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「狭き門より入れ」
作・演出 前川知大
出演 佐々木蔵之介/市川亀治郎/中尾明慶
有川マコト/手塚とおる/浅野和之
観劇日 2009年8月28日(金曜日)午後7時開演
劇場 パルコ劇場 N列1番
上演時間 2時間5分
料金 7500円
開演時間ぎりぎりに駆け込んだので、ロビーで販売していたパンフレットのお値段などはちぇっくしそびれてしまった。
ネタバレありの感想は以下に。
パルコ劇場のN列というのは最後列である。
最後列の一番端から見るというのも、意外と全体が俯瞰できて面白かった。
セットが、やたらと明るくて「死角があって当然」という感じに思えるコンビニだったからかも知れない。
私は、前川知大の創るお芝居は「カタルシスのある不条理もの」だと思っているのだけれど、今回はカタルシスが減った分、役者陣のワザと魅力を見せることに衷心した、という風に見えた。
これだけの個性と芸達者が集まれば、それはそれで面白いし、特に佐々木蔵之介の演技は惑星ピスタチオの頃をちょっとだけ思い出させて楽しいのだけれど、私としてはカタルシスが欲しかった。
ラストシーンで舞台の照明が落ちた瞬間、「ここで終わり? このお話、まだ落ちていないよね? ここで終わりじゃないよね?」と心の中で目一杯叫んでしまった。
あれは落ちていないと思う。
舞台はコンビニで、弟が店長を務め、そこに父親と喧嘩して家を出て行った兄が会社を辞めたとかで数年ぶりかで帰ってくる。
その帰宅の途中、佐々木蔵之介演じる兄は、市川亀治郎演じる7年前に亡くなった友人にそっくりな人物に出会う。この人物と、この人物と行動をともにしている手塚とおる演じる男とが、「この世のものではない」存在である。
いいのか、そんなに普通に存在して。
手塚とおるの舞台姿を久々に拝見したと思うのだけれど、相変わらずの怪しさ満載のたたずまいと演技で、こういう怪しげな役をやらせたら天下一品である。
佐々木蔵之介と市川亀治郎というコンビは、最近、TBSのテレビドラマ「ハンチョウ」でも見たところで(市川亀治郎がゲスト出演し、米国の日系の刑事を演じていた)、何だか懐かしい感じがする。もっとも、テレビで見たときとは2人とも役の感じが全く違っていて、特に佐々木蔵之介はこのお芝居の前半は「鼻持ちならない嫌な奴」を見事に演じきっている。
もしかして地なのかと思ってしまうくらいだ。
手塚とおると市川亀治郎のコンビは、この世界を「更新」しようとしていて、「更新」というのはパラレルに存在するちょっとずつ「ましな」方向に操作してきた世界に、人類の60%の人間を移動させよう、というプロジェクトである。
プロジェクトではなく、もうちょっと宗教的というか神秘的なことかも知れないのだけれど、私の目には、プロジェクトに見えた。
それはともかくとして、この2人が佐々木蔵之介演じる男にアプローチしてきたのは、この男の父親が、「更新」の際に古い世界から新しい世界へと通じる門の門番をしていて、でも、脳卒中で明日をもしれない命であることから、その門番の役割を継承させようと企んでのことである。
この辺りの設定は、もの凄く前川知大らしい感じがする。
その「新しい世界」に移れる人が一部であることや、「新しい世界」に通じる門を閉める役割である「柱」の人々は古い世界に残らなければならない代わり、自分の家族を無条件で新しい世界に送ることができるという特権を持つなどということが、少しずつ明かされてゆく。
間に、市川亀治郎演じる男が自殺した経緯や遺体が見つからなかったこと、佐々木蔵之介演じる男が会社で不正(横領だったか)を摘発したその相手が、自分をその会社に引っ張ってくれた浅野和之演じる父親の古い友人で、その後、その男は父親と弟が経営するコンビニに入り浸っていることなどが明らかにされてゆく。
市川亀治郎のスーツ姿も格好いい。絵になる。これで歌舞伎に出演するとちょっと年増の綺麗なお姉さんを演じてしまうのだから、歌舞伎役者とは恐ろしい人々である。
脚本を最初から緩めというか遊びの要素を計算にいれて書いたのか、それとも役者陣がいつの間にかそれぞれ自分流に崩していったのか、「イキウメ」の舞台に比べて、何となくカチっとしていない印象を受ける。
同じ脚本を「イキウメ」で上演したら、もっと作り込まれた感があったのではないかという気がする。
佐々木蔵之介演じる男は、最後、自分が父親の後を継いで「柱」という古い世界に残る役割を担うから、弟やコンビニに居合わせた男達は新しい世界に送ってくれと懇願する。
この豹変ぶりが、本当に「豹変」という感じで、実はよく判らなかった。
そして、その「柱」になれるための基準、新しい世界に行ける基準が何かあるらしいのだけれど、手塚とおる演じる男は小出しにしてみせるだけで、どんな条件なのか、佐々木蔵之介演じる男に伝えようとしない。
いかにも性格悪い感じだけれど、人を天国か地獄かに分ける役割を持った奴がそうそういい奴であるはずもないのだった。
それにしても、佐々木蔵之介演じる男が弟を新しい世界に送ろうとするのは「普通の強さ」というか、「普通であることの偉大さ」を弟と会話するうちに実感したためなんだろうという気がしたのだけれど、あとの2人をどうして必死になって救おうとするのか、「柱」としての役割を許されたはどうしてなのか、そもそも彼の父親はどうして「柱」という役割を引き受けていたのか、細かいといえば細かいところを掴む前にお芝居が終わってしまった感じで、私としては不完全燃焼という気持ちが強い。
けれど、脚本・演出も、出演者陣も、いずれも魅力的だし、「この先どうなるんだろう」という興味で最初から最後まで(いささか強引に)引っ張って行かれる感じも実は好きだったりする。
見応えのある公演だった。
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コメント
サニー様、コメントありがとうございます。
あら、同じ公演をご覧になっていたんですね。
そうしたら、ロビーとかエレベータとかですれ違っていたかもしれませんね。
サニーさんは手塚さんがお好きなんですね。
でも、本当に怪しさ満載ですよね。手塚さんが出演されていなかったら、「不条理」という印象がだいぶ薄まったんじゃないかという気がするくらいです。
またどうぞ遊びに来てくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2009.08.31 22:22
姫林檎さん、こんばんは。
私もこの日のこの公演観てましたよー!
脚本や演出に、やや詰めの甘さを感じましたが、
総じて、まぁ面白かったです。
前川さんらしい世界観でしたね。
役者さんは豪華で魅力的でしたー。
私は怪しさ満載(笑)の手塚さんが好きなんです♪♪
投稿: サニー | 2009.08.30 23:51