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「キサラギ」
原作脚本 古沢良太
演出 板垣恭一
舞台脚本 三枝玄樹
出演 松岡充/今井ゆうぞう/佐藤智仁/中山祐一朗/今村ねずみ
観劇日 2009年4月18日(土曜日)午後6時開演
劇場 世田谷パブリックシアター 3階B列38番
料金 7800円
上演時間 2時間
全席指定で7800円、1階席でも3階席でも同じ料金ってどういうこと! と思っていたのだけれど、世田谷パブリックシアターの3階席は思っていたよりも見やすかった。
それでもやっぱり、1階席と同料金というのは納得がゆかない。
ロビーでは、松岡充関係のグッズ(額っぽかったけれど中味は不明)や、パンフレット(1500円)、アップルパイ(800円)などが販売されていた。
アップルパイが販売されていた理由は、芝居を見て判った。
ネタバレありの感想は以下に。
映画版の「キサラギ」を見たいと思っていて見逃してしまったので(結局、DVDでも見ていない)、舞台版はぜひ見たいと思っていた。
ワンシーンのシチュエーションコメディ、と言ってしまっていいと思う。
疑問が残るのは「コメディ」かどうかというところだろうけれど、題材の割りになんだかんだと笑わせてもらったと思う。
舞台固定のシチュエーションコメディというところでは、三谷幸喜のお芝居(例えば「笑の大学」)を思い起こさせるし、男5人のお芝居というところでは、第三舞台の「朝日のような夕日をつれて」を思い起こさせる。
このまま、様々な出演者、様々な演出で上演される、一種の定番になってくれたらいいのにな、と思う。
高校演劇の定番になっても楽しい(最後に歌と踊りが入るし、大がかりなセットは必要ないし)と思ったけれど、今どきもやはり高校演劇の主役は女の子なんだろうか。
「朝日」には女版があったけれど、この「キサラギ」を女の子5人が男性アイドルの一周忌に集まってその死の真相を探るというお芝居に作り替えるのはなかなか難しいかも知れないという気もする。
売れないアイドルだった如月ミキの一周忌に、彼女のファンサイト(なのか、掲示板なのか)で知り合った5人の男が彼女を偲んで集まることになった。
場所は、彼女が最初で最後のコンサートを行った市民会館である。
ネットでだけ付き合っていた5人が実際に顔を合わせるのはこれが初めてである。
果たして、という物語だ。
松岡充演じる家元が「一周忌に如月ミキを楽しく語り合おう」と呼びかけたところから始まった筈が、今村ねずみ演じるオダ・ユージが「死者を敬う気持ちはないのか」と発言したことから、福島から来ていた佐藤智仁演じる安男を近くの店に買いに行ってまで喪服となり、さらにオダ・ユージが「如月ミキは自殺ではなく殺されたんだとしたら?」と言い出した辺りから完全に雰囲気は一変する。
「しがない公務員だ」と自己紹介した家元は何故か警視総監を父に持つ警察官だったり、その彼が「如月ミキの死に事件性はない」と言い切ったところが、オダ・ユージは如月ミキはストーカーに悩まされていたと調査結果を明らかにして、中山祐一朗演じるいちご娘に疑いの目を向ける。
いちご娘は「見守っていただけだ」と主張するものの認められる筈もなく、でも、彼が今井ゆうぞう演じるスネークが如月ミキのアパートを訪ねていたことを明らかにする。
・・・という感じで、どんどん意外な真実が明らかになってゆく、ワンシチュエーション、ジェットコースタードラマなのだけれど、何故だか「謎が謎を呼ぶ」という雰囲気にならないところが可笑しい。
それは、「いちご娘」などというハンドルネームをつけていた人物がオッサンで、カチューシャを頭に付けていたり、自分で作ったアップルパイを食べた安男がお腹を壊してついでに空気も読めないものだからほとんど会話に参加できなかったり、「オダ・ユージ」というハンドルネームをつけたオッサンも決して自分が織田裕二ファンであることを認めようとしなかったり、ストーカーのいちご娘、如月ミキが常連だった雑貨屋の店員のスネーク、38kgも痩せたから誰にも気づかれなかった如月ミキの元マネージャーのオダ・ユージ、実は如月ミキの幼なじみだった安男に囲まれて、「自分だけがただのファンだ」と嘆いて拗ねて一人で歌など歌い始めてしまう家元だったり、脚本と演出と出演者陣の熱演が上手く噛み合った結果だったと思う。
中山祐一朗演じるいちご娘が如月ミキの実の父親でした、などという設定が許される年齢なのか、中山祐一朗は、というショックも味わえる。
集まった5人がそれぞれに如月ミキを語り、自分を語り、どんでん返しの連続で話が進められてゆく。
時々差し挟まれる「緩和」が効いていて、手に汗握って引き込まれて見てしまいつつ、同時に何となく余裕をもって楽しんで見ている自分もいる。
やっぱり「上手い」のだと思う。
そして、如月ミキは事故死だったのだろう、という結論を5人は出す。
彼女の事故死(しかも焼死である)に責任があると思いたがる5人の心情は今ひとつ理解しがたいところがあるし、その事故死は悲惨極まりないと思うのだけれど何故だかその結論に達した5人が晴れやかなのも気になる。
でも、そこで「何か違うのでは・・・」という感じが頭をよぎったところで、「如月ミキのラストコンサートを再現しよう」と5人の話がまとまり、いかにもなショッキングピンクの長い法被を着た5人が登場し、如月ミキの唯一のCDに合わせて踊り出す。
場内、大拍手の手拍子の大笑いである。
この振付は今村ねずみだったんだろうか。
どう見ても、彼が一番生き生きと楽しそうに大げさに軽やかに踊っていた。なおかつ、今村ねずみが一人勝ちしてしまうこともない。
それを言うなら舞台全体を通して出演した5人の俳優の誰かが突出して一人勝ちしてしまうこともなく、見事に「キサラギ」というお芝居を見せてくれたということ自体、この出演者陣から考えて凄いことのような気がする。
とにかく、楽しかった。
この楽しさには、演出が板垣恭一というのも大きかったと思う。
時々オペラグラスの助けも借りたけれど、俯瞰な感じで見られたのも却って良かったのかも知れない。5人には広めの舞台を大きく使って、表情が見えにくいことを十分カバーされていて、「遠いところで何かが起きている」という感じではなく見ることができた。
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