「バンデラスと憂鬱な珈琲」を見る
シス・カンパニー公演「バンデラスと憂鬱な珈琲」
作 福田雄一/マギー
演出 マギー
出演 堤真一/高橋克実/小池栄子/村杉蝉之介
中村倫也/高橋由美子/段田安則
観劇日 2009年11月2日(月曜日)午後7時開演(初日)
劇場 世田谷パブリックシアター 2階C列34番
上演時間 1時間40分
料金 8500円
ロビーではパンフレット(1000円)や北村明子プロデューサーの著書(劇場限定割引で700円)などが販売されていた。
パンフレットとは別に、キャスト(役名付き)とスタッフの一覧が配られるのは嬉しい。
初日だったためか、客席は地味に華やかだったようだ。トリプルコールか? という瞬間にパッと席を立った一列があったので、恐らく関係者だったと思われる。
自分は2階席だったのでよく判らなかったけれど、とりあえず、いのうえひでのり氏は確認した。
ネタバレありの感想は以下に。
始まりは、小池栄子演じる大統領夫人と、高橋克実演じるダズラー元帥との浮気現場である。
というか、最初は、女の方はスパイで、元帥らが極秘に進めていた作戦が漏れている、という話かと思って見ていたのだけれど、中村倫也演じるモントレー少佐(元帥の部下のようだ)が呼ばれて来て冷静にツッコミを入れまくり、事態が判明した。
このシーンの前だったか後だったかすでに記憶が定かでないのだけれど、スクリーン(というか、多分白い布)が降りてきて、アニメーションと役者紹介が流れた。
流行なのか?
映像とのコラボレーションといえば聞こえはいいと思うのだけれど、役者の名前だけクレジットされてもあまり意味はないような気がする。
それとも、私が気がつかなかっただけで、アニメーションの方に何か伏線が張られていたりとか、後の展開につながる何かが隠されていたりしたのだろうか。
それはともかく、元帥は大統領に浮気がバレたと勘違いして(というよりも、小心のあまりそう思い込んで)、「戦争だ!」と叫んで寝室を飛び出す。
それで、どうしてロシアに核爆弾を積み込んだ戦闘機を飛ばしてしまうのか、というようなことを考えてはいけないのだろう。
そして、堤真一演じるバンデラスが「鳥の糞から取り出したコーヒー豆で淹れたコーヒー」の話をしながら登場し、バンデラスをそっちのけで段田安則演じる大統領や高橋由美子演じるベーカー国務長官、村杉蝉之介演じるフレディ国防長官らが、「空軍の元帥が勝手に基地に立てこもって勝手にロシアに向けて核弾頭を積んだミサイルを装備した戦闘機を飛ばしてしまった」ことへの対策会議を行う。
米国からロシアまで(そういえば、戦闘機の行き先がロシアであることは明言されていたけれど、発射した方が米国であることは明言されていなかったかも知れない)、戦闘機で12時間もかからないと思う、などということも考えてはいけないのだろう。
その会議の途中で、高橋克実演じるロシア大使が登場したところで笑いが漏れる。
このお芝居は、7人の役者が次々と様々な役を演じ分けつつ進行するのだということが判る。
(実は小池栄子もこの会議に書記役でいるのだけれど、地味〜に存在していたので一人何役もやるんだということを知らせるインパクトはない。)
結局、ロシア大統領には「何とか米国の戦闘機を止めて」と泣きつき、米国としては陸軍の最高のネゴシエーター(と言われているらしい)バンデラスに元帥の説得をさせることにする。
タイムリミットは12時間後。
空軍を元帥に押さえられているので、バンデラスは、960マイル離れたところにある空軍基地まで陸路で移動しなければならない。
一方、ロシア大統領は、いかにもマッドサイエンティストな人物の研究室を訪れて「飲めば50倍の大きさになる」という薬を見せられるが、研究員たちが体の一部だけ大きくなっている姿を次々と見せられて「これは失敗作だ!」と叫ぶ。ロシアに頼ることもできないようだ。
「ネゴシエーターの話」と前宣伝を読んでいたので、割とあっさりと空軍基地にたどり着いて(というか、陸路移動の話などはすっ飛ばして)「説得」のワザの数々がこのお芝居の見どころだろうと思っていたのだけれど、それが全然違った。
正直、最初は悪い方に裏切られたと思ったのだけれど、バンデラスはまず関係者以外立ち入り禁止の通路を通ることができず軍用列車に乗り遅れる。いや、アルバイトの警備員を全く説得できていないじゃん! と思う。そっちか。「最高のネゴシエーター」が「何も知らないアルバイト」に負ける話なのか? と思う。
その後もバンデラスは、カップルが乗った車(何だか私にはトレーラーのように思えたのだけれど理由は不明)をヒッチハイクして乗せてもらい、カップルが喧嘩を始め、別れ話を始めたところで車を止めさせ、その別れ話の仲裁に乗り出す。
その、乗り出そうとしたところで話を止め、後ろのスクリーンに「バンデラスはこの2人の仲裁に1時間をロスした」というようなテロップを出して話を進めてしまう。
だから!
その「仲裁の過程」を見たいのであって、結論をテロップで流すだけってどうなのよ、と激しく思う。
しかも、これがもう1回ある。
いかにも場末そうなコーヒーショップで、店の女主人は「昔の男に復縁を迫られている」と嘆き、カウンターでくだを巻いている女は「男に捨てられた」と酒浸りになっている。で、この「男」というのが、テーブルで強そうな酒を飲んでいた男だった、という「せまっ」な世界の話である。
「恋愛の悩みは聞かない」と言っていたくせに、「世界なんか終わってしまえばいい」と言い放つ女の台詞を聞き流せずに、結局、ここでも3人の仲裁に1時間のロスをする。
ということが、テロップで知らされる。
この辺りでは、何だかなぁ、と思っていた。
見なくてもよかったかな、とも思ったりしてしまった。
それが、最後の30分くらい(だと思う)、俄然、話が転がりだして面白くなる。
ロシアに向かっていた戦闘機の中では、バグス鬼軍曹が女にだけは甘いことが判明し、ミサイルを撃たせた挙げ句についでに無線を壊してしまう。
バンデラスは列車に乗り、空軍兵士に怪しまれつつも、乗り合わせた旅役者たちと「マクベス」論を戦わせ、その稽古をすることで一員に見せかけ、何とかその場をやり過ごす。
大統領は、やっとのことで、誰もが判っていた「元帥と妻が浮気している」という事実を悟る。
元帥に「大統領は怒っていない」と伝えようとするけれど、バンデラスは無線を最初に乗せてもらった車に置き忘れているので連絡が取れない。
やっと空軍基地にたどり着いたバンデラスに一瞬だけ妙な仲間ができかけるけれど、「キャラが立っている奴らに負けそうだ」「リーダーの座を奪われる」という割と莫迦な同機であっという間に仲間は消え去る(じゃあ、「ずっとフォローしてました」と出てくる彼らは結局一体何だったんだという疑問は持ってはいけない)。
というわけで、最後に空軍基地の入口で衛兵に立っていたアルバイトの男を説得したのが、バンデラスがこの芝居で最初に成功した「説得」である。
遅すぎる。
これが見たかったのである。これのオンパレードだと思っていたのに、と思う。
元帥のところにたどり着いたバンデラスは、説得を始める。
正攻法で「世界を終わりにしてくれるな」という方向から説得するのだけれど、そもそも動機が「浮気がバレてぎちょんぎちょんにされたくない」なのだから、その説得で押し切れる筈もない。
そこへ、絶対にたどり着けるはずのない大統領一行が現れる。
そんなに早くたどり着けるなら、バンデラスも一緒に来いよ、とは思わない。このネタは予め割れるように作られている。
彼らは、列車の中で知り合った旅回りの役者達である。
そこで「浮気は怒っていない」「2人でやり直せ」と他人事だから寛大に妻の浮気を許した大統領を見て、元帥は「無線で」作戦中止を戦闘機に告げる。
元帥が空軍基地に立てこもってロシアを攻撃した動機が、大統領夫人との浮気が大統領にバレてぎちょんぎちょんにされることを恐れたからだ、ということは、バンデラスは知りようがなかった筈だぞ、と思ったりしてはいけないのだ。
きっと、客席からは見えないところで電話して、大統領の指示を受けていたのだ。
全てが上手く行ったと思った瞬間、「無線機を壊していた」1機の戦闘機が、作戦中止の命令を伝えられることなく、そのまま作戦を続行していることが判明する。その機長がバグス軍曹だったことから、過激派の彼が「わざと」無線を切っているのではないかと大統領達が予測しているところが可笑しい。
違います、と言いたくなる。
全てが水の泡だと思った瞬間、発射されたミサイルを、50倍(以上だと思う)に大きくなった誰かの手が見事に受け止める。
この「ミサイル」と「大きすぎる手」がそれぞれ書き割りのデカイもので現されているのが嬉しい。
ここで映像だったら叛乱を起こしたくなるところだ。
ミサイルと大きすぎる手の書き割りは、舞台がほとんど覆われてしまうほどデカい。
そのデカさも可笑しい。
暗転してハッピーエンドだと思った瞬間、拍手も起きつつあったところに、ぱっと明るい照明が入る。
そこは、旅回りの一座の舞台、バンデラスは彼らとの約束通り「マクベス」の役で出演している。
「マクベスは悲劇だ。明るいミュージカルにするなんて、ウィリアムに謝れ!」と説教していたバンデラスが、一番楽しそうに歌い踊っている。
彼らは本当に「マクベス」を明るく楽しいミュージカルに作り替えてしまったらしい。
そして、この「マクベス」の幕とともに、「バンデラスを憂鬱な珈琲」も幕である。
そういえば、コーヒーの話題は、最初にバンデラスが「鳥の糞から取り出したコーヒー豆」のうんちくを語っていた場面と、コーヒーショップでコーヒーを注文したらコーヒーゼリーが出てきた、という2シーンでしか出なかったような気がする。
どうしてこのタイトルになったんだろう。
それはともかく、何だかんだ言いつつ、「ずっと後半みたいな調子が続けばよかったのに」とか「前半に役立っていない伏線があったような気がする」などなど勝手なことを思いつつ、芝居の後半というか最後の30分に満足して劇場を後にしたのだった。
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コメント
どなたか判りませんが、コメントありがとうございます。
そう言われてみると、香りが云々という話も出ていましたし、ジャコウネコだったような気がしてきました・・・。
いい加減な記憶で書いてはいけませんね。
反省です。
投稿: 姫林檎 | 2009.11.14 17:33
鳥の糞から取り出したコーヒー豆で淹れたコーヒー
鳥ではなく猫では?ジャコウネコ。
このコーヒーは本当にありますよ。
投稿: | 2009.11.14 15:33
姫林檎さん、こんにちは。
コチラも迷ったあげく、お値段がネックとなって諦めました。
結構早い時期にソールドアウトになっていましたから、
人気のある公演なのでしょうけども、、、
そうですか、コチラも映像多用型でしたか。
技術が含んで色んな事が映像で出来る様になったのでしょうけども、
やっぱり、舞台で使うときは気を付けて頂きたいなぁなんて、
思ってしまいますよね。
でも、終盤30分で挽回していたようなので、
ちょっと見てみたい気も(スケジュール的に無理ですけど・・・)
投稿: しょう | 2009.11.04 00:05