「ザ・ダイバー」を見る
「ザ・ダイバー」日本バージョン
作・演出・出演 野田秀樹
出演 大竹しのぶ/渡辺いっけい/北村有起哉
観劇日 2009年8月29日(土曜日)午後7時開演
劇場 東京芸術劇場小ホール B列8番
上演時間 1時間35分
料金 6500円
前日に友人から「チケットが余っているんですがどうですか」とメールが入り、一も二もなく飛びついた。
本当に感謝! である。
ロビーではパンフレット(500円)が販売されていて、彼女が購入していた。
ネタバレありの感想は以下に。
「ダイバー」の英国バージョンは何年か前に見たことがある。
英国バージョンなので、当然のことながら台詞は英語で、電光掲示板による日本語訳が流されていたと思う。
今回と同じ役で野田秀樹が出演していたのだけれど、その野田さんが台詞を日本語でしゃべっていたか、英語でしゃべていたか、よくよく思い返してみると記憶がない。どちらだったんだろう。
今回は、もちろん全員が日本語をしゃべる。
英語の台詞との齟齬とか、電光掲示板に出る役と実際のしゃべり言葉との齟齬とかは判らないのだけれど、台本は恐らく変わっていないと思われ、セットを始めとする道具立ても、演出も、それほど大きな違いはなさそうな気がする。
「赤鬼」では、英国バージョンやタイバージョンとは、演出も、出演者数も異なっていたのとはかなり違う。
ということは、それは、「わざと」同じにしたということなんだろう。
それでも、印象が随分と違うのは、日本語で上演されているという現実的な問題とは別に、大竹しのぶが「ヤマナカユミ」を演じているからだと思う。
もっとも、大竹しのぶは「ヤマナカユミ」だけではなく、ヤマナカユミが思い込んでいる自分の姿であるところの、源氏物語の桐壺の更衣や夕顔、六条の御息所などを次々と演じて行く。
その切り替えは無茶苦茶早い。
怯えた表情から冷たい眼に変わり、甲高いくらいの声から一転して低い声でささやくようにしゃべり出す。
いつもながら、見事である。
「贋作・桜の森の満開の下」の毬谷友子を見たときも思ったけれど、やはり役者は声だよ、と思う。
前回は、野田秀樹演じる医者も多分英語の台詞をしゃべっていたと思うのだけれど、びっくりするくらい印象が変わらない。
渡辺いっけい演じる刑事に対してはかなり慎重派というか、激発を抑えるように冷静な対応をしようとしているのだけれど、実際のところ、彼の精神鑑定は辛辣だと思う。
医者は(も)ヤマナカユミを疑っていて、でもそうは見せず、ふとした瞬間に言葉を強く誘導的な質問をすることで、ヤマナカユミの化けの皮を剥がそうとしているように見える。
はっきり言って、イヤな奴である。
刑事だってかなり強引なやり方でヤマナカユミの化けの皮を剥がそうとするのだけれど、熱血な分、彼の方がいい人なんじゃないかと思うくらいである。
北村有起哉演じる検察官は、何というか、気障で、これまたイヤな奴である。
ヤマナカユミは不倫相手の子ども(であることはお芝居の終盤になるまで明かされない)を放火で殺してしまったのだけれど、検察官も現在進行形で不倫をしているのとともに、ヤマナカユミの不倫相手も北村有起哉が演じるということにしている。
そういう具合に、ヤマナカユミ以外の3人には割りとステレオタイプな感じの役割が与えられているのだけれど、ヤマナカユミについては、今ひとつどういう人なのかが判らない。
彼女の語る物語は、ヤマナカユミの物語ではなく、龍の手から宝物を取り返す海女の物語であり、源氏物語の桐壺の更衣や夕顔や六条の御息所の物語で、源氏物語に登場する数多の女性の中からこの3人が選ばれたことには何らかの意味がある筈だと思うのだけれど、その共通点がよく判らない。
多分、そこが判れば、ヤマナカユミという女性の立ち位置も判るのではないかという気がする。
芸達者な4人の濃密な空気に引っ張られる。
特に、ラスト近くの、ヤマナカユミと医者(を演じていたのだと思う)が海の中に潜るシーン(これは英国バージョンでもやはりヤマナカユミを演じた女優さんが片足を上げてバランスを取っていたのが印象的だった)では、何だかこちらも息苦しくなってしまったくらいだ。
それでも、野田秀樹の舞台で「うー、判らなかった」と思うことは普通にあるのに、何だか今回はより釈然としない気持ちが強い。
面白かったのだから、多分、いつもよりも「何かを見落とした感」が強いのだと思う。
舞台から発信されている何かを受け止めきれないというのは、いつものことながら、悔しいことである。
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