りはなかなか渋いところを衝いている。
このときに、工場長がぼそっと目立たなさそうに、「人間だって人間を傷つける。人間にもできないことをロボットにやらせようなんて無理だ。」というようなことを呟く。
多分、このお芝居のポイントはこの台詞にあるのだと思う。
そして、ロボットを作り始めようとしたところで、「操縦型ロボット」などという鉄人28号のようなロボットを小鉄が提案し(というか、思いつきをしゃべり)、実は、この工場自体が操縦型ロボットであることがマネージャーの口から明かされる。
役に立たない据え置き型のベルトコンベアは、そのロボットの股関節の部分なのだという。
そして、先代社長の死は自殺ではなく、この操縦型ロボット試運転の際の事故だったことがマネージャーから明かされる。うんうん、だから肖像画と何のわだかまりもなく語り合っていたのね、と全てがすっきりするシーンである。
ユニバーサルの工場が、テロなのか事故なのか、とにかく崩れ落ちようとしているところに、ハナが生存者がいることを発見する。「気を使いたいんだか働きたいんだか判らない」と言われてしまうハナだけれども、流石にそれでもロボットである。
そして、ラストシーン。
工場の従業員全員が力を合わせ、この「工場型、操縦ロボット」を立ち上がらせ、歩かせ、生存者の救出に向かう。
「俺はどこにいればいい?」と聞く小鉄にマネージャーは「そこにいればいい」と答え、「そんな抽象的なことを言われても!」と落とす。せっかくのいいシーンだからこそできる落とし方である。
そして、地味な感じで、ちょうどそれまでシャッターがあった辺りで、工場型ロボットの模型(きっと、高さ1mくらいなんじゃないかと思う)を歩かせているのが拘りなんだろう。発見したときには、2階席から見ているからこその醍醐味だわとちょっと嬉しかった。
ちょっとずつ外しつつも、でも「いい話」である。
ヒューマノイドが2人いるからロボットを歩かせるときのセンサーの役割を果たせるとか、ご都合主義なのか伏線なのか判らない設定が生きているところも楽しい。
超巨大産業に仕事を奪われ、発明を無用のものとされ、下請けとなって自分たちの代わりとなるロボットを作らされる。
話の根底にある部分はかなりシビアでビターなのだけれど、小鉄のキャラと、従業員たち(特に、機械部門担当の白いつなぎを着ている面々)が要所要所で笑いを取って場を和ませ、話を進ませる。
かなり好きな感じのお芝居だった。
ヨーロッパ企画のお芝居もぜひ見てみたいと思った。
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