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2009.10.12

「組曲虐殺」を見る

こまつ座&ホリプロ公演「組曲虐殺」
作 井上ひさし
演出 栗山民也
音楽・演奏 小曽根真
出演 井上芳雄/石原さとみ/山本龍二
    山崎一/神野三鈴/高畑淳子
観劇日 2009年10月11日(日曜日)午後1時30分開演
劇場 天王洲銀河劇場 1階J列20番
上演時間 I部 3時間20分(15分の休憩あり)
料金 8400円

 ロビーの喫茶コーナーで登場人物をイメージしたカクテルが販売されるのも天王洲銀河劇場の恒例のようである。
 物販のコーナーで一番、宣伝が大きかったのは「石原さとみカレンダー先行発売、本人のサイン入り」だったように思う。今はまだ劇場でしか販売していないようだ。
 その他、パンフレット(1500円)や、みやびのパンなども販売されていた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 こまつ座の公式Webサイトはこちら。

 天王洲銀河劇場でこまつ座というのも、割と意外な感じがする。
 開演前に劇場スタッフが客席に何人も入り、明らかに「カメラがないかどうか」を探している感じもまた私が見慣れている「こまつ座」の光景ではない。
 これは、井上芳雄対策なのか、石原さとみ対策なのか、どちらなのだろう。両方だろうか。

 そんなことも、お芝居が始まってしまえば問題ではない。
 全く内容を知らずにチケットを購入して「虐殺というのは穏やかではないな」という程度の気持ちでいたのだけれど、このお芝居の主人公は小林多喜二だった。
 いわずと知れた「蟹工船」の著者だけれど、私は「蟹工船の著者である」ということ以外は全く知らなかったので、かなり緊張して見ることになった。

 冒頭が歌と踊りで始まるのはいつもの通り。
 ここで多喜二の少年(青年)時代が語られ、井上芳雄が学生服を着ていたこともあって10代の頃が中心に語られるのかと思ったら、その年代は最初のシーンだけで、その後はいきなり取調室でのシーンになった。
 ここで、伯父の家に居候していたときのことを刑事に語られて、思わず反論してしまい、彼が小林多喜二であると言うことが明らかになる、その伏線だったようだ。

 小林多喜二を演じる井上芳雄がとにかく大きく見える。何故だろう。
 山本龍二演じる刑事が、多喜二の黙秘を突き破るわけだけれど、この人はこういう嫌みなというのか、人の嫌なところを感じさせる演技をさせると、とにかくハマる。ハマり過ぎて、苦手なくらいである。私にとっては、このお芝居を観ようかどうか迷った理由の一つでさえある。
 もう一人の刑事を演じた山崎一は、NOVAのCMのイメージが強いけれど、実はその後舞台等で拝見するときは冷酷な人間を演じていることの方が多いような気がする。それでも、やっぱりどこか抜けているんじゃないかと思わせてしまうところは、CMの功罪だろう。

 こまつ座のお芝居では珍しいんじゃないかと思ったのだけれど(確証はない)、このお芝居は全員がほぼ一人の役を演じている。
 一人が何役も演じることが多いような印象があるので、かなり意外だった。
 女優陣も、石原さとみはタキちゃんと呼ばれる小林多喜二の「許嫁と奥さんの間くらい」の女性を演じ、高畑淳子は多喜二の姉を演じる。神野三鈴は多喜二の同士でやがて結婚することになる。

 高畑淳子は大胆におばさんで笑わせて、締めるところは締める、相変わらずの格好いい女優さんである。石原さとみの一本調子で舌足らずな台詞が少し気にならなくもなかったけれど、それは「タキちゃん」という女の子のキャラのうちという感じもする。神野三鈴と三角関係になり、その辺りの嫉妬をにじませる演技も「演出されている」感が強いようにも思ったけれど、神野三鈴の達者さと逆に好対照になってバランスが取れている。

 バランスというなら、時々「いかにもミュージカル」な感じの歌い方になってしまう井上芳雄の方が苦労したのかも知れないという感じがした。
 こまつ座のお芝居は、ミュージカルというよりは音楽劇で、歌い方もいわゆるミュージカルとは違っているような気がする。旋律も恐らくミュージカルっぽくはないのだと思う。

 ぽくないといえば、ピアノを舞台奥の情報に設置して、時々スポットを当てて目立たせたり、逆に闇に沈めて存在感をなくしたりといった演出も珍しい感じがした。
 ここもやはり小曽根真というピアニストを迎えた故の演出だろうか。

 休憩を挟んだ後半、井上芳雄が「いかにも人格者」な小林多喜二を演じるところが、何ともいい感じだった。
 それが実は地下活動に入るための演技だったことが判って以後、家族7人を抱えて一緒に地下に潜ることはできないと決断したタキちゃんと、逆に地下に潜るには自分が一番役に立つとついて行ったフジコと、その三角関係も切ない。
 チマお姉さんの「空気が読めない」感じもいい。

 前半で張り巡らせた伏線が、後半で一気にスピードアップして収束し、ずっと追い続けていた2人の刑事は小林多喜二の逮捕・拘束を半ば馬鹿馬鹿しく諦めてしまうのだけれど、最後、小林多喜二は特高警察に捕まり、その日のうちに殺されてしまう。
 そこを「見せない」ようにして、姉とタキちゃんに対して交番勤務に降格された2人の刑事が告げるというラストが切なかった。
 最初は「多喜二兄さん」と呼んでいたタキちゃんが努力して「多喜二さん」と呼ぶようにして、フジコさんと結婚した多喜二のことは「Tくん」と呼び、亡くなった後再び「多喜二さん」と呼ぶようになったタキちゃんもさらに切なかった。

 最後、カーテンコールの3回目だったか、スタンディング・オベイションになった。
 それが「お約束」の感じではなく、7人の出演者が本当に驚いて喜んでいたのが、とてもとてもいい感じだった。
 いいお芝居だった。
 迷ったけれど、見に行って良かったと思う。

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コメント

 逆巻く風さま、コメントありがとうございます。

 井上ひさし氏の訃報には驚きましたね。
 私は、寡聞にして昨年に井上ひさし氏が肺癌を患われていたことを知らなかったので、さらに驚きが大きかったです。

 今現在新国立劇場で上演されているシリーズは再演ですので、「組曲虐殺」が遺作になるのかも知れませんね。

 本当に残念です。

投稿: 姫林檎 | 2010.04.14 22:24

今回井上ひさしさんの訃報を知ってびっくりし、残念に思いました。井上さんの作品は3本しか見ていないので、全然素人ですが、まず”間違いがない”という印象で、今後にも期待していただけに本当に残念です。これが遺作になったんでしょうか?新聞を見るとこの公演のゲネプロ(最終公開稽古?)で井上さんは感激したようで泣きながら楽屋で石原さとみさんに「よかった、よかった」とおっしゃったようで、会心の作品だったようですね。

投稿: 逆巻く風 | 2010.04.12 19:45

 逆巻く風さま、コメントありがとうございます。

 「組曲虐殺」をご覧になって、楽しまれたようで何よりです。
 「ロマンス」は私も見ていますが、逆巻く風さんにご指摘いただくまで、見たことをすっかり忘れていましたし、「井上芳雄が出ていた」とお聞きしても「そうだったっけ?」と思っているという体たらくでした。すみません。
 あのお芝居はどうしても松たか子のイメージが強かったので・・・。

 カーテンコールで泣かれてしまったのは、多分、神野三鈴さんではないでしょうか。えーと小林多喜二の奥さんの役を演じていらした女優さんです。

投稿: 姫林檎 | 2009.10.25 23:27

写真見てくださってありがとうございます。デジカメは全然普通のです、もう低価格で高性能は当たり前のようです。

さてさて、「組曲虐殺」よかったですよね。(^_^)
同じ井上、井上コンビ(ひさし、芳雄)の「ロマンス」はご覧になったことありますか?それに雰囲気が似ているな、というのが最初の印象。第1部はドサ回りの一座、という感じでしたが、第2部では流石に盛り上げてきましたね。割と(いや相当)前の席で観ましたが、役者さんの汗、涙によると思われる目の輝き、にジーンとしてしまいました。スタンディングオベーションはなかったです。ただもう一人の女優さん(名前は知りません)が感極まって泣いていたのが印象的でした。

投稿: 逆巻く風 | 2009.10.25 22:43

 逆巻く風さま、コメントありがとうございます。

 今日(もう昨日になってしまいましたが)、「組曲虐殺」をご覧になったのですよね。いかがでしたか。

 雨飾山の写真を拝見させていただきました。
 やはり、大きくして見るといいですね。
 私は写真を撮るときに「どうせそんなに大きく引き伸ばすわけじゃないし」などと思って画質を抑えめに撮ることが多いのですが(メディアをケチっているということでもあります。xdピクチャーカードは高いのです)、やはり、いいカメラでいい画質で撮影した写真は違うのだわ、と思いました。
 (この際、腕の差、という最大の要素は無視してみました・・・。)

投稿: 姫林檎 | 2009.10.25 00:11

雨飾山の写真をUPしました。良かったら見てください。せっかく1200万画素という新デジカメで撮ったのに・・・あれれ?って感じでした。旧デジカメの方が良かったじゃん!でも分かりました、オリジナルサイズならバッチリです。あくまでも鮮明さで、腕のほうではありません(笑)

さてさて、明日はいよいよ「組曲虐殺」です。

投稿: 逆巻く風 | 2009.10.23 19:47

 逆巻く風さま、コメントありがとうございます。

 「組曲虐殺」ご覧になる予定なのですね。
 良かったですよー。(と前宣伝だけしてみました。)

 百名山というのがあるということだけは知っていますが、とことんインドアな私はどの山が百名山に当たるのか、全く知らなかったりしています。
 雨飾山なんて、風流な名前ですね。
 紅葉はいかがでしたか。
 写真がアップされるのを楽しみにお待ちしています。

投稿: 姫林檎 | 2009.10.12 23:10

僕も近々観ます。あまり他人の評価に左右されたくないので感想は見ませんが・・・

さて本日は雨飾山(あまかざりやま)という山に登ってきました。さすが百名山(というのがあるんです)紅葉の時期、連休ということで混んでいました。また気が向いたら写真をUPしますのでその時はヨロシク!

投稿: 逆巻く風 | 2009.10.12 21:23

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