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「NINAGAWA十二夜」
作 ウィリアム・シェイクスピア
演出 蜷川幸雄
出演 尾上菊五郎/市川段四郎/中村時蔵/中村翫雀
中村錦之助/尾上菊之助/尾上松也/坂東亀三郎
市川亀治郎/河原崎権十郎/坂東秀調/市川團蔵/市川左團次 他
観劇日 2009年6月27日(土曜日)午前11時30分開演
劇場 新橋演舞場 2階3列39番
料金 15000円
上演時間 3時間45分(40分の休憩あり)
歌舞伎の場合はパンフレットではなく「筋書き」だったか、それが1200円で販売され、イヤホンガイドは650円で貸し出し(プラス、保証金が1000円)されていたけれど、どちらもなくても大丈夫だった。
ネタバレありの感想は以下に。
ネタバレありとはいうものの、いわずと知れたシェイクスピアの「十二夜」を歌舞伎に翻案した作品だから、ネタも何もあったものではない。
それでも、やっぱり、随所に蜷川演出らしい「仕掛け」が施されている。
蜷川演出自体を見るのが久しぶりだったせいか、蜷川さんがよくギリシャ劇を演出する際に使っていた「鏡」の演出がここでも使われていた。
歌舞伎の三色の幕が引かれると、そこには舞台一面の鏡がある。
観客達は、舞台上に自分たち自身の姿を見ることになる。
ギリシャ劇の時代、すり鉢上の円形劇場で上演されていたことから、観客は常に観客を見ていたし、観客から見られていたのだという発想から出て来ている演出である、らしい。
正直にいえば「またか」と危うく呟いてしまうところだったのだけれど、「おぉ!』と観客席からどよめきが起きたのも事実である。
しょっぱなは、左大臣(この人、シェイクスピア劇では何という名前だったか)が、織笛姫(これはオリヴィエ姫だとすぐ判ってよろしい)への恋心を語るシーンである。
これは多分、この後の船の舳先に立ってスポットライトを浴びて登場した斯波主膳之助(というよりも、尾上菊之助)を際立たせるための演出だろう。
この後も、場面転換では登場人物が静止し、スポットライトを浴びて、そのまま回り舞台で登場したり退場したりといった演出が多かったと思う。
歌舞伎だけれども、「できるだけ判りやすく」「敷居は低く」という意図があるのか、言葉はかなり平易だし、コミカルな動きも多い。
斯波主膳之助とその双子の妹である琵琶姫(彼女がヴァイオラというのもなかなか判りやすい)、琵琶姫が男に扮した獅子丸(この元がセバスチャンというのはちょっと苦しいと思う)とを一人で演じた尾上菊之助の早変わりは見事で、驚きの連続である。
お化粧を直している暇はなかったと思うので、顔の化粧は変えないまま、着物とかつらと声と仕草だけで演じ分けていたということになる。
そして、実は尾上菊五郎も丸尾坊太夫と捨助といういずれも織笛姫の屋敷にいる家来と道化との二役を演じていて、地味に早変わりを見せていたのが印象的である。
この「早変わり」と男と女の入れ替わりという要素があるから、菊之助がシェイクスピア作品を演じるなら十二夜だと思ったというインタビューをどこかで読んだような気がするのだけれど、さもありなんという感じである。
しかも、兄を演じているときには格好いいし、妹を演じているときはたおやかだし、男装の妹を演じているときには明らかに兄とは違ってなよなよしている。
実は、最初に琵琶姫が登場したときには「あんまり奇麗じゃない」と思ったのだけれど、物語を追うに従ってどんどん奇麗に見えて来たところが不思議である。
この作品はロンドン公演の凱旋公演なわけだけれど、ロンドンの人はどんな感じでこのお芝居を見たのだろう。
結構、言葉遊びを使っていたけれど、そこの翻訳はどうしたんだろうか。
日本で英語の公演があって日本語字幕が出る場合は、舞台の両脇に縦書きで出ることがほとんどだと思うのだけれど、英語字幕だと横書きで出さざるを得ないだろう、そうしたら舞台のどこに設置したんだろう、それとも「字幕なんぞなくても判る」と強気の姿勢を貫いたんだろうか、それとも音声ガイドごと持って行ったんだろうか、などと阿呆なことを考えてしまう。
それに、シェイクスピア劇を歌舞伎に翻案したお芝居をシェイクスピアの本場で上演するというのはどういう感じなのだろう。
例えば、例えば、忠臣蔵をイギリスの昔の騎士物語に移し替え、それを英語で日本で上演するような感じなんだろうか。
十二夜は入れ替わりと成り済ましの物語であると同時に、織笛姫の屋敷の使用人たちが、同じく使用人ででも礼儀作法に詳しくて威張っている奴をだまくらかして辱めてやろうという物語でもある。
これを「笑う」という感覚は、シェイクスピアっぽいということになるんだろうか。
入れ替わりということでいえば、左大臣が織笛姫に恋をし、織笛姫は左大臣の使いで来た獅子丸(実は琵琶姫)に恋をし、琵琶姫は左大臣を慕っている。
そこへ、斯波主膳之助が現れて、織笛姫は獅子丸だと思い込んで求愛し、斯波主膳之助は何を思ったかあっさりとその求愛を受け入れる。
この斯波主膳之助の行動もよく判らないし、後で実は獅子丸と斯波主膳之助は別人であると知った織笛姫が「女が女に恋していたなんて恥ずかしい」とは言うくせに、斯波主膳之助との結婚を解消しようとか、せめて考え直そうとか、全くしないところが謎である。
普通、あり得ないんじゃなかろうか。
そしてまた、織笛姫にあれだけご執心だった左大臣が、獅子丸が女だったと知ったとたん、あっさりと織笛姫から琵琶姫に乗り換えるのも謎である。
いいのか、それで。
結局、歌舞伎になっても十二夜を見たときに「ありえなーい!」と思ったところはそのままで、特に納得するような説明もなかったのだけれど、これはこれでいいんだと思うしかないようである。
これはもう、鏡の演出や、コミカルな動きや、英語が混じってくる平易な台詞回しや、回り舞台を多用した大掛かりな転換や、雅やかな衣装や、そういった「ハレ」のきらびやかさを楽しむのが正解なんだろう。
楽しかった。
お白州で裁かれるヴェニスの証人とか、どこを舞台にすればいいのか判らない夏の夜の夢とか(やっぱり妖精たちは天狗になるしかないんだろうか)、山内一豊の妻のように夫を支えるマクベス夫人とか、そういうのも見てみたいと思った。
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