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2009.10.22

「蛮幽鬼」を見る

劇団☆新感線 Inouekabuki-Shochiku-mix 「蛮幽鬼」
作 中島かずき
演出 いのうえひでのり
出演 上川隆也/稲森いずみ/早乙女太一/橋本じゅん
    高田聖子/粟根まこと/山内圭哉/山本亨
    千葉哲也/堺雅人 /右近健一/逆木圭一郎
    河野まさと/村木よし子/インディ高橋/山本カナコ
    礒野慎吾/中谷さとみ/保坂エマ/村木仁
    川原正嗣/前田悟 ほか
観劇日 2009年10月21日(木曜日)午後6時開演
劇場 新橋演舞場 2階3列34番
上演時間 3時間40分(30分の休憩あり)
料金 12600円

 ロビーでは、パンフレット(2300円)や、Tシャツ、ストラップ(1200円か1500円だったと思う)、早乙女太一のリップクリーム(700円)などが販売されていた。
 その他の「新橋演舞場」ならではのグッズも健在である。
 お弁当売り場では、蛮幽鬼限定のお弁当が販売されていたそうなのだけれど、気がつからなかった。残念。

 また、2階ロビーに、ポスターの最前列ど真ん中に位置していたと思われる、鬼なのか甲冑姿の何かのフィギュア(実物以上大)の坐像が置かれていた。
 写真を撮ってみたのだけれど、何故かぼけぼけだった。どうも、マクロ撮影を解除し忘れたようだ。こちらも残念。

 ネタバレありの感想は以下に。

「蛮幽鬼」の公式Webサイトはこちら。

 始まりは、新感線のいつもより控えめな音量の音楽と、通常比1/3くらいのライティングだった。
 新橋演舞場だからだろうか。
 オープニングの「序」のような言葉もスクリーンに映し出され、その後の展開も一部は映像で紹介された。特に休憩前は、時間の経過を表すときと、セットの転換が必要なときに映像が多用されていたような気がする。
 逆に、休憩後はほとんど映像は使われていなかった印象である。やはり、巧い。

 多分、久しぶりのいのうえ歌舞伎である。
 中島かずきといのうえひでのりがそろい踏みなのに、古田新太が出演していないのがちょっと寂しい。
 その代わりといっては失礼なのだろうけれど、上川隆也と堺雅人のダブル主演の格好である。
 カーテンコールは4回あって、4回目にはスタンディングオーベイションになった。
 お芝居も楽しかったし、ドキドキハラハラすかっとしたのだけれど、最後に私が思ったのは、「もしかして、この2人、仲悪いのかも」だった。せっかくお芝居が面白かったのに、何ともミーハーな感想だけれど、思ってしまったものは仕方がない。

 最後のカーテンコールでもう一つ思ったことがあって、それは、稲森いずみという女優は、多分、もの凄く男っぽい女優なんだろうなということだった。
 細いしか弱い感じなのに、何故だか、立ち居振る舞いが女っぽくない。というよりも、男らしい。
 高田聖子も「女っぽさ」を前面に出さない女優だと思うのだけれど、彼女の場合は、戦略として女らしくなさを演じている部分があるような気がする。そこへ行くと、稲森いずみは、ふと見せる素が男らしい、という感じがするのだった。
 彼女たちより、早乙女太一の女形姿の方が素から女っぽい気がするくらいである。

 それはともかく、この「蛮幽鬼」はいくつもの入れ子が組み合わされた物語である。
 そういう、伏線を張り巡らせ、張り巡らせ、臨界値まで張り巡らせておいて一気にラストシーン前20分で収束させる、というお芝居はやっぱり面白い。
 「この先、一体どうなるのだろう」という先の見えないという興味だけでも引っ張られるのに、新感線のお芝居の場合は、そこにオリジナルの歌が入り、ダンスと殺陣がふんだんに惜しげもなく披露されるのだから文句の付けようもない。

 ただ、2階席3列目という席のせいもあるとは思うのだけれど、何だか、舞台もお話も「大きいけど遠い」という印象があったのも事実である。
 花道の前半分くらいしか見ることができないのは辛い。S席なのに、と思ってしまう。
 花道の奥で何かが演じられることは少ないけれど(見えていなかっただけかもしれないのだけれど、理由の判らないどよめきや笑いはほとんどなかったので)、この演技を1階席で間近に見ていたらどういう感想を持ったのだろうと思うシーンがいくつもあった。

 特に、堺雅人が演じるサジは、「爽やかな笑顔で精密な殺人マシンと化す凄惨な男」というキャラで、時々、オペラグラスで拡大してみると、本当に常に天真爛漫そうな笑顔を保持している。
 この人、顔の筋肉が引きつらないのかしら、と思ってしまうくらいである。
 そして、またその笑顔が爽やかなんだけれども凄みもあって、このお芝居のそもそもの発想が「堺雅人が笑顔で人を殺しまくる」というところにあると何かで読んだのだけれど、それもむべなるかなという気がするのである。

 上川隆也の「復讐に燃える男」という役柄は、割と定番な感じがある。
 頭は良さそうなのに世渡りは徹底して下手そう、というところも、役柄として割と定番である。
 白髪はともかく、長髪というのも、もしかして定番になりつつあるのかという感じがする。

 物語の「判りやすく見えている」主軸は、上川隆也演じる土門が、親友を殺され、山内圭也と粟根まこと演じる自分をその犯人に仕立て上げた留学仲間の2人と、親友を殺した「誰か」に対して復讐する、という復讐譚である。
 最初から、留学仲間の2人が親友を殺したわけではないと思っているらしいところがちょっと不思議な感じもする。

 鳳来国(母国)に戻った土門は、飛頭蛮と名乗り、留学仲間の2人が思いっきり歪めて伝えた宗教を、その本来の姿に戻して布教し、虎視眈々と復讐の機会を狙う。
 同じ監獄に閉じ込められていた、高田聖子演じる蛮教が生まれた国の王女様や、堺雅人演じる「1000人を殺した」と両手両足をつながれていた男(後にサジと名乗ることになる)を味方にして、快進撃を続ける。
 その過程で、稲森いずみ演じるかつての婚約者で親友の妹である美古都が大君の后になっていることを知る。

 彼女の姿を見てふっと弱気になった土門を見て「ここが急所か」と言ったサジを見て、初めてこいつにはこいつの思惑がかなりかっちりとあるのだということが判った(普通の人はもっと早い段階で判っていたのかもしれないが・・・)。それは確かに裏のありそうな感じはぷんぷんと漂っていたのだけれど、同時に「面白そうだから」というだけの理由で土門にくっついて歩いているというのもありそうな感じがしていたのだ。
 ここからサジが主体的に動き出し、大君に「その地位を美古都に継がせる」と遺言させて殺し、飛頭蛮の元婚約者を大君にすることで「自分を裏切って大君の后となり、自ら大君となる権力志向の女」に仕立て上げて、そのの復讐心を煽る

 そして、土門の親友を殺すよう指示したのは、千葉哲也演じる実はその親友の父親である左大臣だということに私が気がついたのは、2人の留学生が「土門に罪を被せるよう指示する手紙が右大臣から届いた」と言い、右大臣が「そんな手紙は送っていない」と言ったときだから、我ながら遅すぎる。
 そういうことなら、自分のやり方を真っ向から否定しようとした息子を左大臣が殺そうとしたのだろう、とやっと発想できたのである。

 この辺りのからくりをあっさりと見破っていたのはサジで、それは、彼が生まれたときから「殺し屋」としての教育を受ける一族の出だからだというのが何ともいえない。
 そして、美古都の警護についている早乙女太一演じる刀衣も、同じ一族の出身だという辺りから、伏線の回収が始まる。

 サジと刀衣が闘うシーンでは、サジは「技術が互角なら勝負は運だ」というけれど、私の目には「技術が互角なら勝負は心の余裕があるかどうかだ」という風に見える。
 そして、とことん笑顔で飄々と下手をするとポケットに手を突っ込みそうな風情で闘っているサジの方が明らかに上手に見えるのである。
 ただし、実際に「殺陣」を純粋に見れば、早乙女太一の美しさは際立っているわけで、武器を変え、振りをつけているとはいえ、堺雅人は相当に「上に見せる」「余裕ありげに見せる」ことに苦労したのだろうなという感じがする。

 このサジが裏で手を回して、左大臣を使って、飛頭蛮一党を殺そうとする辺りから、伏線を回収しつつ、物語はひたすら凄惨な方向に進み始める。
 そもそも、土門が復讐しようとした留学仲間の2人と右大臣は、自らが助かりたいために一人が一人を殺し、殺された息子の仇を討ち、そこで殺された息子の仇をまた討つという酸鼻な風情で幕を閉じ、その最中、ペナン王女も殺されてしまうし、彼らを襲った左大臣の密偵も殺されてしまう。
 サジは、このカラクリを知っている左大臣を殺すし、襲わせたのは大君だと告げ口して土門に美古都を襲わせる。連鎖とかドミノとか糸車とか、そういう言葉が浮かんでくるのである。

 最後の最後、サジは、自分を裏切った国を滅ぼすために同族をほとんど皆殺しにした、自分を殺そうとするたくらみに果拿の国と鳳来は手を貸した、この両国を滅ぼすには、は国同士を争わせるしかない、鳳来を果拿の国に攻め込ませて両方を滅ぼすことが自分の目的だと語る。

 サジ、実はお前の復讐譚だったのか! という感じである。

 そして、土門は、やっとサジに親友を(直接手を下して)殺したのはお前かと尋ね、サジはあっさりと「バレちゃった?」と笑う。
 美古都の警護についていた山本亨演じる警護の長も、美古都とともに飛頭蛮が土門であることに気がついており、決着をつけようとする。そこに、刀衣が助太刀に入る。
 何がどうなっているのか判らないうちに、刀衣が死に、サジが死に、土門が美古都に「俺を殺して救世主となって大君の権威を取り戻せ」と言い、全てが終わる。
 最後に生き残るのは、美古都と警護の長という、何の特殊技能もない、極端な陰謀壁もない2人だったのね、という感じである。
 あなたたちが生き残りましたか、というところだ。

 「やっぱり、土門は美古都を愛していたのね」という見方もできるし、古い架空の国で起きた権力争いの顛末とも宗教戦争の顛末とも見ることができる。「暗殺者の一族」に生まれ、一族に暗殺されそうになった男の復讐譚(本人が言っていたように一族や国に対してではなく、手軽に言ってしまうと自分の運命に対する復讐のように思える)でもあろうし、もちろん、親友を殺されその犯人に仕立て上げられた男の復讐譚でもある。
 でも、どんなテーマを持ったどんなお芝居だろうと、これだけハラハラドキドキできて、楽しめて、最後にすかっとできるなんて最高だと思うのだ。
 

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