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2010.01.23

「アンチクロックワイズ・ワンダーランド」を見る

阿佐ヶ谷スパイダース PRESENTS「アンチクロックワイズ・ワンダーランド」
作・演出 長塚圭史
出演 池田鉄洋/内田亜希子/加納幸和/小島聖
    伊達暁/中山祐一朗/馬渕英俚可/光石研
    村岡希美/山内圭哉
観劇日 2010年1月23日(日曜日)午後1時開演
劇場 本多劇場 H列1番
上演時間 2時間25分(10〜15分間の休憩あり)
料金 5000円(プレビュー料金)

 ロビーではパンフレット等も販売されていたのだけれど、開演時間ギリギリに駆け込み、アンケート記入に時間を取られ、ちゃんとチェックせずに帰って来てしまった。

 ネタバレありの感想は以下に。

 阿佐ヶ谷スパイダースの公式Webサイトはこちら。

 そういえばすっかり忘れていたけれど、今日はまだプレビュー公演だった。
 それでも、長塚圭史のイギリス留学後初の作・演出作品ということもあるのか、結婚後初の作・演出作品ということもあるのか、満席以上の状況だった。

 プレビュー公演と銘打った公演日に見に行ったことは何回かあると思うのだけれど、プレビューかどうかということが印象に残ったことはほとんどない。
 だから、開演前に「プレビュー公演なのでアンケートにご協力ください」とアナウンスがあったのが意外だった。
 本公演よりもチケット代がお安いのだからもっともだと思い、普段はあまり書かないアンケートをかなり熱心に書いた。

 これがまたかなり詳細なアンケートで、本公演でもこのアンケート項目を使うんだろうかと少し気になった。
 登場人物たちの印象を一人一人聞き、登場人物たちのうち謎の男女については「何歳だと思いますか」と聞かれる。
 装置、照明、音響、衣装についてもそれぞれ聞かれるし、客席内の温度、休憩の有無、チケット代についての項目もあった。

 アンケートに「一緒に作って行きましょう」という趣旨のメッセージが入っていたけれど、お芝居を見た感じでは、「ほぼ決定版」という風に見えた。
 本当のところ、プレビュー公演の完成度とか、本公演中でも変更が加わることお芝居もあるし、その辺りの考え方はよく判らないところがある。

 舞台は、光石研演じる葛河という男が新聞を読んでは捨て、取り出しては捨てるところから始まる。
 この新聞が、最初は強風に飛ばされたようにバサバサと舞台袖に飛び込むし、その後、葛河はどこから取り出したのか次々と同じ新聞を取りだしては投げ捨てる。
 この、後から取りだした新聞も最初と同じようにイリュージョン風に飛び去ったら凄いけど、なかなかそうも行かないのだろう。
 いずれにしても、無言の中、舞台上に役者さんは一人、なかなかトリッキーで印象的な始まりである。

 最初は、正直に言って、ずっと「どういうお芝居なんだろう」と思っていた。というか、「どういうお芝居なんだな」というのが自分自身にないと、安心して見られないような気がするのだ。
 そして、このお芝居は、恐らく意図的にそれをとても掴みにくくしていると思う。
 だから、村岡希美演じる葛河の妻が出てきて、どう見ても胎児にしか見えない人形を作り、そこになぜか葛河家の家政婦が出てきて「オーブンに入れて」などと言われ、その胎児にしか見えない何かが食卓に出されて葛河が怒り出す辺りまで、何となく落ち着かなかった。
 葛河は奥さんのことをかなりぞんざいにというか、わざと傷つけるように扱っているのだけれど、奥さんは奥さんで内田亜希子演じる家政婦に旦那を誘惑させようとしか思えない言動をしているし、「悪意」がキーワードなのかなと思ったりすると安心するのだから不思議である。

 実は、葛河が作家で、新聞の書評にボロクソに書かれて気が立っており、池田鉄洋演じる編集者の野口を呼び出して酒を浴びるように飲み、その場にいた小島聖演じる女に声をかけ・・・、という辺りの展開と、どうもその後に葛河が女を殺してしまった容疑で取り調べを受けているらしいシーンとが行ったり来たりしているときには、アンチクロックワイズというのは、クロニクルというのか、時間軸に沿って物語を展開することを拒否したという意味なのかと思い、ちょっと安心した気分になった。
 でも、見終わってみれば、狂っていたのは時間軸だけではなさそうである。

 内田亜希子の妻が人形作りにハマっているという辺りがミソで、そのうち、葛河の小説と現実が混ざり始めているパラレルワールド系かとも思われ出し、でも、葛河の小説の登場人物ではないかと思っていた伊達暁演じる謎の男と、馬渕英俚可演じる謎の女は、どうも葛河の妻が作ろうとしていた人形たちなんじゃないかとも思われ出す。
 何というのか、葛河が観念は振り回すけど想像は巡らせないタイプに見えてきて、奥さんの方が造形主なんじゃないかと思わせるのだ。
 結局、この男女がどこから「出てきた」のか、最後まで明かされることはない。

 葛河がバーで一緒に飲んだ満智子という女を殺したのか、階段からわざと突き落としたのか、という謎を中心に進んでいた筈が、中山祐一朗演じる阿部刑事とと山内圭哉演じる若山刑事のコンビがその取り調べをしている最中に「何か」が起きて、事件(事故)が本当にあったのかどうか、取調べ調書の文字すらどんどん薄れてきて、何が現実で何が虚構なのか、自分は今現実の世界にいるのか、どんどん輪郭や境界線が曖昧になってゆく。
 葛河が自分の小説を通して、葛河の妻が自分の製作した人形を通して、世界は自分のためにあるというのか、自分の世界をどんどん外に押しつけて行くだけでなく、阿部までもが「自分は**を知りたい」と自分の疑問を解くことは世界の義務だ、みたいな言い方でさらに世界を歪めていく。

 これでは、誰の主観の世界が「事実」なのか、判らないではないか。
 しかも、このお芝居は「今誰の視点で語られているのか」がどんどん入れ替わり立ち替わりして行くので、何が事実なのか、今は誰が考えている「現実」なのか、夢の話なのか、小説の話なのか、葛河が妻に語った小説未満の話なのか、どんどん判らなくなってくるのだ。
 謎の男女を作ったのは誰なのか、彼らの産みの親がどうも、この「ちょっとずれた世界」を想像した人物のようなのだけれど、それは最後まで明かされない。

 結局のところ、登場人物達の中で、一番「普通」の感覚を持っていたのは、若山刑事だったような気がする。
 だから、怪我をしたように見える「女」を「男」の反対にもかかわらず病院に連れて行き、そこでその最期に立ち会うことになったのではないだろうか。

 葛河が階段から突き飛ばして植物状態にしてしまった、のかも知れない満智子は、動けない筈なのに速記文字で「許さない」と書く。
 葛河はそれを見て、彼女を罵る。
 覚えていたくないと思ったせいかその台詞を思い出せないのだけれど、とにかく葛河は罵る。
 ここまでは、葛河が満智子に「夢の話」として語った話であり、野口が「どこかで聞いた」と首を捻る話である。

 それが、いつの間にか、満智子は目覚め、満智子が葛河を突き落として葛河が植物状態になっていることになっており、車椅子に乗った葛河の左右に、葛河の妻と満智子が寄り添っている。
 でも、その寄り添い方は、心なし、悪意に満ちているように見える。

 そして、ラストシーンの一歩手前、自殺した家政婦人形の存在はどこかに吹っ飛び、テーブルを挟んで妙に仲むつまじげにお茶を飲む葛河夫婦の姿がある。
 その姿は、のんびりと日だまりでお茶を飲んでいるように見えて、やはり、どこか歪んでいるように見える。
 葛河の妻が、葛河を完全にコントロール下においた、その満足感が彼女の表情をゆったりさせているんじゃないかと疑いたくなる。

 本当のラストは、同じテーブルから葛河の妻の姿が消え、葛河が一人、苦悩に沈んでいるように見える。
 一度、照明が消え、そして全出演者が半円を描くように並んで礼をしたことで、お芝居が終わったのだということが判る。

 謎は謎のまま放り出され、いわゆるカタルシスはない。ような気がする。
 でも、そこはかとない悪意とか、隠された悪意とか、世界を思い通りにしたいという欲とか、そういう普段はあまり意識しない、意識しないようにしているあれやこれやをすーっと差し出されたような、そんな感じのするお芝居だった。
 すーっと差し出されたのに、後味はザラザラしていて、ふっと思い出さないわけにはいかない、という感じがして、それこそ背筋に冷たい風が吹いている気がする。

 そういえば、アンケートにも書いたのだけれど、どうしてこのお芝居のタイトルは「アンチクロックワイズ・ワンダーランド」なのだろう。
 見終わって数時間たった今でも、まだよく判らないのだった。

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