「幸せ最高ありがとうマジで!」を見る
「幸せ最高ありがとうマジで!」
作・演出 本谷有希子
出演 永作博美/近藤公園/前田亜季
吉本菜穂子/広岡由里子/梶原善
観劇日 2008年11月1日(土曜日)午後7時開演
劇場 パルコ劇場 K列30番
料金 7000円
上演時間 2時間
ロビーでは、パンフレット(1500円)やポスター(500円)が販売されていた。
土曜の夜公演なのにちらほらと空席があるのが意外だった。
ネタバレありの感想は以下に。
今ひとつこの公演が「劇団本谷有希子」の公演なのかそうでないのかよく判らなかったのだけれど、いずれにしても本谷有希子の作・演出作品を見るのは初めてだった。
何となく苦手な感じのお芝居なのじゃないかという気がして、正直に言って、敬遠していたという部分もあると思う。
それが、意外なくらいサッパリ明るめの舞台で驚いた。
チラシにはこんな風に書いてある。
**********
たまたま目に入った家に飛び込んで、「愛人です」と奥さんらしき人に言うのが好きだ。
奥さんが旦那に確認しようとしたら
「あの男はどうせ私のことなんか知らないって言うに決まってる」
と先に言ってやるのが好きだ。
まったく知らない人達なのにぶつけてごめんね、悪意。
理由は何ひとつないんだよ。
業なんかない。
私はただ
欲深いだけだ。
**********
これって暗喩のようなものか、本谷有希子の独白のようなもので、芝居の内容とはほとんど関係ないんじゃないかと思っていたのだけれど、本当にこういうお芝居だったのにも驚いた。
うわ、そのまんまじゃないか、と思った。
その「家に飛び込んだ」のが永作博美演じる女で(そういえば、最後まで彼女の名前は明らかにされなかったような気がする)、飛び込まれた方の一家は、梶原善演じる店長は何故だかドスを差しているし、近藤公園演じるその29歳の息子は「女」に「絶望できる条件が揃っていて羨ましい」と言われるような状態である。広岡由里子演じる妻は1年前に嫁に来た後妻で、前田亜季演じる妹と息子とは血が繋がっていないというのだから妹はこの妻の連れ子なのかも知れない。
そこに吉本菜穂子演じる住み込みの31歳の女がいて、店長にレイプされて愛人になったなんていうのだから、「女」が来る以前からこの新聞販売店は崩壊寸前である。
そういえば、この舞台のオープニングで、妻と息子と妹と住み込みの女4人は無言で新聞配達の準備作業をしていたのだった。
その無言のシーンが長くて(実際はそれほど長くはなかったのかも知れないけれど)落ち着かなかったのだった。
そこに通りかかった「女」が、ライターのガス切れか煙草に火を付けることができなかったので、この新聞販売店を標的に決めた、ように見えた。
この「女」のやっていることは滅茶苦茶だし、本人も「私は明るく人格障害をやっているんだ!」と叫んでいるのだけれど、どうもこの「女」がいわゆる「頭がおかしい」ようには見えないのが困ったところである。
そう言い切るには知性がありすぎるし、自分を客観視しすぎているし、何より乾いた感じが漂っている。
これが永作博美の持ち味なのか、脚本の指定なのか、演出なのか、見ている私の問題なのか、その辺りがはっきりしないのが逆によかったような気もする。
この「女」の言動よりも、一応は無難な日常を送っているこの新聞配達店一家の方がどろどろとしたものを抱えているし、無茶苦茶だし、何よりコワイように見える。
店長と住み込みの女は、彼女がリストカットを繰り返しながらも付き合っていて、お互いに「最初の1回のレイプを薄めるために愛人にしたんだ」「愛人になったのにどうして最初の1回に拘るんだ」と思っているし、その状況を後妻の女はつぶさに盗聴器か何かで聞いて知っているし、息子は妹のことが好きみたいだし、そういえば、唯一これといった問題を抱えていなさそうなこの妹は大丈夫なんだろうかと逆に心配になってくる。
世の中で一番コワイのは普通の人だし、もっと言えば「自分は普通だと思っている」人の方がコワイんじゃないかと思わせる。
何故だか無茶苦茶をやっている「女」の方が可哀想に見えてくるし、その「女」のために一家総出でハッピーバースデイを歌うシーンは、その「女」が灯油を被って手にチャッカマンを持っているのとは関係なくコワイのである。
ラストシーン、それまでハッピーバースデイを歌っていた人々が、夕刊の到着と同時にいきなり「無言で仕事モード」に戻り、「女」なんかいないかのように働き始め、引き戸を閉め、カーテンを引いてしまう。
「女」が必死で壊した一家の日常は、あっという間に取り戻され、まるで「はい、暇つぶしの余興はここまで」という感じすら漂う。
「異常」が「普通」に負けた瞬間である。
そして、「女」の持ったチャッカマンの火はつかない。
「女」の服が変わっただけで、その風景は舞台の幕開けのシーンとほとんど変わらない。
何とも言えない終幕なのだった。
でも、思っていたよりも後味が悪くないのが意外である。
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