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2009.08.30

「コーラスライン」を見る

ブロードウェイミュージカル「コーラスライン」Bunkamura20周年記念企画
原案・原作・演出・振付 マイケル・ベネット
劇作・脚本 ジェームズ・カークウッド&ニコラス・ダンテ
音楽 マーヴィン・ハムリッシュ
作詞 エドワード・クレバン
観劇日 2009年8月29日(土曜日)午後1時開演
劇場 オーチャードホール 1階18列28番
上演時間 2時間15分
料金 12500円

 昨年秋に映画「ブロードウェイ♪ブロードウェイ コーラスラインにかける夢」を見た以上、やはり本編というのか「コーラスライン」を見てみたいと思って出かけて行った。

 ロビーではパンフレット(1500円か2000円かどちらかだったと思う)やTシャツなどが販売されていた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 映画「ブロードウェイ♪ブロードウェイ コーラスラインにかける夢」で出演者陣とは馴染みができているつもりだったのだけれど、舞台が始まったときには、「あれ? あのとき見たキャストが来日している?」と思ってしまった。
 しばらく見ているうちに(特にコニー役の女の子が日本人だということが印象に残っていたので)、あぁ、やっぱりあの映画でオーディションの過程を見た俳優さん達が来ているんだと納得した。

 最初のうちは、「この人たちだっけ?」という疑問とともに見ていたせいもあるのか、何だか、暖まっていない感じがした。
 出演者も多いし、舞台奥に鏡を設置してあったこともあって、舞台上はかなり人がたくさんいるように見えるのだけれど、それでも舞台が空いている印象なのである。
 どうしてそういう印象を受けたのかはよく判らない。
 でも、映画でも歌声を聴いて印象に残っていた「At the Ballet」が始まった頃から、「うん、エンジンがかかってきた」という感じになった。

 映画ではあまり感じていなかったのだけれど、コーラスラインで各オーディション出演者が語る「自分」は、ほぼ「家庭」と「性」の問題に集約されるように思う。
 そこから外れたことを語っていたのは、「身長が147cm」と歌い上げていたコニーくらいではないだろうか。
 これがアメリカ合衆国ということなのか、これがショービジネスということなのか、よく判らないけれど、あまりにもその2点に集約されるので、何だかちょっとたじろいでしまった。

 そうやって「自分を語る」歌を歌っているときは、それはオーディションではないので、当然、みな上手い。
 鳥肌が立つようなことも何度もある。

 一方、ダンスは「オーディションを受けている」という前提だし、「役として」踊っているので、微妙に下手だったりする。
 最初はそこが気持ち悪かったのだけれど、だんだん、「これってもの凄いことなんじゃないか」と思い始めた。
 俳優さん自身ではなく、役としての個性を見せつつ、下手に踊る。
 踊っている姿を見ているだけで、その役がどういう性格なのかが伝わってくる。
 多分、そこで自分を出してはいけないのだ。徹底的に自分を殺して、役だけを見せる。
 そう思い始めたら、そのこと自体に鳥肌が立ってしまった。

 でも、正直にいうと、何故だか今回の舞台で歌を聴いたり踊っているのを見ているときよりも、映画の中でオーディションとして練習として歌ったり踊ったりしている姿を見ていたときの方が感動が大きかったような気がする。
 何故だろう。
 メイキングを見てから本編を見るべきか、本編を見てからメイキングを見るべきか、難しいところだなと思う。

 映画の中で「キャシーは難しい役だ」と演出家(だったと思う)が語っていたけれど、映画を見ているときは、キャシーが「コーラスライン」という舞台の演出家役の元恋人という設定だとは気がついていなかった。
 その難しさは、「一度スポットライトを浴びてコーラスラインより前で踊ったことのある実力と実績のある役」を演じるところにあるのだと思っていた。
 周りの出演者よりも一段抜けているところを見せなくてはならない。

 今回、舞台を見て、演出家とキャシーが痴話喧嘩すれすれにやり合っているシーンを見て、キャシー役の難しさはこの痴話喧嘩を踊ることで何かに昇華させなくてはならないところにあるんじゃないかと思った。
 そうしないと、やけに安っぽいメロドラマの印象だけが残ってしまう。
 今回のキャシーは、一人で踊ることで確実に舞台を埋めていたと思う。

 そういえばラストシーンがどうなるかは知らなかったと思って、どう終わるんだろうとドキドキしていたら、あっさりと合格者8人が決まって幕が下りた。
 そこで、名前を呼んで一歩前に出させた方の8人が失格者だというところが意地悪である。
 その前に、アンディだったか、名前を呼んで、満面の笑顔になったところで「いや、間違えた」と言って下がらせているのだから、余計にそう思う。

 それまでオーディションの様子が演じられていたから揃っていなかったダンスが、最後の「コーラスライン」では、気持ち悪いくらい足を上げる高さから体の向きから帽子の角度まで揃う(いや、ちょっと揃っていなかったかも知れない)。
 そのギャップが、この出演者たちとこのミュージカルの質の高さと、かけてきた時間と情熱とを見事に見せつけているなと思ったのだった。

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