「アケミ」を見る
HIGH LIFE 2nd stage「アケミ」
脚本・演出 福島三郎
出演 小林正寛/蟹江一平/猪野学/網島郷太郎/鈴木浩介 ほか
観劇日 2009年1月10日(土曜日)午後2時開演
劇場 シアタートップス C列2番
料金 4000円
上演時間 1時間45分
2009年最初の観劇である。
かつ、この春に閉館が決まっているシアタートップスで芝居を見るのは、もしかしたらこれが最後になるかも知れない。
ネタバレありの感想は以下に。
開演前に配られたチラシ(というのか、配役などが書かれている紙)を見ていたときに、鈴木浩介演じる栗原徹の紹介部分に書かれていた「亮平を探しにやってきた謎の男」を、「亮平を殺しにやってきた謎の男」と読んで疑わなかったため、見始めた当初はかなり間違った先入観で見ていたように思う。
我ながら阿呆である。
でも、そのうちそんなことは忘れてしまい、楽しく泣いて笑って見ることができた。
今年最初の観劇がこのお芝居でよかったと思う。
こういうお芝居にぶつかるから、観劇本数を減らせないのだ。
蟹江一平演じる井倉・チャン・マイケルが経営する(というよりも一人で切り盛りする)喫茶店が舞台である。窓の外の景色がやたらと日本調だなと思っていたら、後で判ったのだけれどそこは神社だという設定だ。
そのマスターは、何故か猪野学演じる客の周りをうろうろする。やたらとうろうろする。
それが、実は綱島郷太郎演じる木下籐吉(当然、「秀吉」とか「籐吉郎」とか呼ばれることになる)と「次の客は男性か女性か」という賭の結果を確認するためだったというのが笑える。
そこで、売れ始めた劇団の役者であるその西川亮平という男がファンかと勘違いするのも可笑しい。
ここまでが大晦日の出来事である。
翌日、木下はどうもそのまま喫茶店で世を徹して飲んでしまったらしい。
そこへ、「西川亮平がここにいますか!」と叫んで、微妙に地味な格好をし、喫茶店に入っても何も頼まず、お水代わりだというお屠蘇もいらないと断る妙な男が登場する。
彼が栗原徹なのだけれど、どうも人殺しをするようには見えない(当たり前である)。
しかも、彼が出入りするときに限って、ドアに取り付けられたベルが鳴らない。
赤いジャケットを来て破魔矢を持った亮平が現れ、赤い上着(ジャケットというよりもカジュアルである)を着て破魔矢を持った小林正寛演じる細山田が現れ、木下まで赤いパーカに着替えて破魔矢を持ち出し、結果、3人とも出会い系サイトのサクラに引っかかったことが判明する。
出会い系サイトの権威のような栗原が怒る怒る。
どうして怒るのかは判らないけど怒りに怒って、家にも「サラリーマンをやっている」とウソついていた亮平を郷里に連れ戻そうとする。
栗原が実は亮平の幼なじみの女の子と結婚していたり、細山田が亮平の大ファンだったり、亮平の父親が毎年恒例の商店街の初詣に出掛けて事故に遭ったことが判ったり、細山田も木下も「出会え」なかったのに亮平が約束していた時間にだけは赤い服を着て破魔矢を持った女の子が現れたり、彼女に話しかけた栗原が全く無視されたり。
話の筋は亮平を中心にして進んで行くのだけれど、私が一番印象に残ったのは、実は木下の台詞である。
全員、初対面どうしだった男5人だけれど、お屠蘇やお銚子で出された日本酒の影響もあってか、ちょっとだけ深い話もするようになる(栗原は除くので、男4人というべきかもしれない)。
そんな中でマスターが32歳と判り、細山田が37歳と判り、マスターが「32歳と37歳なんて変わりませんよ」と言うのに対して、35歳の木下が「いや、変わる。32歳と37歳で俺は変わらないかも知れないが、親が変わる」というようなことを言うのだ。
それまでは守ってくれる存在だった親が、その5年間で守るべき相手に変わるのだという。
何だか、その通りだなぁと思ったのだった。
私的には、このお芝居の中心は彼のこの台詞である。
亮平が実家と連絡を取って栗原が実はその商店街の初詣で一緒に事故に遭ったらしいことが判り、喫茶店の外では栗原の姿は見えなくなるらしいことが伝えられ、「栗原を帰す」ためには「亮平が帰る」べきなんじゃないかと喫茶店内の意見がまとまるけれど、もちろん亮平のうなずける話ではない。
亮平が約束した相手の女の子の名前は「アケミ」で、栗原の奥さんの名前も「アケミ」である。
亮平はやっぱり彼女が好きだったのだけれど、でも彼女が結婚したことで自分のやりたいことを30歳になって始めることができたのだと言う。
「赤い服を着て神社で待ち合わせ」を仕掛けたのは、実はマスターのお母さんが喫茶店の経営を心配したためだったと判る。でも、亮平は真面目ないい人そうだったから、知り合いのお嬢さんに待ち合わせに行くよう勧めたのだと。
ここで、木下と細山田が選から漏れたのは順当なところだろう(笑)。
そして、アケミから連絡が入り、亮平の父親の容態が落ち着いたこと、アケミはやっぱり栗原を愛していること、しかし栗原の意識が戻らないことが伝わる。
みんなが栗原を帰そうとして、栗原はみんなともう少ししゃべりたいと言う。
ここで「そうだ、しゃべろう」とするのが細山田で、「それはいけません」と止めるのがマスターなのが上手い。「マスターだから」ということもあるのだろうけれど、5人のうちでクッションを勤めるのは常に最年少のマスターなのである。
栗原はお隣の神社から帰って行く。残りの4人はお隣の神社に初詣に行く。
そこに何故か栗原があわくって帰ってくる。再び、アケミと遭遇したのだ。身体を喫茶店に入れて(そうしないと彼女から見ることができない)「この店で待っていてくれ」と必死で叫ぶ栗原が可笑しい。登場時の「怒鳴る」のとは全く違う大きな声の出し方になっているのがステキである。
そして、6人目の男として巡回中の警官が赤いマフラーを巻いて喫茶店に登場し、初詣に行っていた4人が帰ってきて幕である。
私があらすじにまとめてしまうと、どうもこの楽しさと面白さと「いいお芝居を見た!」感が伝わらないのが本当に申し訳ない限りである。
でも、座席に若干の余裕はあるようだったし、18日まで公演は続くので絶対にお勧めである。
福島三郎がチラシの中で「あて書き」した、「あんたしかできない、あんたってこういう人間じゃん、あんたのまんまだよ」みたいな書き方をしたと書いていたけれど、役者さんの素を知らない私が見ても、あぁそうなんだろうなというのが非常によく伝わってくる。
魅力的な本だし演出だし役者さん達だし、三拍子も五拍子も揃ったお芝居だった。
年代的に身につまされるということももちろんあるのだけれど、でも、とにかくお勧めである。
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コメント
ガマ王子さま、明けましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。
ガマ王子さんも「アケミ」を見にいらっしゃいましたか!
良かったですよね。
それにしても、千秋楽は豪華ゲストだったのですね。
それは確かにびっくりされたことでしょう。羨ましい!
私も赤いマフラーの西田敏行さんを拝見したかったです(笑)。
投稿: 姫林檎 | 2009.01.19 23:38
千秋楽いってきました
素敵なお芝居でしたね
福島三郎さんの作品はずれがないきがします
スペシャルゲストは
はしのえみと
西田敏行!!!
ああ~びっくりした(笑)
投稿: ガマ王子 | 2009.01.19 21:47