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ギンギラ太陽's「BORN TO RUN さよなら初代0系新幹線~引退記念スペシャルバージョン~」
作・演出・出演 大塚ムネト
出演 立石義江/杉山英美/上田裕子/中村卓二
古賀今日子/中島荘太/吉田淳/石丸明裕
新田玄/林雄大
観劇日 2008年12月6日(土曜日)午後5時開演
劇場 あうるすぽっと D列6番
料金 4500円
上演時間 1時間35分
パルコ劇場で行われた「第1回地方公演」では、終演後に写真撮影タイムと質問コーナーがあったと思うのだけれど、第3回となる今回の地方公演では開演前に写真撮影タイムが取られていた。
「劇場で携帯を取り出せ、写真を撮れなんていう劇団は俺らだけだ」
と言っていたけれど、そのとおりである。
新幹線のお芝居だと知っていたので(というか、タイトルを見れば一目瞭然である)、劇場に入って四角い乗り物がぬっと顔を出したときには思わず「電車? バス?」と聞いてしまった。
答えは、「バス、バス。西鉄バス。」だった。
で、記念撮影をパチリ。
ロビーでは、パンフレット(1000円)ほかのグッズが販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
タイトルのとおり、「のぞみ」や「ひかりレールスター(という新幹線がJR西日本では走っているらしい)」に「世界最速の電車」という座を奪われ、車庫や車両基地も奪われ、いつしか「こだま」として福岡ー岡山間などでしか走らなくなっていた初代新幹線がついに引退することになる、という実にタイムリーな物語である。
それを、役者さんたちが「新幹線ひかり号」や「のぞみ号」「福岡駅(博多駅ではなかったような気がする)」などの「カブリモノ」を被って演じる。
登場人物たちは全て無機物である。
無機物であるはずの彼らがしゃべって動く。それが不自然に感じられないのが謎である。
不自然でないどころか、物語の最後には感情移入してしまい、一緒に泣きたい気持ちになった。
自分たちの引退を知った0系新幹線が、大挙して博多から東京へと暴走を始める。
それが、終電後に出発し、始発までに到着しようとしているのだから、なかなかの気配りである。
0系新幹線では博多ー東京間は7時間超かかるようで、そういう意味では、このお芝居ではあまり強調されていなかったけれど、「始発までに東京に到着できるか」というスリルも味わえる。
東京に向けて暴走を始め、広島駅を通過した頃、何故か物語はいったん中断し、「彼らが走っている間に」と狂言回しが入って、福岡・博多周辺のデパートの一代記が挿入される。
この辺りのつながりは不明である。
0系新幹線と同じ時期に活躍して廃業してしまったり、新天地を目指して成功したりしたデパートたちの、「もう一つの高度成長期の物語」といった趣だろうか。
そして、困ったことにこれが面白い。
「博多」「新川端」「天神」「中央口の目の前」といった地名に馴染みがないもので、今ひとつその状況は把握できないのだけれど、それでも戦中から始まった物語は、新幹線が「男たちの物語」に作られているのとは対照的に「女ビルの一代記」で、かつ「女同士の友情」の物語でもあって、かつ、チクリチクリと行政の地域振興というのか駅前開発に対する無節操な対応に対しての風刺も含んでいる。
特に物語の前半、何故だか舞台が広く感じるなとか、4人揃って台詞をしゃべったり動きをずらしたりコントみたいだなと思ったりした部分もあったので、ストーリーがあると舞台上に2人(2ビル)しかなくても十分に空間が埋まるのだなと思ってしまった。
でも、この「女ビルの物語」が終わってからの後半は文句なく楽しい。
とっくに引退していたけれども観光列車として走っているSLと併走する。
小倉の何か(思い出せない。ビルだったかも知れない)に取り憑かれていた最後の1台がその亡霊の重さに耐えかねて追ってであるレールスターを巻き添えに脱落する。
レールスターに捕まりそうになった彼らを、大阪万博のシンボルであった「太陽の塔」が助ける。
走りながら夢の中でフランスのTGVやドイツのICEと相まみえ、「鉄道が衰退しつつあった時代に新幹線が開発され実用化されたからこそ、自分たちも生まれたんだ」と伝える。その「妙なアクセントの日本語」がやけに可笑しい。
リニアモーターカーは「自分は実用化すらされていない」と0系新幹線をうらやむ。
1台だけ逃げ延びた0系新幹線は富士山を拝み、車両基地がある品川駅に近づく。この品川でのぞみの集団に先を塞がれてしまったそのとき、YS-11が登場して0系新幹線は空を飛ぶ。
YS-11が登場したときには大拍手だった。
パルコ劇場での「第1回地方公演」を見た観客が多かったのだろうし、そう言えばテーマが新幹線だったせいか、客席には比較的男性の姿が多かったから、同じようなノスタルジーを感じた人も多かったのだろう。
一緒に大陸に行こうというYS-11の誘いを断り、0系新幹線は東京駅に到着する。
東京駅も代替わりをしており、18年前まで0系新幹線が発着していた赤煉瓦の東京駅は引退し、銀色のビルの東京駅となっている。
それでも、0系新幹線が「東京駅様」と呼ぶのは赤煉瓦の東京駅であるところが泣かせる。
0系新幹線が東京駅に行きたかった理由は、走り始めた頃、富士山をバックに桜の中を走っている自分の写真を届けたいということだったことが明かされる。
その写真を「停車すると爆発するようになっている爆弾だ」と言って自動停止装置を作動させなかったというのも何だかこうなると楽しい気持ちになってくる。
そして、幕である。
0系新幹線が東京まで行くことができず(東海道新幹線のシステムがすでに0系を走らせることができない仕様になってしまっているかららしい)に引退するその日に、東京で0系新幹線の舞台ができる。
この日に東京を走っている0系新幹線はここにしかいない。
そう話していた大塚ムネトのしゃべり方がやけに好々爺然としていたのは気になるけれど、何だか、どこがどうとは言えないのだけれどノスタルジーを感じさせ、何かを考えさせる、でも登場人物は全部無機物でカブリモノという楽しいお芝居だった。
終演後のロビーでは、展示されていた鉄道模型や新幹線の写真を見て楽しそうにしている人がたくさんいた。
こんなに「まだ帰ろうとしていない」人で賑わっているロビーは初めて見たと思った。
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