「マタイ受難曲」を聴く
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2009「バッハとヨーロッパ」
出演 シャルロット・ミュラー=ペリエ(ソプラノ)
ヴァレリー・ボナール(アルト)
ダニエル・ヨハンセン(テノール)
ファブリス・エヨーズ(バリトン)
クリスティアン・イムラー(バリトン)
ローザンヌ声楽・器楽アンサンブル
ミシェル・コルボ(指揮)
曲目 J.S.バッハ:マタイ受難曲 BWV244
公演日 2009年5月5日(火曜日)午後7時45分開演
場所 国際フォーラム ホールA 2階23列30番
料金 1500円
公演時間 3時間10分(15分の休憩あり)
チケットが取りやすかったというだけの理由で、初ラ・フォール・ジュルネはバッハの「マタイ受難曲」になった。
ちなみに、他に狙ったのは無伴奏チェロソナタとブランデンブルクだったのだけれど、どちらも会場がそれほど広くないのと、私くらいの「クラシックなんてほとんど聴かない」人間でも耳に慣れたメロディであるのと、その両方が理由だと思うのだけれど、速攻で売り切れていた。
感想は以下に。
チケットが取りやすかったという理由とは別にもう一つ「マタイ」を選んだ理由があった。
海棠尊の「ナイチンゲールの沈黙」という小説で、田口医師が様々な演奏家と指揮者によるマタイ受難曲を聞き分け、そして、バッハがこの曲を作曲したときに滞在していた場所(お城だったような気がする)をイメージできるように訓練するというシーンがある。
さて、この曲を聴いた私にもその景色が見えるだろうかと思ったのだ。
そういう理由なら、B席1500円という値段設定はもってこいである。
CDでは飽きちゃって途中で聴くのを止めてしまったり、何か他のことを始めてしまったりする可能性があるけれど、コンサートならその心配もない。
そういうわけで、「マタイ受難曲」というのが一体どういう曲なのか、どういった編成で演奏されるのか、演奏するのはどこで指揮者は誰でソリストは誰なのか(何故だか人間の声が入るということだけは知っていた)、全く何の知識もないまま出掛けていった。
周りの人を見ると、パンフレットを持っていたり、マタイ受難曲の歌詞カード(カードというか冊子だったけれど)を持っていたりしていたので、どこかで購入できたらしいのだけれど、ギリギリに駆け込んだ私には見つけられなかった。
後になって、「マタイ受難曲」がバッハの代表作であるばかりでなく、西洋音楽の最高峰などともいわれていると知ったのだけれど、申し訳ないことに、コンサートではやけにのんびりとふんふんという感じで聴いてしまった。
「マタイ」だし(意味は知らない)、「受難」だし、勝手に暗くて重苦しい曲を想像していたのだけれど、聞き始めると意外に明るく爽やか、軽い感じの曲調で驚いた。
しばらくは、これは嵐の前の静けさで、そのうちドドーンと揺り返しがあるんじゃないかと身構えていたのだけれど、どうもそういう感じではない。
そもそも、編成からして、例えばチューバとかティンパニーとかおどろおどろしい曲調に不可欠な楽器は並んでおらず、(推定)チェンバロや(推定)チターなど、そもそも迫力のある音が出なさそうな楽器が中心にある。
合唱も総勢30人くらいで、半数が女声である。
ソリストも、一番多く歌っていた人はテノールで、低音の迫力で押しまくるという感じではない。どちらかというと柔らかく語りかける感じである。
これは、私が歌詞も背景も全く知らずに聴いていたがための「知らぬが仏」で、実はおどろおどろしい内容が歌われていたのだろうか。
でも、私がほとんど唯一聞き取れるという理由で耳に付いただけかもしれないのだけれど、歌詞にもやたらと「Ich」が含まれていて、どうも宗教曲の感じがしない。「私が私が」と自己主張する宗教というのはどうも自己矛盾な気がするのである。
これまた後になって確認したところでは、「マタイ受難曲」で歌われているのは、イエス・キリストが自分の受難を弟子達に向かって予言(いや、預言が正しいのかも)するところから、イエスが埋葬されるところまでらしい。
明らかに判りやすく悲劇的な物語である。
だとすると、実際に聴いていたときのあのやけに明るい柔らかい印象は一体どうしたことだろう。
でも、途中からはやたらとリラックスし、3時間歌うのだから当然だけれど本のような楽譜をめくっている舞台上の歌手の方々を見ながら「うーん、長い」などと思い、合唱団が立ったり座ったりする度に椅子がガタガタ鳴るのが気になって、もう少しいい椅子を用意してあげればいいのにと思ったり、客席で一斉に歌詞カードをめくる音がするたびに「みんな真面目に歌詞を追っているのね」と思ったり、少しだけ落ちてみたり、周りを見回してやっぱり落ちている人を見て安心したりしていた。
もの凄く邪道な音楽の楽しみ方なのかも知れないのだけれど、でも、心地よくうとうとしたり、画面に映し出される指揮者やソリストをじっと見つめたり、何だか楽しかった。
演奏が終わったとき、指揮者のおじいちゃんがほっとした笑顔を見せていて、それがあまりにも可愛らしい(という感想も失礼かも知れないけれど)笑顔だったのが、特に印象に残ったのだった。
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