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2009.05.09

「容疑者Xの献身」を見る

「容疑者Xの献身」演劇集団キャラメルボックス2009スプリングツアー
原作 東野圭吾
脚本・演出 成井豊
出演 西川浩幸/岡田達也/西牟田恵/斎藤歩
    川原和久/大森美紀子/前田綾/三浦剛
    筒井俊作/實川貴美子/石原善暢
観劇日 2009年5月5日(火曜日)午後2開演
劇場 サンシャイン劇場 9列19番
料金 7000円
上演時間 2時間20分

 久しぶりにサンシャイン劇場に行ったら、木目調かつバリアフリーに改装されていて驚いた。
 改装していることすら気づいていなかったのだから、相当長期間、サンシャイン劇場に行くことはなかったらしい。

 ロビーでは相変わらず様々なグッズが販売されていたけれど、チェックして欲しくなると困るので近寄らないようにしていた。

 終演後、何故か加藤プロデューサーが「湯川が飲んでいたのと同じです」とインスタントコーヒー(100円)の宣伝をしていた。

 演劇集団キャラメルボックスの公式Webサイト内、「容疑者Xの献身」のページはこちら。

 3月のハーフタイムシアターはチケットを取ったのに行きそびれてしまったので(本当に惜しかった!)キャラメルボックスの芝居は久しぶりである。
 今回も出演している岡田達也がプロデュースした(だから、純粋にキャラメルボックスのお芝居とも言いにくい)「猫と針」以来ではなかろうか。

 久しぶりで驚いたことはもう一つあって、開演前の加藤プロデューサーによる前説がなくなり、代わりに映像で注意事項が語られ、ついでのようにテレビドラマみたいな出演者紹介が流されたことである。
 終演後に加藤プロデューサーを見かけたし、出演者紹介のシーンもあったのだから、今日だけの特別措置ではないと思われる。
 キャラメルボックスも随分と変わったな、芝居でこういう映像の使い方をするのも随分と普通になったのだなと思ったのだった。

 「容疑者Xの献身」は、映画は見ていないけれど、原作は読んでいる。
 しかも、珍しいことに、ネタバレというのかこの本の仕掛けもほぼ完全に覚えていたので、ちょっと勿体ないことをしたなと思っていた。
 原作があって、舞台化したり映画やドラマなど映像化したりした場合、原作は後から読んだ方が両方を楽しめるというのがこれまでの私の経験則なのである。
 しかも、今回は、同じ「探偵ガリレオ」シリーズの短編集をドラマ化した作品は何回か見たことがあったので、映像のイメージも微妙に残っているという状態だった。

 結論からいうと、原作を読んでいても、映像のイメージが残っていても、この「容疑者Xの献身」というお芝居は面白かった。
 ストーリーも結果もほぼ知っていたにもかかわらず、何だか引き込まれてしまった。

 ガリレオの短編集も「容疑者Xの献身」も、私は「ガリレオ」が主人公だと思って読んでいたのだけれど、この舞台の主役は明らかに西川浩幸演じる石神だった。
 そこが、私は初めて辿るストーリーのようにこの舞台を楽しめて理由のような気がする。
 湯川の一人勝ちに持って行かなかった成井豊の作・演出と、岡田達也の作った湯川学像との勝利なんだと思う。

 恐らく、この舞台は原作にかなり忠実に舞台化していたのだと思う。
 唯一「そうだったっけ?」と思ったのは、西牟田恵演じる花岡靖子について、「美しい」と連呼されるところだ。私の超いい加減な記憶によると、花岡靖子が美人ではないところが、石神という男の「何か」を表している、という設定だった筈なのだけれど、恐らくは私が勝手に自分の記憶をねじ曲げているのだろう。

 「容疑者Xの献身」であると判る本を手にした役者が、代わる代わる舞台袖に立ち、小説の地の文を読むことで、長編小説を2時間20分にまとめている。
 そう考えると、映像の情報量というのはもの凄く多いのだなと思う。
 その「伝えることのできる情報量」を何に使うかというのはまた別の問題で、この舞台は、キャラメルボックスのお芝居としては(これまた私の不確かな記憶によると)珍しく回り舞台を使っていて、どちらかというと抽象的なセットを何通りにも見せる、下手をするとセットなんて無視してシーンを演じるこれまでの作りとは異なり、ある程度「リアル」なセットを用意している。
 もしかしたら「映像化された作品である」ということが影響しているのかも知れないし、石神を地に足の着いた人間として見せるために必要だったのかも知れない。

 石神が何をしたかが明らかになってくる後半、周りからはすすり泣きが聞こえてきていて、ここは泣くところじゃないだろうと思っていたのだけれど、最後の最後、自首して逮捕され「花岡靖子のストーカーだった」という作り上げたストーリーを完璧に演じていた石神が、その花岡靖子が駆け込んできて「私も一緒に罪を償います」と泣き叫んだとき、初めて折れる。
 そして、そういうことを望んでいたのではないと号泣する。

 湯川のいう「最高の頭脳」は、自分が折れそうになることまで計算して退路を予め断っておくほど完璧だったのに、彼女と娘の心の動きまでは計算できなかった。
 石神の号泣の理由はそこにはないのだけれど、でも、何だかそんなことを思ってしまった。

 多分、今回上演されたのがキャラメルボックスのオリジナル作品だったらチケットを取ったかどうか微妙だし、原作があってキャラメルボックスで舞台化された作品が軒並み好評を博していることは知っている。
 この「容疑者Xの献身」も、見事だったし、何より面白かった。
 でも、次はキャラメルボックスオリジナル(原作のある作品ではなく、という意味である)の新作が見たいと思った。

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