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2009.11.09

「印獣」を見る

パルコ・プロデュース公演“ねずみの三銃士"第2回企画公演「印獣」
作 宮藤官九郎
演出 河原雅彦
出演 三田佳子/生瀬勝久/池田成志/古田新太
    岡田義徳/上地春奈
観劇日 2009年11月7日(土曜日)午後7時開演
劇場 パルコ劇場 D列25番
上演時間 2時間45分
料金 8400円

 ロビーでは、パンフレット(1500円)等が販売されていたけれど、あまりちゃんとチェックしなかったので、その他のグッズなどはよく判らなかった。
 パルコ劇場は「お花の撮影もご遠慮ください」という張り紙が出ているのだけれど、どうしてなのだろう。ロビーに入ったらとにかく写真撮影はしないでくれ、ということなんだろうか。

 ネタバレありの感想は以下に。

 パルコ劇場の公式Webサイト内、「印獣」のページはこちら。

 少し前にTBSの「情熱大陸」という番組で古田新太が取り上げられていて、そこで半ばネタバレのようなコメントを聞いてしまっていたので、かなり戦々恐々として見に行った。
 何しろ(正確な言い方ではないと思うけれど)、「厭な感じ」がテーマだというのだ。
 この「厭」は私の当て字だけれど、でも、古田新太は多分言ったときに「嫌」ではなく「厭」という漢字を思い浮かべていたと思う。

 オープニングは車の疾走シーンである。
 どこかで見たことがあるなーと思ったのだけれど、思い出せない。「ヴァンプ・ショウ」のオープニングもこういう感じだったろうか。

 「印税生活をしませんか」という甘い殺し文句に誘われて集められた3人の作家(未満)の作家を、古田新太と池田成志と生瀬勝久が演じる。
 古田新太が風俗関係のルポライター、池田成志が20年に2冊しか出版していない絵本作家、生瀬勝久が流行作家(なんだと思う)の父親を持つケータイ小説家で、テレビで古田新太が「この3人は当て書きでいいかな、と」と言っていた意味がよく判る。

 「印税生活」で、三田佳子演じる女優の一代記をでっち上げるという話だから「印」獣というタイトルなんだろう。
 このストーリーの骨格は、映画の「サンセット大通り」を彷彿とさせる。
 といっても、私は「サンセット大通り」を見たことはなくて、そういうストーリーの名画があるということを知っているのみである。
 その程度の知識しかない私ですら「あれと似てる」と思ったのだから、これは、確信犯として似せたのだろう。
 明らかに違うのは、サンセット大通りでは女優は紛れもなく「大女優」が復帰作を書かせようとする話だったけれど、この「印獣」では、全く無名の女優が自分の一代記を書かせようとするところである。

 この3人の作家を女優の別荘に集めたのが、岡田義徳演じる編集者であり、実は彼も娘を誘拐されてそれで仕方なく女優の指示に従っているうちに、劇中では「ストックホルム症候群」状態になっているということにされていた。
 WIKIを見てみたら、「ストックホルム症候群」とは、「犯罪被害者が、犯人と一時的に時間や場所を共有することによって、過度の同情さらには好意等の特別な依存感情を抱くことをいう。」だそうだから、ちょっと違う感じもする。
 劇中では、思考停止に陥って抵抗する気力を失い、何でも言うがままになってしまうこと、というニュアンスで使われていたように思う。

 それはともかく、最後までその存在が謎だった上地春奈演じる女優の付き人も登場し、2人がかりで見張られ、食べ物といえばハッピーターンのみ、女優の自伝を少し書き進めると食パンとコーラが貰える、地下室に閉じ込められて日付も時間も判らない、という状況の中で、3人は何となく交代で女優の自伝を書き始める。
 やっぱり、どこかで見たような聞いたような話である。

 編集者の彼は、逃げようとする彼らを刺したり脅したり、やたらと「監禁」業務に有能なのが謎だけれど、とにかく大活躍する。
 娘を誘拐されて仕方なくやっているのか、そのうちやりたくてやっているのか、判らなくなっているんじゃないかという気もする。そもそも「判らなくなった」というのが口癖なのだ。

 そうして、渡される資料から適当に自伝をでっち上げて行くうちに、彼らは自分の人生のどこかに、その女優の人生との接点があることを思い出して行く。
 コワイ。

 怖いのだけれど、何というのか、思っていたよりも気持ち悪さはない。
 編集者の娘が解放されて、代わりに3人の子供の内の誰かが人質に取られた、とか、ケータイ作家の父親とこの女優との間に関係があったとか、絵本作家が子供の頃に彼女が悪役として出演していた怪獣ショーに飛び入りして「本当はいい人だ!」と叫んだために逆上してその後仕事から干されてしまったとか、「でっち上げの自伝小説」を書いているつもりが、いつの間にか忘れ果てていた事実を掘り起こしてしまう。

 編集者も実は女優の娘と高校時代に付き合っており、また彼女がAVに出演していることに気がついて地元で言いふらして回ったり、風俗ルポライターの男はその娘にインタビューして女優の娘であることを聞き出し新聞記事にしている。
 この辺りから、それまでは「回想シーン」でしか現れなかった女優が、今の姿で現れるのも意味深である。
 編集者の娘の代わりに、3人の作家の子供の内の誰かを誘拐したと言われた辺りから、3人の「醜い争い」は進化するのだけれど、これがやろうと思えばもっとえげつなくできただろうに、意外とあっさりと描かれる。
 宮藤官九郎という劇作家の個性なんだろうか。

 そして、最後、編集者が女優を(推定)散弾銃で殺してしまう。
 「警察を呼んできます!」と叫んで飛び出した編集者を、ケータイ作家が追いかけて殺してしまう。

 ケータイ作家は娘を人質に取られてボロボロで、その分、他人を攻撃しまくっていたのに、「自分は独身だから娘はいません」と言い出し、編集者が「いや、電話したときに後ろで子供の泣き声がした!」と追及すると、実はその子供が編集者の娘だったことが明かされる。
 このケータイ作家、何者なんだ。
 「自分が書きたいモノ」を探すために、女優を巻き込んでそそのかしてこんな壮大な嘘を作り出したのか、だから鬼気迫る勢いでケータイで小説を書いているのか、女優の自伝を書き終わらない内はそれを邪魔する奴は殺してもいいと思っているのか。

 その「ケータイ作家」に関する謎は全て放り出して(というか、わざわざ直前になって披露して)、芝居は唐突に終わる。

 でも、本当に意外なくらい気持ち悪さはなかった。
 というか、もっと気持ち悪く,えげつなく、人を追い詰める様子、追い詰められる様子、壊れる様子、他人を責めるようになる様子、自分だけよければいいと言わんばかりの行動を取る様子が畳みかけられるだろうと思っていたので、「あら、上品な感じじゃないの」と思ったくらいである。

 時間がたつのもあっという間で、退屈するヒマもなく、ハラハラどきどきするわけではないのに先が気になって落ち着かず。
 そういう感じのお芝居だった。

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コメント

 しょう様、コメントありがとうございます。

 「天才脚本家」、お買い求めになりましたか!
 しょうさんの感想を楽しみにお待ちしております。
 ふふふ。

 「ニコラス・マクファーソン」は、私は再演をDVDでしか見ていないのですが、凄い楽しいお芝居ですよね。
 私は小須田さんのファンでもあるので、そういう意味でも堪能しました。
 見返す頻度の高いDVDのうちの一本です。

 「ニコラス・マクファーソン」がお好きなら、多分、「天才脚本家」も気に入っていただけるのではないかと思います!

投稿: 姫林檎 | 2009.11.10 23:34

姫林檎さん、こんにちは。
そう!映像の使い方は納得でした。
字幕として使っていた部分も、あんなウチナーグチでは、
必要でしたし。
私は10月24日にも見に行ったのですが、
もう池袋に向かって叫びたい気分でした(根に持ってます)。
『珈琲とバンデラス』も映像多用系だったようですし、
お金があると、映像使いたくなるんでしょうか?
(どれもチケット代お高めな気がします)

TVは基本的に見ないので、情熱大陸に古田さんが出演していたのは、
後から知って、凄く残念でした。。。
やっぱり色々謎を含んだまま終わるのが、気持ち悪い=厭な感じ、
と言うところなんでしょうかね?
全体的には、コネタが豊富で笑えましたし、
各役者さんの個性が生かされていて、楽しめました。
が、私も、最後すっきりが好きですw
今までで一番最後すっきりだと思ったのは、
『ニコラス・マクファーソン』(再演の方)でしたねぇ。

そうそう、『天才脚本家』DVD購入しちゃいました^_^;
まだ届いてないのですが、見たら感想を拙blogの方で書きますね。
楽しみに待っている最中です♪
(取り留めなくなってしまいました、すみません・・)

投稿: しょう | 2009.11.10 00:11

 しょう様、コメントありがとうございます。

 しょうさんも同じ日にご覧になっていたのですね。
 そうそう、「印獣」の映像の使い方は必然という感じがして上手かったとお思いになりませんでしたか?

 少し前の「情熱大陸」で古田新太が取り上げられていて、そこで「印獣」の話も出ていたのですが、「気持ち悪さ」の余韻を残したい、というようなことを語っていました。
 その「謎が謎を呼ぶけどカタルシスは得られない」というこのお芝居の感じは、多分、古田新太の狙い通りなんだろうなという気がします。

 でも、私はぜーんぶキレイに解決と解説がつくカタルシス付き大団円のお芝居が好きですけれど(笑)。

 しょうさんはいかがですか?

投稿: 姫林檎 | 2009.11.09 22:26

姫林檎さん、こんにちは。
7日のソワレご覧になったのですね。
私はマチネで見ておりました。

あの携帯作家、最後に謎が深まりますよね。
返り血浴びたままで書いてるし・・・
『続きがあるのか?』と思わされる終わりでした。
謎と言えば、売れてない女優のくせに
何であんなお屋敷に住んでるのか、
この一大事業にどれだけ金掛かってるんだとか、
その辺も明かされませんが、そこは気にしちゃいけない
部分でしょうかね?

投稿: しょう | 2009.11.09 01:12

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