« 「ダイアログ クリスマスまっくらコンサート」のチケットを予約する | トップページ | 「クロノス・ジョウンターの伝説」のチケットを予約する »

2009.12.20

「jam」を見る

グリング第18回公演「jam」
作・演出 青木豪
出演 中野英樹/萩原利映/遠藤隆太/小松和重
    佐藤直子/澁谷佳世/永滝元太郎(劇団M.O.P.)/
    廣川三憲(ナイロン100℃)/松本紀保
観劇日 2009年12月19日(土曜日)午後3時開演
劇場 東京芸術劇場小ホール A2列6番
上演時間 1時間50分
料金 4000円

 グリングはこの公演をもって活動休止に入るそうで、もっと前から見ておけばよかったと思ったのだった。
 ロビーでは上演台本等が売られていたようで、最後の挨拶で「お買い上げの方には、主宰の青木がサインをさせていただくと申しておりますので、というよりも、サインをしたがっていますので」と言っていたのが可笑しかった。

 ネタバレありの感想は以下に。

 グリングの公式Webサイトはこちら。

 舞台は、軽井沢のペンションである。
 ペンションがたくさん集まっていて、櫛の歯が欠けるように次々に廃業していって、村おこしに第九を歌ってしまおうというアイデアが出てしまうという感じは、どうも「軽井沢の端っこ」な感じがする。

 ペンションには、廣川三憲演じる常連の男が澁谷佳世演じる20歳も若い婚約者と泊まっている。
 ペンションのオーナーは中野英樹演じる白幡健二郎で、その亡くなった妻の妹である萩原利映演じる白幡素子と二人で切り盛りしているようだ。
 で、その素子が参加している合唱団で副指揮者をしていた永滝元太郎演じる小日向の送別会をペンションで行うことになり、健二郎の友人らしい小松和重演じる西埜や、素子の姉である佐藤直子演じる真理、ピアニストである碓井晴香らが三々五々集まってくる。
 遠藤隆太演じる何だかやけに怪しげな風情の若者もやって来る。
 これで、オールスターキャストの勢揃いだ。

 そして、舞台には登場しないけれど、健二郎の息子の「コウスケ」はなかなか難しい年頃で、学校にも余り通っていないらしい。
 素子は彼の母親代わりでもあり、ペンションの「売り」である料理を作っているのも彼女だ。
 だからなのか、常連の男は健二郎と素子は夫婦だと勘違いしているらしい。

 そして、ここから先は人間関係が絡まりまくりである。
 そもそも、10年にわたって母親代わりを務めてきた素子とコウスケの間がしっくり行っていないらしい。
 そうして「献身的」だったり「気を遣う」タイプである素子と、空気は読まないと決めて好きなことを好きなようにやっている姉の真理との間が、しっくり行くはずもない。
 その素子は西埜のことが好きらしいのだけれど、西埜の方にその気はないらしい。

 一方、ピアニストの晴香は、本人はどちらかというと体温低い感じなのだけれど、どうも「もてる」ことで周りに波紋を広げてしまうタイプらしい。
 小日向は最初から晴香狙いが鮮明だし、西埜と早くから音取りのレッスンをしているもので合唱団の中でもそういうウワサが立っているようだ。コウスケも晴香には第九の話をしたり、ブルーベリーを摘んで上げたりしているらしい。素子は健二郎と晴香が再婚すればいいと思っているようだし、そういう晴香に真理は問答無用で反感を持っているようだ。

 複雑である。

 ここでさらに、婚約者同士でラブラブにこにこしていれば良さそうな常連の男とその連れの女の子の様子が怪しすぎる。
 どうみても「倦怠期の夫婦」か、女の方が男に愛想を尽かす寸前というような風情である。

 最後のダメ押しは、怪しげ過ぎる若者の電話の内容が怪しげで収まりそうにないところである。
 実際に、小日向に大麻を勧めてみたり、晴香を狙っているのだと明かされて「睡眠薬を盛ってしまえばいい」と唆している。

 波乱が起こらないはずもない。

 雰囲気はどんどんおかしくなって行き、若い女が「婚約者と一緒の部屋に泊まりたくない」と宣言したところで、真理が「男性陣の部屋のキーを集めて女性陣がそのキーをランダムに取り、ペアになった2人は必ずその部屋に行く、というゲームをしようと言い出す。
 このゲームの目的は若い女と婚約者を元の鞘に戻そうということだと思うのだけれど、それなら何故彼女に最後にキーを引かせるのかが謎である。
 芝居的には最後まで引っ張らないと話にならないのかも知れないが、選択肢があるうちの引かなければ「運命」を感じて元の鞘に戻るという展開になりようがないではないか。

 でも、そう思ったのは私だけだったようで、真理は怪しげな若い男と真っ先に去り(結局、小日向が晴香に飲ませようとした睡眠薬入りのワインは真理が飲んだらしく、あっという間に爆睡してしまったらしい)、西埜と晴香もペアになって去ってゆく。小日向はあからさまに不服そうである。
 素子が引こうとしたところで、男がブチ切れて婚約者とやっと本音で話し出す。
 そうそう、女の方に問題がないとは言わないけれど、「相手が若い」からって、やたらと世話を焼きたがったり、あからさまに下手に出ようとするからいけないのよ、と思ったりもする。

 西埜が「酒が抜けたら帰る」と戻ってきたことで素子は察したようで、西埜もあっさりと晴香に告白して振られたことを素子に告げる。
 西埜が鈍いのか。
 晴香がやってきて、「そんなことで泣けるなら、素子はここにいて待っていた方がいい」と言う。
 素子は、コウスケとの関係が上手く行っていないこともあり、西埜にも告白する前に振られたし、「私がいなければ」ということを言い訳に今の生活を変えて外の世界に行くことをためらっていると指摘されたこともあったんだろう、その場に戻ってきた健二郎に「私が1〜2年、いなくなったらどうする?」と言い出す。

 ここで、そう言われて「そしたら、一人で何とかやっていくよ」と答える健二郎という人間の「あり方」みたいなものが、このお芝居の要なんだろう。
 パーティを抜け出したのも、明日の準備をするためだったわけではなく、素子に何かを言ったらしいコウスケに「よく言っておく」ためだったようだし、りんごでジャムを作ったらどうかと提案した真理と素子が険悪になったのを見ていたからこそ、ジャムを作ろうと思ったためだったらしい。

 タイトルにもなっている「jam」は、素子の姉である健二郎の妻が、ジャムにするために火口近くにブルーベリーを摘みに行って、火口からのガスで亡くなったという出来事に起因し、ずっとジャムを作っていなかった健二郎がジャムを作る、というところで終わる、その「象徴」のようだ。
 そして、健二郎の作ったジャムが「甘すぎてまずい」ところが、多分ポイントで、本当に一人でペンションをやっていけるのかしらという不安とともに、綺麗に終わらないことの安堵もそこには漂っているような気がするのである。

 青木豪の「ごあいさつ」に「集団を一度終わりにしたい人の声」に耳を傾けていたのだろう、という一説があった。
 確かに、この後、素子はきっとパリに料理の勉強に旅立つだろう、晴香は「第九」のピアニストから降りて軽井沢に来ることはもうなくなるだろう、元々この日は小日向のお別れ会である。
 ここに集った「いつものメンバー」が再び揃う日はないかもしれないし、あったとしても随分先のことになる。
 それでも、それは少なくとも素子にとっては「前向きな一歩」なのだ。

 素子の世話焼きを真理は「時に一種の暴力だ」と切って捨てていたけれど、そういう一面も確かにあって、コウスケを気にしすぎる素子にさすがの健二郎が「放っておけ」と怒鳴るシーンもあったくらいなのだけれど、でもやっぱり、このメンバーをここに繋ぎ止めていたのは、素子の「姉の代わりを務めなくては」という気持ちだったんだろう。
 そうして、その「無理」が、少しずつきしみ始めて、そろそろ別の形を探さなくてはいけなかったし、その使命感に酔うという少しばかり歪んだ幸福感を素子は卒業すべきだったんだろう。

 そうは思うのだけれど、素子のその決心にほっとしたし、もらい泣きしてしまったのだけれど、理由の判らない「ザラっと」感が残ったのも事実だったりする。
 このザラっとした感じの正体は、きっと、あまり私が気づきたくない何かで、でもそのうちボディブローのように効いてきそうな感じがするのである。

 やっぱり、見て良かった。

|

« 「ダイアログ クリスマスまっくらコンサート」のチケットを予約する | トップページ | 「クロノス・ジョウンターの伝説」のチケットを予約する »

*芝居」カテゴリの記事

*感想」カテゴリの記事

コメント

 しょう様、コメントありがとうございます。

 あらら、ニアミスしていましたか。これもご縁ですね。
 やっぱり逆側からも見てみたいですよね。最初に劇場に入ったときに感じた「うわあ、半分は背中からじゃない」という心配は、始まってみたら全く必要ありませんでしたが。

 カーテンコールのごあいさつで「第19回公演」とおっしゃっていましたね。
 次回を期待いたしましょう!

投稿: 姫林檎 | 2009.12.22 23:00

姫林檎さん、こんにちは。
またしてもニアミスしてますね−。
同じ回に見ておりました。
しかも、多分同じ側の席、、、

私も最後、素子の一歩を踏み出そうとする姿、
本当に勇気をもらえた気がして、帰宅しました。
しかし、あの客席の配置ではもう一回別側でみたい気がしますね。
グリングは、パンフレットにも近い将来
また再結成するような事が書いてあったし、
カーテンコールでも
「次回公演でお会いしましょう!」と
言っていたので次回公演、期待してます。

投稿: しょう | 2009.12.20 23:48

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「jam」を見る:

« 「ダイアログ クリスマスまっくらコンサート」のチケットを予約する | トップページ | 「クロノス・ジョウンターの伝説」のチケットを予約する »