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「富士見町アパートメント(Bプログラム)」自転車キンクリートSTORE
演出 鈴木裕美
<Aプログラム>
「魔女の夜」
作 蓬莱竜太
出演 山口紗弥加/明星真由美
「海へ」
作 赤堀雅秋
出演 井之上隆志/入江雅人/清水宏/遠藤留奈/久保酎吉
観劇日 2010年3月7日(土曜日)午後7時開演
劇場 座・高円寺 B列17番
上演時間 2時間30分(15分の休憩あり)
料金 8000円(A・Bプログラム通し券)
3月7日は、昼公演がBプログラム、夜公演がAプログラムだった。
正直に言って、Aプログラムを先に見た方が良かったなという気がした。
座・高円寺という劇場には初めて行った。
駅から5分という案内の割に遠くて(雨が降っていたからかも知れない)、道を間違えたのか不安になった頃(正直に言って間違うような複雑な道では全くない)、到着した。道路から少し引っ込んでいるので、目の前にたどり着かないと、そこに劇場があるとは判らないのだ。
見た目がいかにも「劇場」だったことにまず驚いた。
2階のカフェが上演時間のみではなく10時から23時(だったと思う)まで開店しており、劇場ロビーと階段でつながっている他、外階段からも出入りできるようになっている。
午後6時頃に行ったら、空いているテーブルが1つか2つという盛況ぶりだった。
雰囲気もなかなかよくてお勧めである。
ロビーでは、A・Bプログラム共通のパンフレット(1000円)が販売され、お芝居のチラシが並んだカウンターがあった。
雰囲気はなかなか良いと思う。
ネタバレありの感想は以下に。
「魔女の夜」
自分も女なのだけれど、女ってコワイと思わせるお芝居だった。
山口紗弥加演じるアイドル(を脱皮して女優して活躍しつつある)女性と、明星真由美演じるそのマネージャーの女性の2人が登場人物である。
この富士見町アパートメントの一室は、ガランとしていて、殺風景で、マネージャーの家らしい。
真夜中の2時過ぎにうたたねをしていたところへ、この場所を知らないはずの女優が突然やってくる。手首から血を流し、酔っ払っているらしい。
こうして文字にすると何だか異様なシチュエーションなのだけれど、見ているときは「何だかやけにパターンだなぁ」と思って見ていたような気がする。
最初は、この女優はリストカットをしたんじゃないかと思ったのだけれど、そういうことではないらしい。
そういえば、彼女が怪我をしていたのは手首の内側ではなくて外側だったような気もする。
マネージャーの女性も、「彼女が自殺しようとしたんじゃないか」という心配は一切していないように見える。「何かまたやらかしたんじゃないか」という心配が先に立っているようだ。
この2人、一体どうなっているんだろう、という疑問がこの辺りで浮かんで来る。
今は2時過ぎで、女優は明日の7時には現場に入らなくてはならないらしい。
それなら明日に備えて十分睡眠を取れ! という時間帯だし、こんなに酔っ払っている場合でもない。
それなのに、何やらエキセントリックな言動を繰り返し、お酒を探し出して更に飲もうとする。
そして、ついに、この近くで自動車事故を起こしてしまった。私はシートベルトをしていたからこのかすり傷で済んだけれど、同乗していたタカイマモルという歌手なのか俳優なのかとにかく同業の男の子は血だらけになってまだ車に残っている、と告白するのだ。
こんなところに一人で歩いてくる暇があったら救急車を呼べ! という感じだし、実際、常識人であるところのマネージャーはそうしようとするのだけれど、そこに女優が決定的な一言を放つ。
「運転していたのは私なの」
この辺りから、何だか2人の勝負のような様相になってくる。
どちらが優位に立つか、どちらが主導権を握るか、女優はマネージャーを煙に巻こうとするし、マネージャーは女優がどこまで本当のことを言っているか探ろうとする。
攻守ところを変えることが多すぎてめまぐるしい。
いずれにしても、この2人が決して心を許しあっているわけではないことは判る。
最初のうちは、当然のことながらマネージャーの方に同情していたのだけれど(こんな夜中に突然やってくる仕事相手)、だんだん、両方から距離を置きたくなってくる。
多分、それは、マネージャーが口癖のように女優に向かって「あなたは私」「あなたは私の全て」という台詞を言い続けてきたと聞いたときからのような気がする。
しかも、この2人は、マネージャーが女優を発掘し、2人だけで弱小の立場から出発し、苦労して苦労して途中から大きな事務所に移籍し、そこからはとんとん拍子で出世街道を上がり、成功し、というストーリーを持っているようだ。
そうなると、今度は女優の方に同情したくなってくる。そういう期待を一心に背負うというのは本当に苦しかったんだろうな、それでも彼女はマネージャーと2人で苦労していた頃のことを愛しているんだな、その時代の記憶だけが彼女にとって暖かい記憶なのかも知れない。そういう気がしてくる。
そう思っていたら、今度は女優が「運転していたのはあなたってことにして」と言い出して仰天する。
政治家と政治家秘書のようだ。
しかも、この台詞にマネージャーの女性が真剣に動転しているのを見て、今度は彼女が気の毒になってくる。その女優一筋に生きてきて、趣味もなく、恋人もなく、お酒も飲まず、欲しいものもなく、お金も使いようがないし使い道がないし、使いたいとも思えない。
そういう生活をずっと続けてきて、ある意味、彼女は女優のために犠牲になってきたとも言えるのに、その本人から「自分の身替わりとして自動車事故を起こしたことにして」と言われる。
言葉は「依頼」だけど、「私はあなたの全てなんでしょう」という台詞とセットで言われたら、これは、脅迫以外の何者でもない。
コワ過ぎる。
しかも、この女優が、女優らしく(というのがそもそも私の偏見かも知れないけれど)エキセントリックで、突然可愛らしくなったり、大きな声を上げたり、エキセントリックだったりするので、ますます不気味さが募る。
女優に「私と一緒に落ちるか、あなただけが落ちるか、どちらかを選んで」と言われたマネージャーは、これは女優のお芝居だという結論に達したらしい。
何でこんな風に試されなくてはならないんだと大笑いし始める。
そこに、壊れた自分の携帯を見せて「ダッシュボードに置いておいたら壊れちゃった」と言う。
それなら、さっき、マネージャーが外に出ている間に鳴っていた携帯電話は誰のものなんだろう。
そうやって、優位な方がめまぐるしく変わりに変わって双方が疲れ果てた頃、マネージャーが答える。「落ちるのはあなた。私じゃない。」
女優が付き合っていた、そして車に同乗していたタカイマモルとマネージャーも付き合っていたこと、先ほど鳴っていた電話はマネージャーが女優の台詞の真偽を恐らくは確認しようとしてタカイマモルに電話をかけたときのものだということが判る。
この辺りの順番はすでに私の記憶の仲で曖昧になっている。
この部屋も、実はマネージャーの部屋ではなく、タカイマモルが女性と会うために用意された部屋なのだと言うことがマネージャーから女優に告げられる。
マネージャーの彼女は、とっくに「女優が私の全て」という気持ちを持てなくなり、普通にマンションを買い、普通に買い物をする、普通の女性の生活に移行していたのだ。
そして、マネージャーの彼女をそうさせた女優の台詞が「この人、見栄っ張りだから」という一言だけだったというのが、実は一番怖かった。
女優の方は「そんなことを言ったなんて覚えていない」と抗議し、「そんな一言で私は嫌われなくちゃいけないの?」と怒っていたけれど、でも、私は本人は何気なくどころか覚えてもいないくらい適当に発言した一言がとんでもなく突き刺さるということはよく判る。
そのことを、一番極端な形で表しているように思えて、それが怖かった。
そして、2人はお互いにお互いが「地獄にいる」「何の意味もなく生きているのだし、このまま生き続けなくてはならない」ということを確認し合う。
結局、タカイマモルは自分で病院に行ったのだと女優はマネージャーに告げる。
やはり、彼女はマネージャーを試しに来ていたのだ。でも、その「試し」は「自分はどうして嫌われているのか」という何だか辛い確認だったのが何とも言えない。
そこへ、2つの携帯電話が一斉に鳴り出す。
この事故のことが然るべき場所に伝わったのだろう。
すっくと立ち上がり、「シンドウです」とマネージャーが電話に出たところでこのお芝居は幕である。
この後、女優は女優としてやっていけるのか、マネージャーはどうするのか。
私は、意外と、この日に初めてさらしあった内面の感情は一切なかったことにされ、淡々と女優とマネージャーとしての日々をこの先も重ねていくのではないかという気がした。
「海へ」
ぱっと見の印象は、1本目と対になっているのかと思うような設定のお芝居である。
「魔女の夜」が女2人のお芝居だったのに対して、こちらは、幕が開いた時点では(正確には、窓枠が上がった時点では)男3人がしかも喪服でいる。「魔女の夜」のお部屋が究極シンプルだったのに対して、こちらは見事なゴミため状態である。
さて、どんな話が始まるのか、という気持ちになる。
男3人の関係が今ひとつ判らないのだけれど、入江雅人演じる伊藤と清水宏が演じる金子とは、この部屋の主の友人だったようだ。
この部屋の主は、数日前に自殺している。
井之上隆志演じる岡田は、この部屋の主の一卵性双生児の兄なのだそうだ。何十年も会っていなかった兄弟が自殺し、他に身内もおらず、仕方なく兄の部屋を片付けに来た、そういう雰囲気がぷんぷんと漂っている。
兄の友人2人のことも疎ましく思っているのだけれど、何かを探すのだという2人を断れなかったらしい。
そういう感じで、最初は謎だらけで始まる。
また、この金子という男が「魔女の夜」の女優とは別の意味でエキセントリックな人物のようで(そういえば、後の方になって金子も俳優として活動しているらしいことが判明する)、自殺して亡くなった友人の部屋に「何かを探したい」と押しかけてきて、携帯電話を頭に乗せて落とさずにこたつの周りを何周もしようという、訳の判らない「チャレンジ」をしている。
岡田は何度も「お帰りください」と言うのだけれど、もう23時近いというのに、2人は特にその探しているという「何か」を探す様子もなく部屋に居続ける。
そうこうしているうちに、久保酎吉演じる同じアパートの住人らしい老人が突然現れる。
いきなり戦争の話を始める。
一卵性双生児である岡田を、亡くなった兄と勘違いしているからなかなか話がかみ合わない。途中で気がついた伊藤が何度か割って入って事情説明をしようとするのだけれど、なかなか割り込むタイミングがつかめない。
夜中の2時過ぎの場面では、何故か缶蹴りが行われている。
岡田が鬼をやっているのだけれど、こたつから足だけ出して缶を蹴ろうとした金子に対して何故だか怒り始める。
伊藤と金子は喪服を着ていて足だけ見たのでは区別が付かない。それなのに顔を見せずに缶を蹴ろうとするのはフェアではない、というのだ。
理屈だけれど、45歳の男の台詞ではなかろう。
ついでに書くと、何故、亡くなった兄の部屋の片付けに来て夜中に缶蹴りをしているのか、訳が判らない。
そもそも、(いつ頃判明したのか忘れてしまったけれど)金子は、大晦日の夜に岡田の兄に貸した10万円を探しに来たのではなかったか。
探している様子はカケラもない。
それなのに、どうして帰ろうとしないのか。
岡田に嫌がらせをして喜んでいるように見えるのは何故なのか。
その後、兄のため込んだいわゆるアダルトビデオを流そうとする金子と、それを阻止しようという岡田が争ったり(そして、その争いの結果、その音声を延々聞かされる羽目になったのには辟易した。正直に言って、不快感に近いものを感じたし、舞台に上がっていってテレビの電源を切ってやろうかと思ってしまった)、何故だか60分(90分だったかも)1万5000円也を支払って遠藤留奈演じる「イマドキ」の女の子を呼んでみたり、3人のやることはどんどんおかしくなってくる。
金子は最初からエキセントリックを志向しているような、岡田に嫌がらせしてやろうというような意欲を感じていたのだけれど、普通そうにしている伊藤も何だか「一番まともそうに見えているコイツが一番おかしいんだぞ」という雰囲気になってくるし、岡田は「エマニュエル夫人」の素晴らしさを語り始めるし、何だか舞台がどんどん斜めになってくるように感じる。
アパートの老人が「味噌汁の味が決まらない」と乗り込んできて、しかも何故だか包丁を握りしめている。最初は料理の途中だったからなのかと思ったけれど、考えてみれば、味噌汁の味が決まらないと嘆いているのだから味噌汁には味噌をすでに投入している筈だし、だったら包丁を使う場面は終わってしまっている筈である。
岡田の兄は、どうも褒められた人物ではないようなのだけれど、でも、この老人にとっては、猫にかにかまをやる岡田兄とのやりとりが生き甲斐に近くなっていたんじゃないかと感じられる。
そして、こたつのテーブル部分の下から、ついに、10万円が発見される。
そこには、弟に宛てた「普通の」文面の年賀状と、ポチ袋に入った10万円が隠されていたのだ。
岡田は「どうぞそれを持って帰ってください」と金子に言う。
それを聞いた金子は怒り出す。岡田の兄が、10万円のお年玉などという見栄を張らなくては会えなかった相手なんて、弟のおまえしかいないだろうと怒鳴る。
このお芝居で、初めて、金子がいい人に見えた瞬間だった。
いや、味噌汁の味が決まらないときに、味噌を足すのではなくしょうゆをたらすといいと言った伊藤に対して、お礼に腕立て伏せをしてみせると老人が言い、伊藤はそんな礼はいらないと突き放そうとしたのだけれど、「だったら20回!」と要求し、10回を超えて相当に辛くなってきた老人に寄り添うようにして一緒に数を数え、「もういいですよ」と言う伊藤の声をかき消すように応援していたときの金子も、そういえばいい人に見えたのだった。
何故かその場で、伊藤は「生涯に1回だけ」という浮気の話を始める。
隣の部屋に籠もってしまった岡田はの唸るような泣き声が響く。
これまで、少なくとも兄に関しては恬淡として悲しい様子は全く見せなかった岡田が、初めて、号泣している。
それを聞いた伊藤と金子は、「それじゃあ、帰るか」と立ち上がる。
そういえば、どこかで3人が松田聖子の「赤いスィートピー」をフルコーラス歌うシーンがあったのだけれどどこだったろう。
岡田兄のテーマソングだったのかしらなどと考えてしまい(岩井俊二監督の映画に引きずられた感想なのかも知れない)、あるいは、45歳という年齢の男達のテーマソングと言えば松田聖子なのかも知れないと思い、何だか妙にしんみりとしてしまったのだった。
金子は、10万円には手も触れずに帰って行く。
携帯に仕事の連絡が入ったときの様子からみて、金子は「売れない役者」のようである。伊藤に向かって「俺にとっての10万円がどういう金か判っているのか」と詰め寄ったシーンもあったから、生活が楽なわけではあるまい。
その金子が一人で戻って来たときにはちょっとドキドキしてしまったけれど、金子は一直線に、岡田兄が「借金の代わりに持って行ってください」と冗談半分に重ねがアダルトビデオだけを抱え込んで出て行った。
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