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2009.12.01

「THE ハプスブルグ」に行く

 昨日(2009年11月30日)、2009年9月25日から12月14日まで、国立新美術館で開催されている「THE ハプスブルグ」展に、職場のお姉さんと2人してサボって行って来た。

 会期末も近いし、昨日は月曜日で他の美術館は閉館しているところが多いし、もの凄い混雑なのではないかと覚悟していたのだけれど、行ってみたらチケット売場も会場入口も行列はなく、展示室に入ってからも少しゆっくり待てば最前列で見られるくらいの混雑ぶりで、意外だった。
 でも、こういう予想の外れ方は悪くない。
 のんびりと見ることができた。

 「THE ハプスブルグ」は、私は「ハプスブルグ家の人物を描いた肖像画展」だと思い込んでいたのだけれど、実は、肖像画は集められた絵のほんの一部であった。
 「THE ハプスブルグ」は、ヨーロッパに長く続いた名家中の名家であるハプスブルグ家が代々集めた美術品(特に絵画)を集めた絵画展であり、その中に、ハプスブルグ家の人間を描いた肖像画も含まれる、というのが正しいようだ。どちらかというと、いわゆる「宗教画」の方が多かったように思う。
 今回展示された作品の多くが、ウィーン美術史美術館とブダペスト美術館に所蔵されている作品である。

 それでも「肖像画展である」という思い込みが強かったので、肖像画の印象が強い。
 中でも、アンドレアス・メラー作の「11歳の女帝マリア・テレジア」と、フランツ・クサファー・ヴィンターハルター作の「オーストリア皇妃エリザベート」、ディエゴ・ベラスケス作の「白衣の王女マルガリータ・テレサ」の3作の印象がやっぱり強い。
 これは、決してこの3枚の絵が池田理代子によってオマージュされていたからではない(と思う)。

 普通に考えれば、美女として名高いエリザベートが際立つところなのだけれど、私はどちらかというとマリア・テレジアに惹かれた。
 立場が為せる業なのか、「3割増し美人に描く」という当時の肖像画のお約束のためなのか、11歳とは思えない落ち着きと色香を見せている。たくさんの子供に囲まれた貫禄あふれる姿の肖像画の印象が強いので、この嘘のように細いウエストで、「美人だったんじゃん」と思わず呟きたくなる姿が意外だった。

 意外といえば、特にハプスブルグ家の人を描いた肖像画は注意して見ていたつもりなのだけれど、ブルーやグリーンの瞳の人物がいなかった(ように思う)のが不思議だった。ほとんどの人物はグレイの瞳だったのではなかろうか。
 ヨーロッパ人はブルーかグリーンの瞳という私の発想もそもそもステレオタイプだけれど、一人もいないというのも意外だったのである。

 それはともかくとして、マリア・テレジアの肖像画もエリザベートの肖像画も、どうしても絵としてよりも本人の姿として見てしまうのだけれど、マルガリータの絵は、ベラスケスという私でも知っている大物が描いた絵であるせいもあって、何となく「絵」として見てしまうところが、我ながら流されやすいというか、ミーハーなものである。
 マルガリータの絵は、正直に言うと、「皇太子フェリペ・プロスペロ」の絵よりも、マリア・テレジアやエリザベートの肖像がよりも、近づいてみるとかなり荒いタッチの絵に見える。
 でも、少し離れたところから見ると、その乱暴に見えたタッチが計算されていてマルガリータのドレスの一部だったり背景だったりに不可欠な一筆であることが判る。不思議である。

 イタリア絵画の収集室は、やはり、宗教画が多いように思う。
 その中で、ちょっと気になったのはジョルジョーネである。その名前に何となく聞き覚えがあるけれど絵を見てもピンと来ないなぁと思っていたら、何のことはない、篠田真由美の建築探偵シリーズに出てくる神代教授の研究対象がヴェネツィア派と呼ばれる画家達で、ジョルジョーネはその中の一人だった。
 確か、作品数の非常に少ない画家だった筈である。私が本物を見たのも、多分初めてだったろう。
 しかし、そういう背景があっても、正直に言って、あまり印象的ではなかったのも事実である。

 オランダ絵画の部屋では、やっぱりルーベンスの絵が印象深い。
 一緒に行ったお姉さんは、「暗くて嫌いなんて言っていて悪かった。ルーベンスはやっぱりお嬢渦だわ」という感想を漏らしていたからである。私なぞ、ルーベンスと言われても、「フランダースの犬で少年が最後に見た絵だよね」などと感想を述べる有様である。しかも、これは感想ではない。単なる記憶である。

 出品されていた宗教画では「聖母子と**」というマリアとキリストの親子とあと誰か、という絵や、十字架に貼り付けにされたキリストを下ろしたところ、というテーマの絵が多かった。
 馴染みがあるから印象に残っているだけかも知れない。
 前者はともかくとして、後者の絵を光あふれる感じで明るく描かれても困るだろうと私などは思うのだけれど、お姉さんが言うのはそういう「画面の暗さ」ではないらしい。
 素養と感性に欠ける私に説明するのはとても大変だったと思うのだけれど、描かれた人物の表情でもないし、画面自体の色味や彩度という話でもないようだ。
 つまるところ、「そこに込められたもの」のことだと理解したのだけれど、そうなると私にはお手上げである。

 そのお姉さんが好きなのは「ベラスケス」だという。ベラスケスの絵は明るい、と言う。
 ここで、ベラスケスの絵だってやっぱり暗いじゃん、と思ってしまう私は、何かを根本的に間違えている気がする。
 なので、私が気になったスペイン絵画の部屋の絵は、フランシスコ・デ・スルバランの「聖家族」である。理由は単純で、この絵に描かれたマリアが一番美人だったのだ。意外と心ここにあらずという表情をしていたり、威厳を表すためなのかイエスともども眉間にしわを寄せたような顔をしているマリアの絵が多い中で、このマリアは普通に若くて綺麗な女性である。そこがいい。

 ところで、絵画に比べると少ないけれど工芸品も出品されていて、その中には武具も含まれていた。
 その武具の一つである楯に、メデューサが浮き彫り(というよりも顔が飛び出ているように作られている)になっているのはどうなんだろう、という気がした。
 戦いの最中にその頭をメデューサだと認識することは不可能に近いだろうから、きっと鑑賞用とか、威厳を表す用にしか使われていなかったのだとは思う。

 正直に言うと、全体的に「思ったよりも凄くない」という印象なのだけれど、でも好き勝手なことを言いつつ、混雑している割にゆったりと見ることができて、意外とリラックスできた美術展だった。

 「THE ハプスブルグ」の公式Webサイトはこちら。

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コメント

 逆巻く風さま、コメントありがとうございます。

 私は、残念ながら「ANJIN」も「シェルブールの雨傘」も「パイレート・クィーン」も見ていませんが、それぞれ楽しまれたようで何よりです。

 ミュージカルって、お値段がいいこともあって、ついつい二の足を踏んでしまうのです・・・。

 もうすぐ今年も終わりですね。
 たくさんコメントをいただいてありがとうございました。
 また来年もよろしくお願いいたします。

投稿: 姫林檎 | 2009.12.24 22:41

遅くなりました~(^^;
この前はANJINとかシェルブールの雨傘とか観てきました。
そして今日は日帰りで「パイレート・クィーン」観てきました。
期待して行かなかったんですが、その分面白かったです。多分恒例となっているらしいカーテンコールのスタンディング、それ程とも思いませんでしたが、これも一種の参加型ミュージカルと思い出演者ともども楽しみました。

投稿: 逆巻く風 | 2009.12.23 22:33

 逆巻く風さま、コメントありがとうございます。

 「THE ハプスブルグ」ご覧になったのですね。
 確か明日までですから、週末ですし、かなりの混雑だったのでしょうね・・・。お疲れ様でした。
 何だか私は空いているときに行ってしまい、申し訳ない感じです。

 お芝居もご覧になったのですね。
 そちらのお話も楽しみにお待ちしております。

投稿: 姫林檎 | 2009.12.13 23:18

東京へ行って見てきました。何を?って・・・人混みを (苦笑)
まあ何とかエリザベート見れました。
そしてチケットの半券でスパークリングワインを飲めたのでまあいいか、です。
ついでに(どちらがついでか分かりませんが)、3本舞台を観てきました。そちらについては機会がありましたらまた、ということで。

投稿: 逆巻く風 | 2009.12.13 21:35

 逆巻く風さま、コメントありがとうございます。

 しかし! 間違っても参考にしないでくださいませ。
 なーんの素養も教養も感性もない人間の単なるおしゃべりですから。

 「名画で読み解くハプスブルク家12の物語」は、確か、「THE ハプスブルグ」のミュージアム・グッズのコーナーで販売されていたと思います。著者の中野京子氏がオフィシャルサポーターでもあるので、読まれてから美術展に行くとより楽しいのではないでしょうか。

 エリザベートの白いドレスを着て振り向いている肖像画もありました。
 あれって、かなり大きい(等身大よりも大きく描かれていたと思います)絵なのですよね。
 迫力がありましたし、そこに描かれているエリザベートはやはり印象に残る美人でした。

 「マリー・アントワネット」は大地真央主演の舞台を見ました。「エリザベート」「ルドルフ」は見ていません。
 私はハプスブルグ家は、「ミュージカル」というよりも「宝塚」のイメージが強いのですがいかがでしょう。

投稿: 姫林檎 | 2009.12.01 23:30

参考になりました。
僕らのように舞台好き、ミュージカル好きにとってはハプスブルク家のことは”必須科目”ですね。
「マリー・アントワネット」に始まり「エリザベート」「ルドルフ」と・・・観てないのもありますが。
最近『名画で読み解く ハプスブルク家12の物語』を読みましたが、何と言ってもエリザベートの美しさが際立っていますねー。結構有名なあのエリザベートの肖像画はありましたか?

投稿: 逆巻く風 | 2009.12.01 19:56

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