「Stitch by Stitch 針と糸で描くわたし」に行く
一昨日(2009年8月29日)、2009年7月18日から9月27日まで、東京都庭園美術館で開催されている「Stitch by Stitch 針と糸で描くわたし」展に行って来た。
タイトルだけ聞くと、もの凄く緻密かつ丹念に作られた刺繍やキルティング、刺し子などの作品が展示されているような印象を受けるけれど、実際のところ「針と糸」は8人の作家の共通の「道具」であるだけであって、あくまでも展示されている作品は「現代美術」であるというところに、この展示の意味はあるのだと思う。
入るとまず、手塚愛子の、あえて裏面を見せている大きな刺繍作品が目に飛び込んでくる。
何というか、裏側の糸の渡り方を見せ、その糸を長く引いて、作品が沢山の糸で繋ぎ止められているように見える。
もちろん、布地は非常に薄地である。「裏を見せる」ことが全ての前提になっているように思う。
だから、刺繍糸も一作品で一色しか使っていないのではないだろうか。
この後は順不同だけれど、村山留里子の黒地を背景にした、ビーズやスパンコールや造花など、いかにも「女の子チック」なものを集めてこれでもかと飾った作品の迫力はすごい。
黒いマントの裾を少しだけ開けて見せ、そこの強力なスポットを浴びせて中の「女の子チック」なものの集積を浮かび上がらせる。
コワイ。
でも、多分、この怖さが身上なのだろうと思う。
奥村綱雄のブックカバーは、遠目に見ると単なる一枚の布地にしか見えないのだけれど、より目になるくらい近寄ると、そのブックカバーは「玉留め」で埋め尽くされていることが判る。
これまた、コワイ。
この執念深さと緻密さは一体どこからやってくるのだろう。
あまりにも時間がかかるので、できあがった作品には手垢がついている、という解説もまた恐ろしい。
洗濯しないんですか? と聞きたくなる。
伊藤存の作品が、中では一番「判らない」という印象が強い。
モチーフも判りにくいし(どうも「物」を浮かび上がらせようとはしていなくて、心象風景のようなものを見せようとしているようだ)、そのタイトルの意味がよくわからないのである。
ヌイ・プロジェクトは、10年ほど前にはじまった、鹿児島県にある知的障害者施設「しょうぶ学園」の刺繍工房の活動の名前なのだそうだ。今回は、大島智美のビーズ刺繍による棺桶カバー(西洋風のドラキュラが復活しそうな形の棺桶用なので、本当にドラキュラがそこから現れるような感じがする)やや、吉本篤史のオーガンジーにたくさんの玉留めを施すことでドレープを寄せた作品が出展されている。
この吉本篤史の作品が私は一番好きだったのだけれど、現在は、このラインの作品は制作していないという説明もあってちょっと残念だった。
また、彼らの作品は基本的にタイトルをつけていないようなのだけれど、美術館としては、いわゆる美術家が作品に「無題」とタイトルをつけるのとは違う意味合いを持つとして、作品のタイトルしてあえて「無題」とは表示しないという説明があり、納得したのだった。
秋山さやかの地図をベースにした作品も何だかいい感じだった。
「その場」にいて製作するということで、庭園美術館にも通って(だと思う、泊まってではないのではないか)製作したそうで、その制作中の部屋の様子をインスタレーションとして展示してあった。
市販の地図の上に、刺繍やビーズやボタンなどで印を付けていく。
この印は「自分が行ったところ」の印なのかな、色や素材には「好き」とか「キライ」とかその場所の印象が象徴されているのかななどと考えると楽しい。
清川あさみも、村山留里子につながるコワサがある。
美女の写真(ポスターかも)に直接キラキラしたスパンコールなどを縫い付けてある。あるテーマを決めて、その美女を飾っているのだ。
「VOICE」というタイトルの作品では、口から四方八方に何かが飛びだして流れていく様子が描かれているし、「HEART」という作品では、胸の辺りから赤いハートが浮かんでいる。
この作品をコンプレックスと結びつけるのは違うんじゃないかという気がした。
最後に、竹村京の作品が、何と言うか、一番「Stitch by Stitch」ぽかったと思う。
これまた写真をバックに、薄い紗を垂らし、そこに繊細に糸を渡していく(縫ってあるとか刺繍してあるとかいう感じではない)。
そして、人物は後ろ姿が多い。
どちらかというと、こちらの作品の方にコンプレックスを感じる。それは多分、自分の存在に対するコンプレックスである。
自分では手芸とか手を動かすことは苦手でほとんどしないのだけれど、行って見て、なかなか楽しかった。
招待券をくださった友人に感謝! である。
庭園美術館には新館があって、前に来たときにはそこにミュージアムショップや喫茶室などちょっとした休憩ができるスペースがあり、関連のDVDなどが流されたりもしていたのだけれど、今回行ったら閉まっていた。
建て替え等も含めて検討中で、その結論が出るまでは閉じます、ということらしい。
残念である。
代わりに休憩スペースとしてウッドデッキが作られていたけれど、ウッドデッキでは雨の時には休憩できないんじゃないかなと思った。屋根があったかどうかは覚えていないのだけれど、壁はなくて、ベンチが周りに設置されているという造りだったので。
東京都庭園美術館の公式Webサイト内、「Stitch by Stitch 針と糸で描くわたし」のページはこちら。
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