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2009.12.06

「歌舞伎座さよなら公演 十二月大歌舞伎(昼の部)」を見る

歌舞伎座さよなら公演 十二月大歌舞伎(昼の部)
演目 一、操り三番叟
出演 勘太郎/松也/鶴松/獅童
演目 二、新版歌祭文 野崎村
出演 福助/孝太郎/秀調/彌十郎/橋之助
演目 三、新古演劇十種の内 身替座禅
出演 勘三郎/染五郎/巳之助/新悟/三津五郎
演目 四、大江戸りびんぐでっど
出演 染五郎/七之助/勘太郎/彌十郎/萬次郎
    市蔵/亀蔵/井之上隆志/獅童/橋之助
    扇雀/福助/三津五郎/勘三郎
観劇日 2009年12月5日(土曜日)午前11時開演
劇場 歌舞伎座 2階6列45番
上演時間 5時間15分(15分、30分、20分の休憩あり)
料金 16000円

 歌舞伎座さよなら公演を見たのは、これで2本目である。
 
 今回もまたイヤホンガイド(650円、保証金1000円)を借りて、パンフレット(とは言わない気がする。1200円)は購入しなかった。

 歌舞伎座の売店は楽しい。
 友人にちょっとしたお礼をしたくて、「歌舞伎座限定」のものがいいなぁと休憩時間にちょっと探し、結局、パッケージに歌舞伎座の外観をあしらった小豆と抹茶のチョコレートにした。
 こういう買い物も楽しい。

 ところで、今回は昼の部の終演時間が午後4時15分、夜の部の開演時間が午後4時30分から45分に変更ということで、昼と夜の部の間に余裕がほとんどない。しかも、昨日はその時間に雨が降っていたものだから、歌舞伎座前の地下鉄東銀座駅入り口は大混雑で、階段などちょっと危ないんじゃないかと思うほどだった。

 ネタバレありの感想は以下に。

 歌舞伎座の公式Webサイト内、「歌舞伎座さよなら公演 十二月大歌舞伎」のページはこちら。

 もちろん、クドカンの新作歌舞伎「大江戸りびんぐでっど」目当てで取ったチケットである。
 友人が言っていたのだけれど、秒殺で売り切れるクドカンの作・演出舞台のチケットを、発売日以降に購入できるって何て凄いことなんだろう。
 それだけ「歌舞伎」というものの敷居が高いということなんだろうか。

 まず最初は「操り三番叟」という一幕である。20分くらいだったのではないだろうか。
 この演目の見どころは、何と言っても、箱から取り出された糸操りの三番叟(勘太郎)の、「人形振り」の舞いである。
 イヤホンガイドによると、操り人形という設定なので「重力を感じさせない」ように舞うものらしい。

 そういう解説を先に聞いてしまったからかも知れないのだけれど、勘太郎のこの三番叟は本当に軽い。くたりくたりと関節がないかのように動き、糸に引っ張り上げられているかのように軽く飛びはね、動くときも普通に歩くことはない。
 糸の調子を見ているときに、自分の頭の後ろ(というか、伏せている姿勢なので上)は見えようがない筈なのに、人形遣いが糸を引くのに合わせて腕や身体を動かすのも不思議である。三味線の音が合図なのか、こっそりどこかで合図を送っているのか。
 とても楽しく、あっという間に終わってしまうのが寂しい。

 次の「新版歌祭文 野崎村」は、この「昼の部」の演目では一番「歌舞伎らしい」のではないだろうか。
 もっとも、歌舞伎をほとんど見ることのない私がイメージする「歌舞伎らしさ」だから、はっきり言ってまるで当てにならない。
 一番、お芝居らしいといえばいいのだろうか。
 長いお芝居の中からクライマックスの一幕を取り出しての上演だったようで、イヤホンガイドの助けを借りなければ(借りても)訳が判らない部分がたくさんあった。

 例えば、お染の母親が、(病の床についている)久作の妻へのお見舞いにと持ってきた箱の中に入っていた大金は、以前に久松が盗んだと疑われたお店のお金を久作が叩きつけるように弁償したものだったらしい。結局、そのときのお金は久松が盗んだのではないということが判ったので、お染の母親がそれを返しに来たのだ。
 「お見舞いに」とするところが、素直に謝れないプライドの表れと見ればいいのか、久作が受け取りやすいようにという心遣いだと見ればいいのか、その辺りは判らないけれど、そもそも久松が何故奉公先から戻されているのかという説明はないわけで、これは、お話を知っているか、イヤホンガイドの助けを借りるかしないと、なかなか判りにくい。

 それは置いておいても、久松とお光が許嫁だったなら、奉公に出た先のお嬢さんと恋仲になってしまった久松って結構ヒドイ奴なんじゃないかとか、大店のお嬢さんであるお染よりも在所の働き者の村娘であるお光の方が好感度が高いぞとか、だとすると心中するという久松とお染の覚悟を聞いて僅かの間に髪を下ろしてしまったお光は早まり過ぎじゃないかとか、何だか色々と突っ込みを入れたくなってしまう。
 お光が、血縁でない自分と久松を育ててくれた久作に感じていた恩がそれほど深いということなんだろうか。

 ラストシーンも、久松としてはお店のお金を盗んだという疑いも晴れ、お光と祝言をあげる話もなくなり(少なくともお染との婚儀を邪魔する要素が一つ減ったのは確かである)、なのに、どうしてお店に戻るのに駕籠と船に別れたというだけであんなに名残惜しげに悲しげにしなくちゃならないのか、今ひとつピンと来なかった。
 私なんかは、尼になることに決めて、久松がお店に戻っていくのを見送り、その姿が見えなくなったところで父親にすがって泣いたお光の方が何ていい女なんだろうと思うのだった。

 演目を決めるときに、やはり「色々な歌舞伎を見てもらいたい」という判断が働くのだろうか。
 その次に演じられた「新古演劇十種の内 身替座禅」は、恐妻家のお殿様と無茶苦茶嫉妬深いその奥方との楽しい一幕である。
 好色だけど恐妻家というお殿様に、何と勘三郎は合っていることだろう。
 上手く奥方を言いくるめて一夜の自由を手に入れ(たと思い込み)、恋人のところに出かけるうきうきした様子や、逢瀬を思い出してにやけながら朝帰りする様子など、表情を替え、ちょっとした身振りひとつで大きく笑いを誘っている。

 そしてまた、三津五郎の「嫉妬深い奥方」も可笑しい。
 お殿様が身代わりに残した太郎冠者を発見し、自分を騙して恋人に会いに行ったと知って激怒し、今度は自分が「お殿様になりすました太郎冠者」になりすます。そんなことをすれば、お殿様と恋人との逢瀬を聞かざるを得なくなるのは判っているのだし、よせばいいのにと思うのだけれど、それが「嫉妬」というものなんだろう。
 その「身代わり」の連鎖を登場人物たちは知らず、客席の私たちは逐一知っているというところが、この一幕のポイントである。

 そういえば、大笑いしたことは覚えているのだけれど、この一幕がどうやって幕を下ろしたのかとんと覚えていない。

 この後の20分の休憩時間に、イヤホンガイドでは、大江戸りびんぐでっどを作・演出した宮藤官九郎と、中村勘三郎の対談が流された。
 20分というのは意外と長くて、2人の出会いから色々な話が出ていたのだけれど、クドカンが「あまり勉強せずに」と言っていたのと、「とにかく1時間40分ガマンしてもらえば終わりますから」と言っていたことと、勘三郎(だったと思う)が、歌舞伎なんて何でもありなんだと強調し、(今の)歌舞伎座の建物なんて江戸時代は非常にシンプルなもので、大した伝統があるわけでもないんだというようなことを言っていたのが印象的だった。
 (けど、間違えて覚えていたら申し訳ない。)

 そして、「大江戸りびんぐでっど」である。
 「りびんぐでっど」とは、「生ける屍」という意味であるそうだ。
 幕開けでいきなり、染五郎と亀蔵の2人がくさやの干物の着ぐるみで登場するのがインパクトである。
 こんなのあり? である。
 そして、亀蔵は実は「いるか」で開いていた身体をぱたりと閉じて海に帰り、染五郎はいったんは爬虫類になったものの、その着ぐるみも脱ぎ捨てて、「くさやの干物売りのおようを追ってきた」といきなり人間になるのが無茶苦茶である。
 もちろん、大爆笑で、つかみは完璧である。

 実は、物語としては結構きっちりしていて小技で遊んでいるという感じなのかも知れない。
 おようの夫の新吉はくさやの干物づくりを生業にしていたのだけれど、全然売れないくさやの干物づくりを生業にしていた半*(名前を忘れた・・・)がくさや汁を盗みに入ろうとしたところに居合わせ、殺されてしまう。
 しかし、新吉は死体にかかったくさや汁の効果でゾンビとなって復活し、ゾンビに噛まれた人間はゾンビになってしまって、島中がゾンビであふれてしまう。

 半*は舟で江戸に出てくるけれど、その舟にゾンビになった犬が乗っていたせいで、江戸にまでゾンビが溢れる。
 その「ゾンビ」が「りびんぐでっど」である。

 半*は、新吉のくさや汁を武器にそのりびんぐでっど達を組織し、人材派遣業を始める。なりゆきで、おようも半*と一緒に暮らしている。
 そこに、半死半生の新吉が現れる。

 実は、半*が新吉を殺したのではなく、新吉が半*を殺したのであり、りびんぐでっどを組織した半*自身が「りびんぐでっど」であった、りびんぐでっどの半*は、最後に、りびんぐでっど達をだまくらかして、落ちてしまった永代橋の橋桁代わりに使っておように永代橋を渡らせる、というところで幕である。

 「大江戸りびんぐでっど音頭」とか、ゾンビとなったりびんぐでっど達が踊るシーンは文句なく楽しい。「りびんぐでっど in 江戸!」と歌うのだけれど、日本語なのは「江戸」だけじゃん! とツッコミを入れたくなるのも楽しい。
 とにかく「小技」が効いていて、しゃべっている言葉も今の言葉に限りなく近く、何より判りやすいのがいい。
 落語の要素をちりばめてあったようで、実は私にはほとんど判らなかったのだけれど、それはもちろん知っていた方が楽しめるのだろうけれど、知らなくても十分に楽しめる。

 でも、あのラストシーンでどうして「元気になれる」のか。
 イヤホンガイドの対談で宮藤官九郎が「とにかく元気にはなれます!」と言っていた(と思う)のだけれど、そこはあまりピンと来なかった。申し訳ない。
 でも、判らないなりに全編通して笑って、それで元気になったから、やっぱりクドカンの狙い通りだったのかも知れない。
 派遣社員イコールりびんぐでっどと考えると、かなり風刺の効いた内容のような気がしなくもないのだけれど、そこは深く考えないことにした。

 カクスコにいた井之上隆志が出演していて、そういえば夏の「桜姫」にも出演していたし、コクーン歌舞伎の笹野高史のような位置にいるのかなと思うと嬉しい。しかも、「歌舞伎座」である。
 そのうち屋号がついちゃったりするのだろうか。

 2階席は舞台全体を見るには見やすかったけれど、少なくとも6列45番という席は花道がほとんど全くと言っていいほど見えない。これで1等席というのは何となく釈然としない。
 新橋演舞場は確か花道が見えない席から見える位置にモニターが設置されていたと思うのだけれど、歌舞伎座がモニターを設置するわけには行かないということなんだろうか。
 建て替えのときには、何か工夫があるといいなと思ったのだった。

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コメント

 しょう様、コメントありがとうございます。

 夜公演はカーテンコールで野田秀樹の挨拶があったのですね。
 私は夜公演は見ていないので、初日だけなのか比較できないです・・・。

 私も、次に見るときは花道が見える席がいいです。
 歌舞伎座の2階席は(桟敷はどうか判りませんが)ほとんど花道は見えないんじゃないかと思ったりしています。
 あちこち歩いて確認してくればよかったです。

 建て替え後はもう少し見やすくなっているといいなぁ・・・。

投稿: 姫林檎 | 2009.12.07 23:17

姫林檎さん、こんにちは。

初日で特別な事、、、
今回が初歌舞伎なので、歌舞伎として特別かどうかはよく分かりませんが、、、
夜公演だけは、公演終了後カーテンコールのようなものがあり、
勘三郎に手招きされて、野田秀樹が舞台で挨拶しておりました。
昼公演はさっさと客席の明かりもついて、
特に何もありませんでした。

『歌舞伎っぽくないなぁ』とは思いましたが、
中弛みはしたものの、私も十分に楽しめたので、
また再演があれば、今度は花道が見える席で見たいです(^^;

投稿: しょう | 2009.12.07 23:03

 しょう様、コメントありがとうございます。

 初日にいらしたのですね。
 歌舞伎座の初日って、何か特別なことがあったりするのでしょうか? いかがでしたか。

 私が座った席からは、ほぼ、花道は見えませんでした。
 せり(とは言わないんでしたっけ? 上下する部分)の辺りがかろうじて見えるかどうか、という感じです。これで1等席はヒドイと思ったことでした。

 「大江戸りびんぐでっど」は、確かに歌舞伎らしさはあまりなかったかも知れませんね。
 新感線のチャンピオン祭り、という表現でしょうさんがおっしゃりたいことはよく判ります。
 再演されたら、また少し変わるのかも知れませんね。
 そうしたら、また見に行きたいと思います。

投稿: 姫林檎 | 2009.12.06 23:47

姫林檎さん、こんにちは。
おぉ、行かれたのですね、十二月大歌舞伎。
私も初日に休みを取って通しで見てきました。
(バタバタして記事はまだ書けておりませなんだ・・・)
2階席でも、場所によっては花道が見えなかったのですね。
私も、3階A席で花道寄りだったので、全く見えず、
花道で芝居をしているらしく、しかも笑いが起こっていたりすると、
『コレが値段の差かぁ・・・』と思っていたのですが。

私は初歌舞伎だったのですが、
今後はクドカンや、野田秀樹や、井之上さんが
関係していなくても、見に行きたいなぁと、
魅力にやられてきました。
勿論、大江戸りびんぐでっど 楽しめました。
が、なんだか、
『歌舞伎役者を使って新感線のチャンピオン祭りをやっている』
と言う印象が、、、
もうちょっと歌舞伎の風味を効かせてくれた方が、
歌舞伎初心者には分かり易くて有難味があったなぁと。
そんな感じがしました。

投稿: しょう | 2009.12.06 22:23

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