「高き彼物」を見る
加藤健一事務所vol.73「高き彼物」
作 マキノノゾミ
演出 高瀬久男
出演 加藤健一/小泉今日子/占部房子/石坂史朗
海宝直人/鈴木幸二/滝田裕介
観劇日 2009年11月22日(日曜日)午後5時開演
劇場 本多劇場 D列1番
上演時間 2時間25分(15分の休憩あり)
料金 5000円
ロビーでは、加藤健一事務所30周年を記念して、過去の上演作品のちらしが順番に並べて飾られていた。「煙が目にしみる」のチラシが目立っていたように思うのは気のせいだろうか。
パンフレット(500円)が販売され、また、次回公演のチケットも販売されていたのだけれど、1月の予定がまだ未定だったので購入は諦めた。
ネタバレありの感想は以下に。
舞台は昭和53年の静岡県だそうだ。
加藤健一事務所では開演前の注意事項を告げるのは(推定)若手の俳優教室出身の(あるいは在籍の)俳優さんで、ハキハキとその旨を説明してくれた。
大井川鉄道でSLが走り始めて3年目頃のことだそうである。
石坂史朗演じるいかにも「交番のおまわりさん」という感じの男がびしょ濡れになって、縁側のありそうな日本家屋の玄関(土間)にいる。
夕立にあったらしい。
少し前に二人乗りバイクの事故があり、海宝直人演じるその事故で友人を亡くした高校生が事故現場でずっと座り込んでいるというので通報があって、迎えに行って来たということなのだそうだ。
加藤健一演じる元高校教師の猪原正義は、そのバイク事故の現場に居合わせたことからその後も藤井という高校生と手紙のやりとりをしており、藤井少年は昨日から猪原の家に来ていたのだという。
高校教師を辞めて食料雑貨店を営んでいる猪原は、占部房子演じる娘の智子と、滝田裕介演じる茶畑を作っている父親の平八と暮らしている。
今日は、猪原を「教師の鑑」と慕う小泉今日子演じる野村先生が訪ねてきている。
猪原は、家族と上手く行っておらず、友人を亡くしたバイクの事故から立ち直っていない藤井少年に、「しばらくうちにいろ」と言う。
野村先生と智子は「忘れろというご両親の気持ちも判る」と言うけれど、藤井少年が、バイク事故の際にバイクを運転していたのは実は友人ではなく無免許である自分だったと告白し、そこへ藤井少年の父親から電話がかかってきて少年は怒って駆けだし、電話に出た猪原も父親を怒鳴りつけ、何だかんだどさくさ紛れみたいな感じで、藤井少年の猪原家滞在が決定する。
と同時に、猪原が野村先生に突然プロポーズし、周りがあわあわしている間に野村先生はあっさりしっかりそのプロポーズを受け入れる。
「センセイの鞄」みたいだー、と思う。
映画の「センセイの鞄」で月子さんを演じたのが小泉今日子だったから、そこからの連想かも知れない。だから、このお芝居を観ている間、猪原と野村先生の話だと思って見ていたのだけれど、よくよく考えるとそれは違っていたのかも知れないという気もするのである。
智子は目下付き合っている人がいるようだけれど、家族には秘密にしている。そして、そのことは、平八しか気がついていないらしい。その平八の気づきも、電話に出ている智子の様子から「あれは絶対男だ」「気取った声を出している」などと呟くのだけれど、それが藤井少年の母親からの電話だったりして、どうも笑いは取るけれど信憑性に欠ける。
藤井少年はバイク事故で友人を亡くしている上に、両親と上手く行っていないらしい。進学校の教頭を務めているという父親に、実はバイクを運転していたのは自分だと告白したものの、それを握りつぶした父親をいっそのこと憎んでいるようにも見える。
猪原自身だって、病院に健康診断なのか検査なのかの結果を聞きに行き、帰って来たときにお酒の匂いをさせて「全く問題なかった!」と言い放っているのだから、アンタ、それはやせ我慢かやけっぱちで、本当はとんでもない検査結果が出ているのを隠しているんじゃないの、と言いたくなる。
多分、正解はなくて、見た人が見たい角度から見ればいいんだろう。
二幕の幕開けは、智子の婚約者が猪原家を訪れるその朝から始まる。
これまた「ワケあり」な感じで、智子に心寄せて猪原商店にもたびたび来ていた警官が、智子の誕生祝い&映画デートに誘いに来て、藤井少年の「智子さんの婚約者が来るらしい」という邪気ない発言にあっさりと失恋するのも、申し訳ないけれど楽しい一幕である。
しかし、そうそう物事はあっさりは進まない。
野村先生から電話がかかってきて智子が飛び出して行き、猪原が結婚の話はなかったことにして欲しいと言ったことから、智子は怒濤のように怒る。自分も結婚しようとしている娘が、仲の良い野村先生が悄然としているのを見て黙っていられる筈もない。
一方、藤井少年のところに届いた父親からの速達には、猪原が15年前に教師を辞めたときの経緯が書かれている。「教え子との同性愛」という父親からの手紙に少年もまた怒り狂い「本当のことを言ってくれ」とと猪原に詰め寄る。
そして、智子にも語ったことのなかった「教師を辞めた理由」を猪原が語り出す。
智子の婚約者が到着し、実はその鈴木幸二演じる片山という医師が、15年前の猪原のその教え子だったことが判る。
智子が言い出せないワケである。
やけに堂々と自分のために教師を辞めることになって申し訳ない、挨拶しようと思ったけどできなかったと告げるのを見ていると、いや、こんなに丸く収まっていいのかという気がしてくる。
その様子を見ていた藤井少年は、家に帰って父親は友人の母親ともう一度話してみると言う。
そういえば、猪原は智子に追求されて野村先生に結婚の話を断ったのは、病院に検査に行ったというのは嘘で、自分は多分肝臓癌だと思う、先行き短い身で結婚することはできないと語る。
智子は「いいお医者様を知っている。」と言い、病院に行こうと説得する。
で、智子の婚約者は医者なのである。
脇腹を押さえた猪原を診察した片山は「肝臓はそんなところにはありません」と一笑いを取ると、「多分、急性膵炎です」と診察し、自分の車で病院に行くと猪原を背負う。
だから、どうしてそう大団円になるんだ! とちょっと叫びたい気分になる。
何というか、決してそんな説得的な何かが起きているわけではないような気がするのだ。何が何だか判らないうちに勝手にまとまって、勝手にいい方向に進んでいる。
いいことなんだけど、いいのか本当に、という感じがする。
でも、バタバタと猪原を病院に運ぶために人々が出て行き、保険証を取ってきた智子が、仏壇に手を合わせる野村先生の姿を見て固まったようになったときの、舞台が「絵」になったような瞬間を見ると、まぁいいか、大団円だ、という気分が広がるのが不思議である。
そして、全員が出かけた後、長風呂の平八が「智子〜」と呼びながら現れる。
場の緊張が一気に緩む。
そこに警官が、平八の好物らしい冷や奴を買って来て、二人はビールを飲むことになる。
日常の再開である。
何だか、この感想は、「高き彼物」というこのお芝居をちゃんと語っていないような気がする。
でも、何度も泣かされる、前の日に見た「十二人の怒れる男」とは違う意味で、いいお芝居だった。
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コメント
しょう様、コメントありがとうございます。
しょうさんも「高き彼物」をご覧になったのですね。
マキノノゾミ氏の脚本だし最後は丸く収まるんだろうなー、というのは、確かにその通りですね。M.O.P.の舞台だったら、確かに私も、「最後は悪く終わらない」と思って見るのですが、加藤健一事務所のお芝居だったので、うっかり(?)していました。
他人に干渉する猪原という役が暑苦しい加藤健一にぴったりだなぁ、というのもよく判ります。
私的には、「加藤健一」の代わりに「西田敏行」を入れても可です(笑)。たまたま日曜日に見た「坂の上の雲」で高橋是清役の西田敏行が英語を教えていたので、何となくそういう連想が今働きました。
投稿: 姫林檎 | 2009.12.01 00:12
姫林檎さん、こんにちは。
今更ですが、私もこちら見る事ができました。
私は疲れていたせいもあってか、話の運びがスムーズだな
位にしか感じませんでしたが、そういえば
とんとん拍子に話が進みすぎだったかもしれません。笑
でも、マキノノゾミ氏の脚本ですし、最後は丸く収まるんだろうなー
などと思い、かつ、それを期待してみておりました。
猪原先生の正直すぎる告白はちとドッキリしましたが、
彼の純粋さが、そうさせたのかもしれないと、今は思ってます。
前半は秀人に感情移入して、後半と言うか終盤は野村市恵に
感情移入してと、なんだかゆらゆら揺れながらの鑑賞になりましたが、
私も楽しめました。
あの他人に干渉する猪原と言う役が、
暑苦しい(誉めています)加藤健一にぴったりだなぁ、と言うのが
一番の印象ですかね。
投稿: しょう | 2009.11.30 12:50