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「ミス・ダンデライオン」演劇集団キャラメルボックス
原作 梶尾真治「クロノス・ジョウンターの伝説∞インフィニティ」
脚本・演出 成井豊
出演 岡田達也/岡田さつき/西川浩幸/前田綾
筒井俊作/石原善暢/阿部丈二/小林千恵/稲野杏那
観劇日 2010年4月3日(土曜日)午後6時開演
劇場 サンシャイン劇場 1階12列19番
上演時間 1時間5分
料金 「南十字星駅で」との2作品券 8000円
相変わらずロビーでは物販コーナーが大充実で、公式ハンドブック(1500円、だったかも知れない)や、原作本、過去公演のDVDなどが販売されていた。
中でも一番大きく宣伝されていたのは「野方耕市のボールペン 500円」だった。
ガチャガチャもあって、ちょっと興味があったけど挑戦しなかった。
加藤プロデューサーの開演前の前説が結構好きだったのだけれど、今回は(最近はいつもなのかも)なく、劇団員2人がギターデュオを組んで「観劇マナー」についての歌を歌っていた。
ネタバレありの感想は以下に。
理由は忘れたけれど、初演はチケットを取ったのに見そびれてしまったような気がする。
「クロノス」は見ているし、「きみがいた時間 ぼくのいく時間」も見ているので、クロノス・ジョウンターが出てくるシリーズとしては「あした あなた あいたい」だけ見そびれているということになる。
個人的理由ながら、ぜひ再演してもらいたい。
「ミス・ダンデライオン」は、短編集に入っている「鈴谷樹里の軌跡」という小説が元になっていて、小説の方はかなり前だけれど読んだ記憶がある。
だから、このお芝居も結末を知っていて見ることになった。
幕が開いてすぐダンスシーンが入る。
これを「懐かしい」と思ってしまう私は古いのか。でも、本当に懐かしいと思ったのだ。ミュージカルでないストレートプレイで、開演後すぐ(劇中でもいいのだけれど)にダンスが入るお芝居を観たのは久しぶりな気がする。
懐かしいなぁ、と思ったのは本当なのだけれど、同時に、マンネリになっていやしないかと思ったのも本当である。「そういうもの」として入れているんじゃないかという印象も受けてしまった。
でも、これは本当に勝手な観客の感想で、物語が始まってスクリーンが降りて来て、岡田さつき演じる鈴谷樹里が読んだ「たんぽぽ娘」という小説の一節を映し出したときには、「キャラメルボックスよ、おまえもか」と思っているのだから、我ながら本当に勝手である。
劇中でというか、舞台上で映像を使うというのは、最近(といってもここ数年は続いていると思う)の流行りのように感じているのだけれど、キャラメルボックスでも、字幕を出すような感じで映像を使うようになったのか、と思ったのだった。
しばらくぶりに見ると、本当に勝手な感想が浮かぶものである。
キャラメルボックスのお芝居には必ずと言っていいほど「語り手」がいるのだけれど、この「ミス・ダンデライオン」では、岡田さつきが主演であると同時に語り手も務めていた。
これは割と珍しいのではないかという気がする。
上演時間が1時間の「ハーフタイムシアター」なので、お話はサクサクと進んで行く。
はっきり言って、そこに余韻はない。
詰め込むべき要素を詰め込むと、時間の余裕はカケラも残っていないのだ。なけなしの余裕は、ギャグというのか、キャラクタ芝居というのか、「笑い」の方に使われている。
前田綾演じる吉澤医師の妻は、中でも秀逸である。
鈴谷医師と、クロノス・ジョウンターを会わせることになる野方耕市とが初めて会う見合いの場、という物語的に重要なシーンなのだけれど、その意味を吹っ飛ばして彼女がその場の主役になり切っていた。
鈴谷医師は、子供の頃に入院していた病院で出会って亡くなってしまった「ひい兄ちゃん」をきっかけに医師になることを選び、30歳になった今でも「ひい兄ちゃん」のことが大好きで、その「ひい兄ちゃん」を助けるためにクロノス・ジョウンターに乗り込む。
究極の純愛物語である。
こういう純愛物語はどちらかというと男性が主人公のことが多いように思うのだけれど、そこを捻って女性医師を主人公にしたところがポイントなんだろう。
鈴谷医師に「ひい兄ちゃん」が罹っていた病気の特効薬ができたことを知らせ、サンプルをくれたのは筒井俊作演じる古谷というMRだった。
だから、彼女は19年前に飛んだ先で、19歳若い古谷に会ったときに、当時も病院にいた吉澤医師にアクセスする秘策を授ける。彼にこの病院に食い込んでもらわなければ、彼女が将来、新薬情報を得ることもないからだ。
同時に、面会謝絶となった「ひい兄ちゃん」が11歳の自分に会おうとするのを止める。ひい兄ちゃんが助かったことを知ったら自分は医師になりたいとは思わなくなる。そうなれば彼を救うこともできなくなるのだ。
見ているときはあっさりと納得していたし、今でもどこがどうと具体的に指摘できるわけではないのだけれど、何だかこのタイムパラドックスの理解は正しいのかしら? という感じがしなくもない。
30歳の鈴谷樹里が19年前に飛んで出会った、岡田達也演じるひい兄ちゃんは何歳という設定だったのだろう。
よく判らないけれど、20代であることは確からしい。
彼があっさりと鈴谷樹里の言うことを聞いて治療法を変えることを了承したり、会ってから20時間くらいしかたっていないのに「あなたが好きだ」と告白したり、何だか展開が早すぎるのはハーフタイムシアターの宿命なのか。
それにしても、テンポがよい、というよりは、余韻がない、と感じてしまう。
しばらく見ないうちに若手の役者さんが増えたなという印象も受けたのだけれど、それでも、(推定)20代と30歳の主役2人を、40歳近い(なっているのかな)岡田達也と岡田さつきのコンビで演じるのは、少し辛いものがある。
これがいっそ子供の役とか、老人と言っていい年代の役を演じるのなら、あまり役者の年齢は関係ないような気がするのだけれど、「実年齢より10歳若い」役を演じるのはなかなか難しいんだなという感じがした。
特にこのお芝居の場合、鈴谷医師が何回も「30歳だ」と台詞で強調するのでなおさらである。
この年齢差には意味があって、ひい兄ちゃんに特効薬を注射し終わった鈴谷医師がクロノス・ジョウンターの反作用で何十年後かに飛び、実は「未来のもの」である特効薬を注射されたひい兄ちゃんにもその反作用が及んで何十年か後に飛ぶ。
薬のオマケで未来に飛ばされたひい兄ちゃんより、未来から来た鈴谷医師はより強く反作用の影響を受けていて、ひい兄ちゃんの7年後に現れる。
多分、(説明はなかったけれど)ここで2人の年齢差はもう一度逆転するのだ。
そう考えると、原作者なのかキャラメルボックスなのか判らないけれど、彼らの恋愛観は、この年齢差の逆転をハッピーエンドの条件(あるいはそれを補強する材料)と思っているということになるのか。
クロノス・ジョウンターのシリーズとしては珍しく、この「ミス・ダンデライオン」はハッピーエンドで終わる。
その分、シリーズの他の作品から圧倒的に漂ってくる「切なさ」という要素は、ほとんど感じられない。
私がこのお芝居を観ているときにずっと感じていた「何だかキャラメルボックスらしくない」という違和感は、この「切なさ」を敢えてそぎ落としているところから来ていたのかも知れない。
それでも、あっという間の1時間5分、結末を知っていたけれど、でも楽しんで見た。
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