「ワーニャおじさん」を見る
華のん企画プロデュース「ワーニャおじさん」
原作 アントン・チェーホフ
英訳 マイケル・フレイン
翻訳 小田島雄志
脚本・演出 山崎清介
出演 木場勝己/伊沢磨紀/松本紀保/柴田義之
戸谷昌弘/小須田康人/楠侑子
観劇日 2009年2月28日(土曜日)午後6時30分開演
劇場 あうるすぽっと A列9番
料金 5000円
上演時間 1時間55分
ロビーでパンフレット(900円だったと思う)が販売されていたけれど、購入しなかった。
ここのところ、個人的にパンフレット購入を控える方針なのである。
古典の作品にネタバレもないようなものだけれど、ネタバレありの感想は以下に。
「ワーニャおじさん」という舞台はこれまで全く見たことがないというわけではないと思うのだけれど、どうもどういう配役で見たかとか、どういうお芝居だったかというところの記憶が全くない。
もしかして、これまで一度も見たことがないんだろうか。
木場勝己演じるワーニャおじさんと伊沢磨紀演じる姪のソーニャは、ロシアの田舎で暮らしている。大きな農家らしいのだけれど、これは私がそう感じただけで、本当のところの設定はよく判らない。
2人はこれまでずっと柴田義之演じるソーニャの父親でありワーニャの義弟であるアレクサンドル教授に仕送りをしてきている。
その仕送りは教授の仕事に敬意を表してということだったのだけれど、定年になり、松本紀保演じる若い後妻エレーナを連れて彼らの家にやってきてから、その尊敬がどうも揺らいでいる。
楠侑子演じるワーニャ兄妹の母親は、それでも盲目的な教授への尊敬を変える気はない。
ソーニャが心を寄せる小須田康人演じる医師は教授の診察にやってくる。
彼らの家には戸谷昌弘演じるイリューシャという老人が使えている。
さて、というところからこの舞台は始まる。
舞台を少し高く作ってあったので、最前列のA列からだとかなり見上げる感じになるし、舞台奥の食卓の辺りが見にくくなってしまうのが残念である。
でも、開演前に思ったよりも見通しが悪くなかったのも事実で、そこはかなり計算されて舞台セットが組まれていたのだと思う。
正直にいえば、この「ワーニャおじさん」というお芝居は判りにくい。
時代背景も判っていないし、その場所の持つ背景も判っていないと、本当には味わえないのではないかという気がする。
ワーニャとソーニャはどうして仕送りを続けてきたのか、「立派な学者」だったらそもそも仕送りは必要としないのじゃないか、教授とソーニャの母はどうやって知り合ったのだろう、ソーニャはどうして田舎の家に残されていたんだろう、亡くなった娘の夫が若い後妻を連れてきても彼に対する敬意を持ち続ける母親は一体何を考えているんだろう、教授とワーニャおじさんと医師はどうしてそれぞれにエレーナに惹かれるんだろう、ワーニャおじさんというのは一体どういう人なんだろう。
疑問は尽きない。
というよりも、見続けるほどに疑問が増えてゆく。
でも、そうした物語のなりゆきよりも、この舞台の白眉は最後のソーニャの台詞にあるのだと思う。
ワーニャおじさんの教授への怒りよりも、その怒りを静めようとするソーニャの台詞の方が心に残るのは、多分、彼女の諦念の方が痛いからだろう。
ソーニャは、ワーニャおじさんに、辛抱するの、我慢するのと語りかけた後で、自分自身のことについて、一生懸命働いて、辛いことがあっても生きて行かなくてはならない、そうしたら死ぬ直前にほっと息をつくことができる、死ぬ前には一息つくことができる、自分はそれを信じている、と言うのだ。
酷すぎないか、と思ってしまう。
何が酷いのかはよく判らないのだけれど、設定としてソーニャはそれほど若くはないけれど年を取ってもいない筈だ。
確かにこの台詞を言ったとき、ずっと慕っていた医師が自分のことを愛してはくれず、当分は会うことも来ることもないと言い置いて帰って行った直後だということもある。
それでも、生きている間中、自分にはほっとできる瞬間はもう来ないと言っているのだ。
「幸せな瞬間はない」というのであれば、まだ判る。「幸せ」っていうのはどういうことだとこの女性は考えているんだろうと思うこともできる。
でも、彼女は「ほっとする」ことも自分には許されないと語っているのだ。
「櫻の園」を見たときにも思ったのだけれど、チェーホフの作品に出てくる地味に地道に努力している気だてのいい女性は、何故だか幸せを掴むことはないのだ。
もしかしてこの「ワーニャおじさん」の場合、このお芝居の最初から最後まで「幸せ」という言葉からは誰もが縁遠くて、誰一人としてこの先幸せになることはないと予言してこの舞台は終わっているのかも知れない。
何だかやりきれない気持ちにもなったのだった。
それはそれとして、久しぶりに舞台で、しかもスーツ姿の小須田康人を見られて嬉しかった。
このスーツでこのまま「朝日のような夕日をつれて」を演ってくれ〜、などと、チェーホフとはまるで関係ないことをちらっと思ってしまったほどだった。
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