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2010.01.31

「お代り」を見る

15周年記念公演第三弾「お代り」玉造小劇店 配給芝居VOL.3
作・演出・出演 わかぎゑふ
出演 コング桑田/朝深大介/野田晋市/千田訓子
    伊東孝明/小椋あずき/楠見薫/曽世海司(Studio Life)
    美津乃あわ/上田宏/谷川未佳/祖父江伸如
    福井千夏/上瀧昇一郎(空晴)/森崎正弘(MousePiece-ree)ほか
観劇日 2010年1月31日(日曜日)午後3時開演(千秋楽)
劇場 THEATRE 1010 10列25番
上演時間 2時間15分
料金 4500円

 電車を乗り過ごしてギリギリに駆け込んだので、ロビーの物販はチェックできなかった。
 終演後のコング桑田の「トークショー」で、福袋が小2000円、大5000円という案内があったけれど、結局、購入せず。
 大体、このシリーズのお芝居を観たときはパンフレットを購入して終演後に行われる役者さんのサイン会でサインをもらうのだけれど、何だか今回はいいかなー、という気持ちになって購入しなかった。

 帰りのエスカレーターで赤井英和を発見して、ちょっと驚いた。

 玉造小劇店の公式Webサイトはこちら。

 多分、2回見ている、ラックシステムの「お正月」のいわば裏バージョン、であるらしい。
 チラシか玉造小劇店のサイトか、どこかでわかぎゑふがそう語っているのを読んだ記憶があったので、「お正月」「お正月の鈴木さん」と心のどこかで唱えながら見てしまった。
 あちらは、「不味い高野豆腐」が一家の120年を繋いでいたけれど、こちらは、管理人のカヤノさんがお裾分けしてくれた黒豆がその「家」の120年を繋いでいた。

 そして、時々スパイス代わりに「海軍カレー」のエピソードが挿入される。
 明治になってから入ってきた洋食とおせち料理の定番と、真逆の2つの食べ物が血のつながりがあったりなかったりする人々が住む家の歴史を繋いでいくところがこのお芝居の醍醐味だ。
 最初のうちは「何だか散漫だなー」などと勝手なことを思っていたのだけれど、そう見せかけておいて最後にはガッチリ観客の心を掴んで張り巡らした伏線をきっぱり回収して行く。
 相変わらず見事なマジックである。

 伊藤博文だったか誰かの「洋行」に厨房係としてお供していた山田家(だったと思う)の長男が帰って来るところからこのお芝居は始まる。
 それを聞きつけたのか、その「家」の管理人をしている隣家の女性が「お裾分け」と黒豆を持ってくる。
 今ひとつ、この山田家の長男の位置づけが判らないのだけれど、とにかく、歴史上の人物たちの船旅でごはんを作っていたことだけは確かなようである。

 叔父がやってきて、「洋食を食べさせろ!」と強要するわけだけれど、実は彼は洋食に辟易していた外交官達に和食を食べさせることで感謝されていたわけで、洋食を学んできた訳ではないらしい。
 そこで、小豆と栗きんとんを練って焼き色を付け、赤味噌に蜂蜜を混ぜたソースをかけ、甘いもの嫌いの叔父に「ハンバーグだ」と供するのだから怖いもの知らずである。
 しかし、やはり一番恐ろしいのは、その「ハンバーグ」を「美味しい」と言ってぱくぱく食べる彼の母であろう。
 母は強いし、女も強いのである。

 そして、時はくだって、この「ハンバーグ」を作った弟が、やはり海軍の「食事」を司る結構上の方の役職(これまた忘れてしまった・・・。)になっている。
 部下なのか、そうでないのか、海軍の若手を3人「官舎」に呼び、兄から「見た目が**のよう」と教えられて涙まで浮かべた、「カレー」を船中での食事のメインに据えようと、試食させようとする。
 揺れる船内でも零れないように小麦粉を溶いて粘度を上げたというエピソードは恐らく事実なんだろう。
 確かに、最初の一さじに勇気が必要だったろうことは想像に難くない。
 それを、「私も一緒に食べる」と言いながら若手に食べさせ、彼らが「美味しい!」と反応した後でおもむろに食べる上官というのも、なかなか普遍的な感じがして可笑しい。

 次は何だかよく判らないやたらと手の動きのうるさい男が出てきて、どうもその男は売れない小説家らしい。
 売れない小説家なのに、愛人を3人も抱えているところが小面憎い限りである。
 どう考えてもこの男は海軍とは全く関係がなさそうなのに、それでもやはり、隣家の女性は相変わらずこの家の管理人で、黒豆を煮て(関西風に言うと炊いて)、お裾分けに持ってくる。
 でも、関東大震災以降、何も食べられなかったという女性がその「真っ黒」な黒豆を見て初めて口にするのだから、「いい話」である。
 ところで、黒豆が真っ黒なのは当たり前だと思うのだけれど、「真っ黒」と驚く登場人物が多いのはどうしてなんだろう。

 その後、時代はまた下って、太平洋戦争直前という辺りだろうか。
 「海軍カレー」を試食した若手兵士3人のうちの1人が家族を持ち、再び海軍の官舎となったこの家に住んでいる。
 そこにやっぱり隣家に住む管理人がやってくる。この家の主人はそれまで「隣家の管理人」に会ったことがなかったらしく、彼女の顔を見て驚く。「20年近く前にこの家に来たときに会った女性と同じだ!」と言ってくれて、そうそう、私たちだってずっとそう思っていたのよと思い、何だか代弁してくれたようでほっとする。
 そして、「それはきっと伯母です」「我が家が代々この家の管理人を務めているんです」と言われ、納得しつつ、「でも、何で着ている着物がずっと全く同じなのよ!」と心の中でツッコミを入れてしまった。

 海軍将校で厨房を担当している主を持つこの家は、周りの家に比べてずっと食べ物に裕福である。
 それが原因で末の女の子はいじめられてしまい、「お弁当が立派だったからだ」と言われて母親はショックを受けるのだけれど、この妹の状況を父親に語る長男を見ていて、ずっとこの人見たことあるなー、というよりも、この声に聞き覚えがあるなー、と気になっていた。
 役者さんとしてではなく、何というか、素の状態を知っている人だという確信だけが浮かぶ。
 結局、お芝居を見終わって、出演者一覧を見てやっと判った。
 伊藤四朗親子が旅をするという番組が時々放送されるのだけれど、そこで見たのだ。伊藤孝明だと判ったときには、何だかもの凄くほっとしたのだった。
 我ながらアホである。

 海軍の官舎だったこの家はGHQに接収されて、末娘のアサコはメイドとして雇われ、日系2世の米軍兵士(なのか、将校)の前では「大人しい娘」を装っている。
 この兵士が「いい人」「勝者という自分の立場に違和感を覚える人」で、アサコにコンビーフの缶詰やハーシーのチョコレートをくれる。
 ここで「鈴木のあっこちゃんにもあげよかな」と、「お正月」の主人公である鈴木一家がちらっと顔を出すのも楽しい。
 この米軍兵士が、復員してきたアサコの兄に「交際を許してください」と言い、この兄が了解を出した後で「ところで、アサコは14歳ですが」と言うのも、「逆手に取られた!」という感じがして可笑しかった。

 大阪万博に出品する宇宙食のエピソードを挟み(何故だか判らないけれど、このエピソードが一番印象に残らなかったのだ)、ここで一気に時代が飛ぶ。
 「売れない小説家」と暮らしていた関東大震災を体験した女が、女優となり、多分80歳を超えたくらいだろう、再びこの家で暮らし始める。
 これくらいの年齢だと明言してくれると、怪しく懐いている男の存在も何だか許せるというものである。
 ここでまた再び、隣家の管理人の女性が同じ和服で登場し、女優という魔女が「魔女だ!」と叫ぶのが可笑しい。この魔女合戦の勝者はどっちなんだろう。

 そして、女優達が出かけた後、舞台は薄暗くなったまま地響きが聞こえてくる。
 阪神大震災である。
 しかし、明治時代からずっとそこにあり続けたこの家は、この地震にも耐え抜いてその場にあり続ける。
 どこから逃げ込んできた女の子に、この女優はワインを与え、食べ物や飲み物を確保するように若い男に命じる。しかし、コンビニには凄い行列ができ、建物が崩れ、生き埋めになった人もいる。
 そして、隣家の女性が持ってきて台所に置いて行った黒豆を見て、彼女は大笑いをする。「魔女の黒豆に救われるなんて!」と。
 そして、食べ物があって安全な場所を探そうと少女を促す。
 どこまでも格好いいお婆ちゃんである。

 ここで幕なのかと思いきや(その方がはっきりいって感動巨編な感じがするではないか)、さらにもう1エピソード残っている。
 その明治時代の建築は行儀作法なのか、何かを教える会場となっている。
 質問コーナーが設定されていたけれど、どうもこれはアドリブ大会だったらしい。「独り言は止められますか」とか、「トーマの心臓という芝居に出たい」とか、芝居とは全く関係ないやりとりが繰り返される。
 感動巨編にはしたくなかったんだなぁ、と思う。

 そして、餡と栗きんとんを合わせて練って焼き色を付けた「ハンバーグ」が、日本で最初に作られた「洋菓子」であると説明され、見事なのか強引なのかよく判らないままこのお芝居は最初に戻って終わるのである。

 ところで、敢えて書かなかったこの芝居の配役だけれど、何年か後も自分は「ああ、この役をこの役者さんが演じていたな」と思い出せる自信が根拠なく湧いてくるのである。
 我ながら不思議だ。

 いずれにしても、やっぱり、よく練られた、ウエルメイドのお芝居って好きだなー、と思ったのだった。

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