« 「アニー」のチケットを購入する | トップページ | 「returns」を見る »

2009.03.20

「お弔い」を見る

ラックシステム15周年記念公演第一弾「お弔い」玉造小劇店 配給芝居vol:1 
作・演出・出演 わかぎゑふ
出演 コング桑田/朝深大介/千田訓子/上田宏
    谷川未佳/祖父江伸如/福井千夏/八代進一(花組芝居)
    茂山宗彦/奥田達士(劇団M.O.P.)/美津乃あわ
    中道裕子(らく-がき)/森崎正弘(MousePiece-ree)
    上田泰三(MousePiece-ree)/早川丈二(MousePiece-ree)/武藤晃子 ほか
観劇日 2009年3月19日(木曜日)午後7時開演
劇場 ザ・スズナリ B列8番
料金 4000円
上演時間 2時間20分

 ラックシステムの「お**」シリーズは、やっぱりスズナリがよく似合う。
 電車が遅れて後から来る観客のため、開演直前に、空いている席を一つずつ詰めておくというのも懐かしい間隔である。

 ロビーでは、パンフレット(1000円)や、「お**」シリーズのDVD5枚組(10000万円)、手ぬぐいなどが販売されていた。
 恒例の「パンフレットにサイン」は、今回は奥田達士と早川丈二のお二人だった。

 ネタバレありの感想は以下に。

 玉造小劇店の公式Webサイトはこちら。

 終戦後、「もう」なのか「まだ」なのかはともかくとして、とにかく10年を経た年、とあるアパートの一室が舞台である。
 そこに一人で住んでいた「アカサカミチ」が交通事故で亡くなり、上田泰三演じる彼女が勤めていた会社の社員金村が社長命令で部屋の片付けに来たところから話は始まる。
 ある意味、ドラマチックな始まりだと思うのだけれど、あまりそういう感じもせず、割と日常の感じがするのはセットとこの金村の風情のせいだろう。日常である。

 そこに、上田宏演じる社長の甥っ子やら、朝深大介演じるアパートの大家に頼まれた古物売買のお爺さんやらが現れ、彼女の部屋の一角が少女趣味に飾られて、李香蘭を彷彿とさせる設定の往年の映画スター・ツキシロサヨコの写真やら衣装やらが現れたところから話はどんどん転がり始める。

 この甥っ子が映画会社でバイトしていたことから、映画会社の広報課から八代進一と武藤晃子がコンビでやってきたり、森崎正弘演じる大家は何やら言動が怪しいし、美津乃あわ演じるその妻は着道楽らしくてバシバシ残された衣装の値踏みをしていくし、さて、この衣装たちは誰の物になるのかと大騒ぎである。
 結局、甥っ子が「アカサカミチの遺族のものだ。遺族を探しましょう」と言い出すのだけれど、この辺りまで私は「アカサカミチ=ツキシロサヨコ」は当然の図式だと思い込んでいた。

 どうもそうじゃないらしいという雰囲気になってきたのは、この後である。
 というか、どうもそういう図式ではないらしいと思い始めたのはこの後だ。そもそも、大家も含めて何故かこの部屋にやってくる人は「アカサカミチ」の顔を知らず、年齢も知らないようなのである。
 中道裕子演じる隣室の住人トヨコが現れ、「アカサカさんの三七日だから」と赤ワインを飲んだ辺りから、「それで、アカサカさんと映画スターの関係は?」などと言い出す人が現れてどうも「アカサカミチ=ツキシロサヨコ」とは誰も思っていないということが判ってくる。

 金村が「人を見分けるには耳の形を見ればいい」と言ったことから、映画会社の広報課長から「おまえは特高だったな」と言われ、「特高という言葉がすぐ出てくるということはおまえはアカだったな」と返される。
 殴り合いになることで、金村は韓国人であり、広報課長の父親は脚本家だったのだけれどアカ狩りで亡くなったということが明らかになる。
 いささか唐突な感がないわけではないけれど、「まだ」10年だと感じる人の心情が描かれるシーンである。

 実は、この辺りまでは話の方向が見えなかったこともあって、今ひとつ乗れない感じがしていたのだけれど、この部屋を維持するために谷川未佳演じる大家夫妻の娘を映画デビューさせようとしたり、トヨコが行方不明になったり、アカサカミチが60才近い白髪の女性だと言うことが判ったりし始めて、楽しくなってきた。
 何しろ、私は「謎が謎を呼ぶ」という展開が大好きなのである。
 多分、人情話風にするか、謎が謎を呼ぶ話にするか、この辺りまでは両睨みだったのではないだろうか。

 千田訓子演じるツキシロサヨコを名乗る女が現れ、でも、行方不明だったトヨコが突然に現れて彼女はニセモノだと看破し、しかも「アカサカミチ」は実は「アカサカヨシトモ」という若者で、自分の恋人で、ツキシロサヨコの弟であり、「家で待っていろ」と言って出掛けた姉を待ち続けて栄養失調になり、白髪となり、その後は老婆に身をやつして暮らしていたのだと泣き崩れる。
 暗転したとき、そうだったのか! こういう結末か! と思った人は私だけではなかったに違いない。

 ところが、この後も話は転がってゆく。
 金村が昔の知り合いにトヨコとアカサカミチの身上調査を依頼したところ、トヨコとツキシロサヨコを名乗って現れた女達は兄弟で希代の詐欺師であるということが判る。
 恐らく「形見に」と言ってトヨコが持ち出した「ツキシロサヨコが蒋介石夫人からもらったオルゴール」と「映画に出ていたときにつけていたネックレス」は戻らないだろうという。
 アカサカミチは、戦中から戦後にかけて映画の衣装の仕事をしていた人物であると判る。金村が依頼したコング桑田演じる桑田という男が調べたのである。

 恐らく、アカサカミチの七七日、これまで「ツキシロサヨコ」で騒いでいた面々が彼女の供養のために彼女の部屋に集まる。
 多分、全員が彼女の供養のためにこの部屋に来るのは、これが最初で最後ということになるのだろう。

 そして、ラストシーンは、わかぎゑふ演じるアカサカミチが、ツキシロサヨコの衣装をミシンで縫い、アクセサリーをつけて、その「再現」を喜んでいる。そういうシーンである。

 で、結局のところ、アカサカミチは何者だったのだろう。
 彼女が集めていたツキシロサヨコのものどもは全て本物だったのだろうか。それとも彼女が手作りした物だったのだろうか。
 映画の仕事をしていた関係で、アカサカミチとツキシロサヨコとの間には付き合いがあったのだろうか。2人はどういう関係だったのだろう。

 「謎が謎を呼ぶ」展開が好きなので、呼んだ後はちゃんと収まるところに収まってもらいたく、そういう意味でちょっと消化不良気味である。
 でも、このラストシーンのアカサカミチが本当に幸せそうな笑顔を浮かべてミシンを踏み、できあがったチャイナドレスを自分に当てて見ているので、それで全部が許せてしまう気もするのだった。

|

« 「アニー」のチケットを購入する | トップページ | 「returns」を見る »

*芝居」カテゴリの記事

*感想」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「お弔い」を見る:

« 「アニー」のチケットを購入する | トップページ | 「returns」を見る »