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2009.04.12

「淫乱斎英泉」を見る

「淫乱斎英泉」
作 矢代静一
演出 鈴木裕美
出演 浅野和之/田中美里/木下政治/高橋由美子
    山路和弘/矢代朝子
観劇日 2009年4月11日(土曜日)午後0時30分開演
劇場 あうるすぽっと B列18番
料金 7000円
上演時間 2時間50分(15分間の休憩あり)

 パンフレット(というか、何枚かの紙が封筒に入っている形式のようだった)が500円で販売されていた。
 開演前に後ろを振り向いたら、空席が目立つ(1/3〜1/2というところではなかったろうか)ことに驚いた。私にはかなり魅力的な題材、演出家、出演者陣なので、意外過ぎる感じである。

 ネタバレありの感想は以下に。

 「淫乱斎英泉」の公式Webサイトはこちら。

 舞台セットの感じが前に見た何かに似ているなと思って考えたら一昨年に見た「写楽考」だった。
 作者の矢代静一の指定が入っているのか、美術担当の方が同じだったのか、あるいはどうしても黒を基調としたシンプルなセットにせざるを得ないのか、あるいは全くの偶然なんだろうか。

 舞台には浅野和之演じる高野長英が一人、鎮座している。
 そこに、紗のスクリーンの奥から、現代日本の女(スカートをはいているところからそう判断することになる)が、あなたはどうして捕まって死なねばならなかったのかと問う。
 自分の夫と高野長英の姿が重なるという。

 さて、この部分は、元々の戯曲にもあったのか、今回上演するに当たって加えたのか、どちらなのだろうと思う。何となく後者なのではないかという印象を受ける。
 とすると、この女の言っていることは、最近の事件を彷彿とさせているのかと考えたのだけれど、ぱっと思い当たる事件がなかった。私が世間に疎いだけなんだろうか。それとも、元々がそういう趣向ではなかったんだろうか。

 そんなことを考えているうちに、山路和弘演じる淫乱斎英泉と名乗る男が出てきて、「俺の知っている高野長英を語ってやろう」と言い出す。
 そして、物語が動き始める。

 この芝居の狂言回しは、田中美里演じる英泉の妹であるお峯である。
 このお峯が実は結構な曲者の感じがする。
 破天荒過ぎるくらい破天荒な淫乱斎英泉の妹が、しかも、兄の経営する女郎屋で働きながら、どうしてまたこんなに健気というか、兄思いというか、うじうじした性格の女に育ったものか。
 英泉が、妹だけはとお蚕ぐるみで育てた様子もない。

 お峯が生真面目純朴田舎者なのに蘭方医としての腕は超一流、学もある分、鎖国している日本の現状を憂いている長英を慕うのは、兄と真逆の人柄だからじゃないか、英泉が妹に「長英に抱かれろ」とあっさり言うのは実は腹違いの妹のことが好きだからなんじゃないか、破天荒すぎる行動も妹のことを考えまいとする努力の一環なんじゃないかという風情が漂っていた。
 大体、破天荒すぎる英泉に最後まで女っ気はなく、堅物だった長英は割とあっという間に時代の寵児となり女好きになったんだろうなー、という感じが漂う。

 妹を襲おうとした英泉に、長英が好きなんだろうと言われて「兄さんの方が好き」と叫ぶお峯というのは、やっぱりねー、と思いつつ、さてそれが本気だったのか、天才の兄の才能を埋もれさせたくないばかりの大嘘だったのかは、今ひとつよく判らない。

 牢に入れられた長英が、木下政治演じる越後屋に連れられて英泉のところにやってきて、「匿ってくれ」と言う。
 その長英の似顔絵を描こうとした英泉を見たお峯が「兄さんに売られる!」と叫んだ瞬間、この兄妹の関係は逆転する。
 それまでは、光の兄の言うままに生きてきたお峯を光の側に立たせ、自分は影に回り、そのことを生き甲斐にしようと英泉は決心する。

 やっぱり、破天荒に適当に生きてそうに見せている人ほど、その内実はドロドロしているものよね、と思ってしまう。

 休憩後の後半、枯れてしまった英泉は何となくツマラナイ。
 長英は逆に酒浸りになっていて、お峯の語りでは別人になりきって、でも幕府転覆を目論み、町医者として信奉を集め、外国語の勉強まで始める精力的な人生を送っているように説明されていたのに、とんでもない。
 大きくなりすぎた自分のイメージに負けて酒に逃げ込んでいるようだ。

 でも、実際のところは、長英が酒に負けた理由は、英泉兄妹との逃亡生活の間、自分たちの生活がお峯の女郎稼業で支えられてきたことを当のお峯からとうとう告げられてしまったところにある、ように描かれている。
 英泉が用意した隠れ家が岡っ引きに囲まれた原因も、高橋由美子演じる越後屋の女房お半がついうっかりバラしてしまったように越後屋が売ったわけではなく、お峯が売ったからなのだ。

 さて、越後屋夫婦はともかくとして、英泉と長英とお峯と、このお芝居の中心を担っていたのは誰なんだろう。
 誰の視点を中心に見るかで、このお芝居の味方はだいぶ変わるような気がする。
 語りを勤めたお峯に感情移入するというのが一番素直な気もするのだけれど、そのお峯の視線が果たして長英に向いていたのか英泉に向いていたのか、最後まで判らなかった私には座りが悪い。
 好みのタイプはと聞かれたら、長英に賭けると決める前の英泉が一番好きな感じなのだけれど、近くにいられてああいうタイプの本音ばかり聞かされたらたまらないだろうな、という気もする。

 最後に勝ったのは誰だったのだろう。
 誰もが負ける物語だったんだろうか。
 実は、女郎として英泉に買われながら、越後屋の女将に収まったお半だけが勝っているのかも知れない。

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