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2008.12.14

「ラ・カージュ・オ・フォール~籠の中の道化たち~」を見る

「ラ・カージュ・オ・フォール~籠の中の道化たち~」
作曲・作詞 ジェリー・ハーマン
脚本 ハーベイ・ファイアスティン
演出 山田和也
出演 鹿賀丈史/市村正親/島谷ひとみ/山崎育三郎
    香寿たつき/新納慎也/真島茂樹/今井清隆/森公美子 他 
観劇日 2008年12月13日(土曜日)午後5時30分開演
劇場 日生劇場 Q列7番
料金 12600円
上演時間 3時間20分(25分の休憩あり)

 私の席は、1階席の最後列でしかも端っこだったけれど、それでもとても楽しめた。
 パンフレット等も販売されていたらしいのだけれど、チェックしそびれてしまった。

 ネタバレありの感想は以下に。

 劇場も近いし、最近見たばかりだったし、「つかみが重要」というのも一緒だわと思ったこともあったし、ドレスで着飾った男優さん達のショーで幕が開いたときには、ついつい宝塚を思い浮かべてしまった。
 「ラ・カージュ・オ・フォール」というのは、このミュージカルのタイトルであると同時に、このミュージカルの主な舞台となるゲイクラブの店名でもある。
 そして、私の個人的な好みを言えば、宝塚よりも「ラ・カージュ・オ・フォール」のショーの方が楽しかった。
 多分、女性が演じる宝塚が「美しさ」や「優雅さ」「気品」といったものを追及するのに比べ、男性が演じる「ラ・カージュ・オ・フォール」ではどうしてもそこにコミカルな味を付け加えざるを得ないということが関係しているように思う。

 歌ったり踊ったり足を上げたりドレスを次々と替えたり、とにかくこの劇中劇ともいうべきショーが楽しい。振付は、鞭を振り回して出演している真島茂樹が担当したそうなのだけれど、これが綺麗だし見応えがあるし可笑しいし楽しいし、とにかく飽きさせない。
 ミュージカルってやっぱり楽しいわと思わせる。
 よくよく考えると、市村正親演じるザザがその舞台の主役であり、鹿賀丈史演じるジョルジュがゲイクラブの経営者であるというだけで、ショーの内容はほとんどこの舞台のストーリーには関係がないのだけれど、そんなことはそれこそ関係ないのだ。
 とにかく、このショーが楽しいのだ。

 ミュージカルの物語というか筋立ては、非常にシンプルである。
 ジョルジュとザザは、男同士で夫婦のように暮らし育ててきた、山崎育三郎演じる一人息子のジャン・ミシェルが婚約する。
 しかし、島谷ひとみ演じる婚約者のアンヌはいいとして、今井清隆演じるその父親ダンドンは、芸クラブを叩きつぶそうと虎視眈々と狙っている議員で、伝統と家族とあと一つ何だったかとにかく超保守的な信条の持ち主である。
 ジャン・ミシェルが自分の結婚のために、我が家をそのダンドン好みに変えようとし、息子に甘い序ルジュも結局はその片棒を担ぎ、ずっと「母親」として彼を育ててきたザザを「なかったこと」にしようとする・・・。
 そりゃあ、判りやすく大騒ぎになるでしょう、というところである。

 市村正親のこのゲイぶりといえばいいのか、女装ぶりといいえばいいのか、とにかくなりきっていて見事である。
 えー? と顔をしかめたくなる感じが全くしない。
 しなしな、くねくねとした立ち居振る舞いなのに、それがハマっているところが可笑しくも楽しく、哀しいのである。
 そして、一転して歌う場面になると、高音を鳴らし、低音で支え、考えたら当たり前なのだけれど堂々として見事なスターっぷりなのである。

 婚約者のアンヌ一家が家に来る間、どこかに行っていてくれと言われたザザは、それでもショーを続けようと舞台に出る。
 でも、やはりずっと手塩にかけて育ててきたジャン・ミシェルに「不要どころか邪魔」と言われ、長年連れ添ったジョルジュもその片棒を担いだと知った悲しさや悔しさや怒りや、でもやっぱり悲しさはぬぐえない。
 その真情を歌った休憩前最後のザザの渾身の歌声には、鳥肌が立ってしまった。

 後半に入り、ザザは「アルおじさん」としてアンヌ一家に会うことになって「男らしくする」ための特訓が行われ(さっきまでドレスを着て踊っていた俳優さん達が「男らしい振る舞い」のダンスを踊っているのがこれまた楽しい)、ついにアンヌ一家がやってくる。
 森久美子演じるダンドン夫人も含め、これだけの芸達者が揃ってしまうと、アンヌを演じている島谷ひとみがいかにも辛そうではあるのだけれど、それはそれで「清楚な白い花」という風情を醸し出すのに一役買っているようにも思う。

 来るはずだったジャン・ミシェルの母親が「自分の結婚式のために」来られなくなり、ザザは「アルおじさん」役は止めて自分が母親としてアンヌ一家に会うこととする。
 意外と普通の人に見えていたジョルジュも結構やっぱり変な人だし、花井京乃助演じるボーイとして雇われてメイドのつもりになっているジャコブは何故か時代を間違えてベルサイユ時代のようなボーイ姿だし、ザザだってやっぱりどことなく妙だし、いよいよジャン・ミシェルは頭を抱えることになる。

 香寿たつき演じるジャクリーヌ(彼女がとにかく綺麗なのが嬉しいし、ある意味ほっとする)のレストランに連れ立って出かけ、事情を掴んでいないジャクリーヌがザザに歌わせようとする。
 尻込みしつつ歌い始めたザザに、店中の客が調子を合わせ、ジャクリーヌが見事ダンドン議員を懐柔したかと思った瞬間、ザザは思わずいつものクセで鬘を取ってしまい、男であることがバレてしまう。
 ダンドン夫妻は大パニックである。

 ジョルジュの家に戻ってきても、ダンドン夫妻の怒りは収まらない。
 でも、ジャン・ミシェルが、アンヌ一家を迎えるに当たっての自分のやり方を反省し、ザザに謝ってくれたときにはほっとした。コイツの「自分さえよければ」みたいな物言いに、自分も同じ立場に立ったらと思いつつも腹立たしく思っていたのだ。
 そして、アンヌも両親の制止を振り切って、ジャン・ミシェルと結婚し、ここで暮らすと宣言する。
 どうもやっぱりアンヌの個性が際立たないのが惜しいのだけれど、これはもう仕方がない。

 そこへジャクリーヌがやってくる。
 「ダンドン議員がお勘定を踏み倒した」ということで新聞記者を連れてきたと言うのだ。レストランの宣伝のためには手段を選ばない、格好良すぎる女性である。
 議員生命が終わりだと嘆くダンドン議員からジャン・ミシェルたち2人の結婚と持参金の承諾を取り付けると、ジョルジュとザザとジャクリーヌとは意味ありげに「隣ではそろそろフィナーレの時間だ」と目配せを交わし、さて、作戦決行である。

 フィナーレのフレンチ・カンカンが楽しい。
 (いや、フレンチ・カンカンはフィナーレじゃなかったかな? 段々記憶が曖昧になってきている・・・。)
 でも、とにかくバック転したりぽんぽん飛び回っているこのフレンチ・カンカンが楽しかったことは絶対に言っておきたい。

 フィナーレに、ダンドン一家が出演する。
 アンヌはいいとして、ダンドン夫人もダンドン議員も、もの凄いインパクトである。
 そこにジャン・ミシェルが現れ、ダンドン夫妻の「ショー出演」の写真を報道陣にバッチリ撮らせた上でステージから3人を連れ出し、とりあえず議員生命の危機を脱することになる。
 ミュージカルの中ではそこまで説明されなかったけれど、この「ゲイクラブに一家で出演」の写真は、ゲイクラブ撲滅なんていうダンドン議員の野望を阻止する切り札として使われることになるのだろう。

 とにかく、楽しいミュージカルだった。
 鹿賀丈史と市村正親のコンビはやっぱりミュージカルでより生きるという感じである。
 休憩時間中に「今日で3度目なんだけど」などとしゃべっている方々を見かけたけれど、そこまでハマる気持ちが分かるように思う。
 市村正親がザザを演じるのはこれが最後というのもいかにも勿体ない。

 何度も繰り返してしまうけれど、本当に楽しいミュージカルだったし、ミュージカルって楽しいと満足のゆく舞台だった。
 カーテンコールが何度も続き、最後にはかなりの人数でスタンディング・オーベイションになったのも納得である。

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