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「リチャード三世」
作 ウィリアム・シェイクスピア
翻訳 三神勲
演出 いのうえひでのり
出演 古田新太/安田成美/榎木孝明/大森博史
三田和代/銀粉蝶/久世星佳/天宮良
山本亨/増沢望/西川忠志/川久保拓司
森本亮治/逆木圭一郎/河野まさと/村木 仁
礒野慎吾/吉田メタル/川原正嗣/藤家剛
久保酎吉/若松武史
観劇日 2009年1月25日(日曜日)午後1時30分開演
劇場 赤坂ACTシアター 1階V列1番
料金 10000円
上演時間 3時間30分(20分の休憩あり)
2009年1月19日~2月1日 赤坂ACTシアター
料金 S席 10000円 A席 8000円
ロビーでは、パンフレット(2000円)、ポスター(1000円)、長袖Tシャツ(3500円)などが販売されていて、パンフレットの売れ行きはかなりのものだった。
ちょっと迷ったけれど、パンフレット購入は自粛中なので見送った。
パルコ劇場の公式Webサイト内、「リチャード三世」のページはこちら。
ネタバレありの感想は以下に。
座席に配られたチラシの中に、さりげなく、”「リチャード三世」をご覧になる前に・・・、これまでの話”というA3サイズの紙が入っていた。
さりげなさすぎて1枚1枚丁寧にチラシを見て(しかも折られている紙は開いて)みなくては気がつかないところが難点だけれど、これはかなり有り難い。
「リチャード三世」に登場する人物の人間関係や、イギリス史の背景事情などが書かれている。
ついでに、配役もところどころ書かれているのが有り難い。どうせなら配役全員分書いておいて欲しかったというのは贅沢すぎる注文だろうか。
「メタル マクベス」のときのように銘打ってはいないのだけれど、やはり、シェイクスピアだろうと何だろうといのうえひでのり演出はいのうえひでのり演出である。
音楽もそうだし、今回もかなり映像を多用している。
リチャード三世の古田新太がいきなりマイクを手に持ってしゃべり始めたときには驚いたけれど、どうも、マイクを使ったりキーボードで打ったりしている台詞は全て「心の声」で、その「心の声」は全て画面上のあちこちに置かれたモニタにテロップで流れるということらしい。
私は1階席の後ろから5番目とかそれくらいのかなり後方の席だったので、このテロップは肉眼ではぎりぎり読めるかどうかというところである。ときどき、色がついて文字が大きくなるときは読めるし、通常の大きさで白い文字のときも台詞とテロップがほぼ同時なので概ねの見当はつく。
でも、台詞とテロップとが異なっていたりするとお手上げである。演出なのかミスなのかは判らないけれど、両方が同じではないときが何回かあったような気がする。
これを演出で狙われると、相当に辛い。
余りにも気になったときはオペラグラスを覗いてしまったけれど、生のお芝居を見に来て、舞台上のモニタに流れる文字をオペラグラスを使って読むというのは、何というかシュールである。
この映像が効果的に使われていたのは、登場人物が殺されるシーンである。
余り自信はないのだけれど、エドワード、クラレンス、リチャードの3兄弟が殺される場面は舞台上で演じられたけれど、その他の登場人物が殺されるシーンは全て映像だったように思う。
登場人物が殺されるシーンというのはよくも悪くも見せ場だしクライマックスだと思うのだけれど、それを映像で見せるというのもかなり勇気ある選択ではなかろうか。
モニタがあちこちに置かれた舞台に、キーボード、マイク、何故か設置されているエレベータとセットはやけに近未来風である。
登場人物の衣装も何というのかやたらとカラフルである。
やっぱり「いのうえひでのり」のシェイクスピアだわ、という感じだ。
前に市村正親主演の「リチャード三世」を見たときに、市村正親一人勝ちの舞台だと思ったことを覚えているのだけれど、今回見て改めて思ったのは、この舞台は「リチャード三世一人勝ちの舞台」なんだなということである。
それは、往々にして「リチャード三世を演じた役者一人勝ちの舞台」になりがちだとは思うのだけれど、古田新太は決して一人勝ちにしていない。そこの違いがどこから出てくるのか、最後まで判らなかったのが悔しい。
「リチャード三世」は、「リチャード三世」が出ずっぱりのまま、彼を取り巻く人々が次々に現れては去ってゆく物語である。
上昇気流に乗っている(というか、無理矢理乗って見せている)ときは人は増えて行くけれど、玉座についた途端に人心が離れてゆき、人も離れてゆく。離れてゆくだけでなく、どんどん殺してゆく。
意外と、玉座を狙っているときよりも、玉座についてからの方が人を殺しているんじゃないかと思うくらいである。
そして、「リチャード三世」と対決するのは、ほとんどが女性たちである。
前の前の王でリチャード自身が殺したヘンリー王の妃だったマーガレットとは呪い合戦をしているし、やはりリチャードが殺したエドワード皇太子の妃であったアンにはプロポーズする。リチャード自身の母親は完全にリチャードの兄のエドワードの妃であったエリザベスの味方をしてともに闘うし、エリザベスには娘と自分を結婚させろと説得する。
そして、実は女たちの中でリチャードに負けたのは、リチャードの妃となって殺されたアンだけだったりする。
次々とリチャードに陥れられた男たちと違って、女たちは強いのである。
そういえば、シェイクスピアに「理由」を求めてはいけないような気もするけれど、リチャードがどうしてアンにプロポーズしたのかもよく判らなかった。
エリザベスの娘にプロポーズしようとしたのは王位の正当性と正統性を強化するためだと判るし、そもそもリチャード自身がそう説明しているのだけれど、滅ぼした王家の元皇太子妃と結婚することに何か意味があったんだろうか。
この「リチャード三世」では、それは何らかの企みの故であるかのように描かれていたと思うのだけれど、私はこれまでどちらかというとリチャードは単なる面食いで美人に弱くて、自分を嫌っている美女をどうしても落としたかったという、割と人間的な理由からなのだと思っていた。
休憩を含めて3時間30分近い上演時間はかなり長い。
物語自体も劇的だし、登場人物も多いし、どうしても説明が必要になる部分も多いと思う。
でも、結末を知っていてもそれでも、この「リチャード三世」は面白かった。
古田新太の声の力と、女優陣の緩急自在な声の力との賜物ではないかという感じがする。
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