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「TALK LIKE SINGING」Presented by TamaHome
作・演出 三谷幸喜
作曲・音楽監督 小西康陽
出演 香取慎吾/堀内敬子/新納慎也/川平慈英
観劇日 2010年2月26日(金曜日)午後7時30分開演
劇場 赤坂ACTシアター D列33番
上演時間 2時間10分
料金 10000円
このミュージカルのチケットは、一般発売で取ったのだったらしい。
すっかり忘れていて、会場に行ったら、客席をつぶしてオーケストラピットを作っていたため、D列が最前列だったのには驚いた。調べてみたら、電話がかかったのは一般発売開始から50分もたってからだったのに、やはり1人で見に行く人は少ないということなんだろう。
ロビーでパンフレット(2000円)が販売されていた。ニューヨーク公演の様子など気になりはしたのだけれど、2000円はやっぱり高いと思ってしまい、購入しなかった。
ネタバレありの感想は以下に。
2009年末に「おしゃべりなレストラン ~ア・ラ・カルト リニューアルオープン 準備中~」を見たときの日替わりゲストが川平慈英で、高泉淳子とこのミュージカルの話をしていたのを思い出す。
ニューヨークで日本語で上演して、自分は舞台上の日本語と客席とを繋ぐ役割も担っているのだという説明に、高泉淳子があっさりバッサリ「つまり、英語ができるから通訳として出演してるのね」というようなことを言い切ったのが可笑しかった。そしてまた、川平慈英も「まあ、そういうこともあるかも・・・」みたいに弱気なのがさらに可笑しかったものだ。
確かに、登場人物たちのうち、英語でしゃべったり歌ったりしている割合が一番高かったのは川平慈英で、彼が狂言回しとして話を進めて行く。
日本からやってきた精神医学者なのに、どうして名前が「ドクター・ダイソン」なのかは謎だけれど、そもそも、このミュージカルは、川平慈英演じるドクター・ダイソンが、香取慎吾演じる彼の患者であるターロウ(偽名)の治癒の様子を学会で発表するというスタイルなのだ。
狂言回しや「通訳」が必要なのは仕方がない、でも、それを「そのための」存在にはしたくない、という三谷幸喜の美学なんだろうと思う。
それに、実際問題として、確かにこのミュージカルを進行させ、状況を説明する役割を担っているのは川平慈英だけれど、同時に彼は日本ではちょっと珍しいエンターテナーでもあって、狂言回しをしつつ、「自分が主役」の空気を作り、歌い、踊り、玉乗りまでやってしまう。
流石だなー、と思うのである。
何だかんだ言って、この役は川平慈英だからこそ作られた役であって、川平慈英という役者がいなかったらこのミュージカルはこういうミュージカルにはならなかったのではなかろうか。
実は、香取慎吾も堀内敬子も新納慎也も全く英語でしゃべったり唱ったりしなかったわけではなくて、これは全編英語で上演しても行けたんじゃないかしらなどと思ったりした。
逆に、全編日本語にしても行けたんじゃないかしらとも思ったりもする。
でも、恐らく、ニューヨークと東京と両方で「ほぼ同じバージョンで」上演するということや、俳優さん達の負担や、字幕を出すことの面白さを使いたいということもあったんだろうなとも思う。堀内敬子演じるニモイ博士(彼女の名前には字幕で漢字が当てられていた)が、ダイソン博士から英語で指示を受けて、字幕を確認してからうなずく、などという演出があったりして可笑しかった。
同じように、ターロウが「歌うようにしゃべることしかできない」「しゃべろうとすると歌ってしまう」と設定されているのも、「どうして、しゃべっている人間がいきなりメロディに乗せて歌い始めるんだ、不自然じゃないか」というような、三谷幸喜のミュージカルに対する違和感を、どうやって「自然に」払拭するかという試みの表れの一つなんだろうと思う。
正直に言って、そこまで理屈っぽくしなくても、とか、そこまで設定で説明しなくても、とか、思わなくもない。
でも、その設定をここまで活かしてあれば(というか、その設定がなければこのストーリーは生まれない)、もう気にならなくなるというものだ。
香取慎吾という歌手が果たして歌が上手いのか(などと書いたら怒られそうだけれど)ということは今ひとつ判らない。(そういえば、演技が上手いのか、という疑問は浮かばなかったから、実は相当に上手いのだろう。)
声が若くて、好青年というイメージを声だけで演じられる。堀内敬子の歌とのハモりも綺麗だ。
「圧倒する」「歌い上げる」というタイプの歌い手ではないし、このミュージカルそのものがいわゆる「ミュージカルの歌い方」を拒否しているようなところがあるし、楽曲も素直にストレートに歌われることを求めていると思う。
それを考えると「合っている」というのが一番近い。
そして、この人は意外とシャイというか、見た目ほど(私の持った印象の方が変なのかもしれないけれど)開けっぴろげな人ではないんじゃないかしら、「客を乗せる」ということを実はこっそり苦手に思っている人なんじゃないかしらと思ったりもしたのだった。
その分、川平慈英はもちろんのこと、堀内敬子と新納慎也の「達者」な感じにもの凄く安心感を覚える。
川平慈英と香取慎吾がずっと一人の人物を演じ続けるのに対して、堀内敬子は「ニモイ博士」という中心となる人物がいるけれど、新納慎也は、ドクター・ダイソンの助手から、バスケ部の先輩から、ハンバーガーショップのちょっと女っぽい店長から、アフロヘアのミュージシャンまで、様々な役を演じ分ける。
実はこのお芝居を支えているのは彼なんじゃないかと思った。
見せるといえば、劇場の都合かわざとなのかよく判らなかったけれど、オーケストラピットが通常よりもかなり浅かったと思う。
その分、演奏する様子が見えるし、演奏者の姿もよく見える。舞台上に上がるシーンもあるからだと思うけれど、演奏者の衣装が何だか楽団っぽくて可愛らしいのも好きだった。舞台裏ではない、という感じがする。
出演者はほぼ4人というミュージカルだったせいか、「アイ・ガット・マーマン」を思い出した。
このミュージカルも、もっとギリギリに小さい劇場で、オーケストラピットなしで音楽も舞台上で演奏するような形で上演して欲しいななどと思ったのだった。
あえて言うと、見ているときの印象は、いかにも三谷幸喜という感じではなかった。
いわゆるシチュエーションコメディではなかったせいかも知れないし、舞台上の場所が次々と動いた(三谷幸喜のお芝居としてはこれはかなり珍しいことなのではなかろうか)せいかも知れない。
でも、やっぱり面白い舞台だったし、楽しいミュージカルだった。
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コメント
逆巻く風さま、コメントありがとうございます。
ははは、いいですよ、私の感想なんてしっかり読まなくて。
ムダに長いですし(笑)。
ところで、「そつなく仕上げた」というのはこのミュージカルを一言で過不足なく表しているかも知れません。
でも、ついつい、三谷幸喜作品となると「もっともっと!」と思ってしまうのです。
投稿: 姫林檎 | 2010.03.07 11:31
ミュージカルの感想はしっかり読んでしまします。他のは・・・(苦笑)
う~ん、観たかったなあ。川平さんのは観たことがないけれど巧そうだし、香取慎吾も月9ドラマ『バラのない花屋』で好きになった俳優ですし、三谷さんはそつなく仕上げるでしょうし・・・やっぱりミュージカル!
投稿: 逆巻く風 | 2010.03.06 11:01