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2009.01.18

「ブラジル」を見る

ラッパ屋 第34回公演「ブラジル」
脚本・演出 鈴木聡
出演 福本伸一/おかやまはじめ/木村靖司/弘中麻紀
    岩橋道子/三鴨絵里子/土屋裕一(*pnish*)
    中野順一朗/武藤直樹/岩本淳/俵木藤汰
    熊川隆一/大草理乙子
観劇日 2009年1月17日(土曜日)午後7時開演(初日)
劇場 紀伊國屋ホール 0列1番
料金 4800円
上演時間 2時間15分

 ロビーでは、これまでのラッパ屋作品の上演台本や、作・演出の鈴木聡が書いた「ザ・ヒットパレード ~ショウと私を愛した夫~」のチケットや、この舞台セットの中で落語が行われるという寄席(名前が付いていたけれど失念しました)のチケットが販売されていた。

 初日ということもあり、関係者が(正確に言うと、ロビーで挨拶を交わしている人が)多かったように思う。

 ネタバレありの感想は以下に。

 「ブラジル」というタイトルは、登場人物達がみんな大学の軽音楽サークルのOBで、そのサークルではボサノバを演奏していた、というところから来ている。
 その歴代OBが集まって、木村靖司演じるサークルの創始者の「祥文さん」の還暦をお祝いする2泊3日の旅行をすることになった、その3日間の物語である。
 旅行といっても、行き先がOBの経営するペンション「イパネマ・イン」なので、舞台はずっとその「イパネマ・イン」のリビングというかロビーで、移動はない。

 割と男の人達を名前の音読みで呼ぶのが、私よりちょっと(いえ、かなりだと主張したい)上の世代の人たちっぽいなという感じがする。「祥文さん」も恐らく設定の本名は「さちふみ」とかだと思うのだけれど、みな「しょうぶんさん」と呼んでいる。
 女性陣をファーストネームのちゃん付けで呼ぶのもそれっぽい。

 折々に集まりつつも、このメンバーで集まるのも久しぶりだし、2泊3日なんていう大イベントはもしかしたら初めてなのかも知れない。
 三々五々集まってくる人々は、それぞれ近況を尋ね合っている。

 この段階で既に、大草理乙子演じる美幸さんは、俵木藤汰演じる善幸さんと離婚して善幸さんと大学時代には親友だった熊川隆一演じる行雄さんと再婚している。ところで、この熊川隆一の老け役が見事で、ごましお頭の感じの割りに動作が若いなとは思ったけれど、若い感じの中高年にばっちり見えた。
 そして、岩橋道子演じる紀子さんは、「前とは違う相手と不倫している」と言いつつ実はずっと宇納佑演じる英俊さんとずーっと不倫を続けているらしい。
 こう言っては何だけれど、ドラマである。

 会社の製品であるガス給湯器に欠陥が発覚しその交換に2万軒の家を訪問しているおかやまはじめ演じる馬場さんや、自営業(何屋さんだったか思い出せない・・・)しつつ母親の介護をしているという武藤直樹演じる久世さんという2人の幹事さんが、何故だか普通に思えてしまうくらいだ。
 でも、この2人がこの旅行をもの凄く大切に思っているのは伝わってくる。

 ちょっと遅れてやってきた土屋裕一演じる矢島くんは、ペンションのオーナーである中野順一朗演じる芳樹くんと昔組んで歌っていたのだけれど、矢島くんだけが祥文さんにスカウトされてプロ・デビューし、でも1曲ヒットを出した後は鳴かず飛ばずの状態らしい。それでも、芳樹くんとの間はギクシャクしているし、他のメンバーとの間でもギクシャクしている。

 これだけ一癖も二癖も、一ひねりも二ひねりもある面子が集まれば、それはあちこちでオープンにコソコソと様々にもめ事が起こるに決まっているし、物語が生まれるに決まっている。
 舞台上に作られたロビーでは、人が行ったり来たりし、集まったり解散したりし、その組み合わせと話す内容が、まったりしていたり、急展開したりする。
 この通り過ぎたり止まって喋ったりしているところが、少し間延びしているかなと思わなくもないけれど、実際に世代の違う大学時代に同じサークルだった、中にはサークル内結婚したカップルもいる、という状況なら、そういう感じになるかも知れないと思う。

 穏やかそうに普通に夫婦げんかしていた福本伸一演じる佑介くんと弘中麻紀演じる理恵さんだったけれど、中盤に佑介くんが健康診断を受け、胃カメラをやり、ちょっと心配な点があるということで来週精密検査を受けるように言われていることが判る。
 そこからどうして「余命半年」という発想になるのか、それは極端すぎると思うのだけれど、でも、そういう話になって行くのである。
 余命半年だとしたら何をすればいいのか、自分にとって何が幸せなのか、これは今まで自分が考えてこなかったそういうことを真剣に考えるチャンスなのである。そう演説するのである。

 40前後から60歳くらいの人が集まっていれば、この演説は効くに決まっている。
 このメンバーには医者もいれば葬儀屋もいるのだから、それは切実である。
 あと半年の寿命だとしたら、今何をするべきなのか。
 それは人の命は永遠ではないし、それは頭では判っているのだけれど、それを実感として掴むことは難しい。いつも、のんべんだらりと日常を送ってしまっている。
 でも、常に「あと半年の命だったら」と思って暮らすことがいいことなのか、というのはまた別のことのようにも思う。

 でも、この「イパネマ・イン」に集まった人々は、真剣に「あと半年の命」について考える方向にシフトするのである。
 善幸さんは美幸さんに再プロポーズするし、紀子さんは英俊さんに「子どもが欲しい」と言う。
 何の問題もなさそうだった芳樹くんと三鴨絵里子演じる雅美さんの夫婦も、雅美さんが芳樹くんに対してついに「おまえはちゃんと勝負していない。安心してしまっていて、隠居してしまっていて、だから私は太ったんだ」と言い放つ。
 これまで安定してクッション役を務めていた雅美さんがここまで涙ながらに言い放つと、それはもの凄い迫力なのである。

 一方で、矢島くんが祥文さんに切り捨てられる、祥文さんは自分に盗作をさせていたんだとぶち挙げ、祥文さんがそれに「大人」なビジネスライクな申し開きをしたことで、祥文さんの株は急降下し、芳樹くんと矢島くんは、やっと大々的に喧嘩をすることができる。

 みんなに「いい思い出」を持って、もやもやしたものなしで帰ってもらいたいという馬場さんの奮闘もあって、でも、「音楽はビジネスだ、金儲けだ」という方向に走った祥文さんは、最終日、誰にも相手をしてもらえないけれど、矢島くんは何とか仲間に戻れたように見える。

 佑介くんと理恵さんの夫婦は徹夜で話し合って「悪くなかった」という結論を出していたけれど、みんながそれぞれ少しずつ「ちょっとがんばろう」「現状を打開しよう」という方向にちょっとだけ舵を切れたように見える。
 そうなると、最初から最後までちょっと抜けた反応をしていた岩本淳演じる間宮くんの実は賢いのかも知れない安定して何も考えていない感じが光ってきたりするのである。
 しつこく言うけれど、みんながみんな「あと半年の命」と思って生活するわけにはいかないのである。

 祥文さんを除く集まった全員で記念写真を撮る。
 そこに「リオのカーニバル」の姿でこっそり写り込む雅美さんが可愛い。芳樹くんが「ブラジルで勝負する」と言ったことが嬉しかったんだろう。

 今年は、1本目の「アケミ」といい、この「ブラジル」といい、いいお芝居に会えているなと思う。
 ラッパ屋のこのぎゅっと詰まった感じとか、カンパニーとして安定してバランスの取れている感じとか、あて書きのような意外な役どころのような感じも、どこかで見たような気もするけれどやっぱり初めて見る人々の物語も大好きである。
 贅沢を言うと、ラッパ屋の舞台はシアタートップスのあのぎゅっと詰まった濃縮された空間が似合っていたなとも思うし、またシアタートップスで見たいと思うのである。

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