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「THE LEFT STUFF」Piper
作・演出 後藤ひろひと
出演 Piper(川下大洋/後藤ひろひと/山内圭哉/竹下宏太郎/腹筋善之介)
相武紗季/岡田義徳/川田広樹(ガレッジセール)
観劇日 2010年4月11日(日曜日)午後3時
劇場 本多劇場 H列1番
上演時間 2時間25分
料金 6800円
いきなりチケットもぎ(というのも古い言葉だけれど)の人が白衣を着ていたのに驚いた。
ロビー内のスタッフも皆白衣を着ている。
何故か200mlくらいのお水のペットボトル(それで200円は高いと思う)の他、Tシャツやトートバッグなどのグッズが販売されていた。
パンフレットは迷ったのだけれど、ポスター500円は判りやすく表示されていたのに、パンフレットの値段が見あたらなかったので「じゃあ、いいか」と思って買うのを止めてしまった。
お芝居を見終わった後、帰りに、「3日後に新発売!」というXYLISHのMINTZというガムを全員にプレゼントしてくれた。
早速食べたけれど、ミントが効いていてなかなか美味しかった。
もの凄くネタバレありの、これから見る人は絶対に読まないでください、という感じの感想は以下に。
劇場内に入ると、白衣のスタッフが「実験への参加に同意される方は(舞台上の)パネルに名前を書いてください」とアナウンスし、続々と名前を書きに舞台上に行く人がいる。行列ができている。
絶対に何か仕掛けがあるに違いないと同意するのがコワかったのと、端の席から再び出ていくのが面倒だったので、サインはしないことにした。
開演も後藤ひろひと演じる「責任者」がインカムをつけて登場するところから始まる。
これから、海底調査員を選ぶためのテストを始めます、7人の候補者がいます、7人の候補者はこれから7日間、この「海の家(この気の抜けたネーミングがまた上手い)」で暮らさねばならず、その様子はこちら側から観察(監視かも)することができます、と言う。
これまた、昨日の写楽と同じで、割とよく見るパターンで(でも、お芝居でやるというのは珍しいかもしれない)、そこからどう捻るかというのがポイントなんだろう。
このお芝居の場合は、「観客参加型」と銘打っているだけのことはあって、「どういうストーリーをたどるか、どういう結末になるのか、それはお客さんに決めてもらいます」というところに現れる。
2日目の朝食で、一人だけ「コーヒー牛乳」をあげることにします、それは誰にしますか、という質問が投げられる。
これはどうやって決めたのだったか。拍手で決めたような気がする。
今日の場合は川下大洋演じるGさんが選ばれた。
てっきり瓶の牛乳が出てきて、一目で牛乳かコーヒー牛乳かを見分けられるのだと思ったのだけれど、よくよく考えればそれは面倒くさい。
みな「おいしい牛乳」というパックの牛乳で(ということは、会話の中で出てきたから判る)、Gさんの「おいしい牛乳」だけはコーヒー牛乳が入っていた、ということになっていた。
可笑しい。
Gさんは、2〜3人の牛乳を奪い取って飲んでみて、それが普通の牛乳であることを確認し、自分だけコーヒー牛乳であることは内緒にする、という行動を選んでいた。
さて、他の6人が選ばれていたとすると、どういう展開になっていたのだろう。
この「コーヒー牛乳」にもあるように、この「海の家」では、色々な不公平が用意されていて、モメごとを起こしてはそれを観察する、ということにしてあるようだ。
「エイさん」と呼ばれたいと言う竹下宏太郎演じる男のゼッケンがCになっていたり、川田広樹演じるイーサンという名前を持つ男のゼッケンがDになっていたり、「おじいさんじゃない!」と叫んだGさんに「G」というゼッケンが当てられたり。
それを言い当てる男を、腹筋善之介演じる自衛官を自称するEさんに振っているところが珍しいパターンかもしれない。
1日の始まりには「Day 2」という感じでアナウンスが入り、「実験」の進行は「研究員」が現れ、「海の家」とこちら側とを仕切るマジックミラー付きの壁を上下させることで、今どちら側を見ているのかということを表現する。
イベントと割り切れば楽しいのだけれど、時々、これってお芝居だったよね、とちょっと思ったりしてしまったのも事実だ。
私は、「観客参加型のお芝居」というものに全く慣れていないのである。
その後も、もちろん研究員が仕掛けなくても中で勝手に争ったり、秘密が暴露されたり、「海の家」の中が落ち着くことはない。
岡田義徳演じるAはどうもアル中みたいだし、山内圭哉演じるFは何故かナイフを持っている。
常に何かが起こったり、起こりそうになったり、お手洗いに籠もってしまったEさんをおびき出すために「あまのいわと」作戦と称して、即興で(なのか、アドリブに見せた仕込みなのか、よく判らなかった)Eさんの歌を作って歌って踊ってみせたりする。
やっぱり時々役者さん達の素が見えたような気がしたから、かなりアドリブの部分があるのかも知れない。
しかし、その役になりつつアドリブでその場を切り抜けるというのは相当に高度なことなのではなかろうか。
結構、相武紗季が「ちょっとイヤな女」のままで乗り切っているのを見て、意地悪なことながら、「意地悪が素なんじゃないの?」とちょっと思ったりしてしまったのだった。
確か、次の選択肢は、疲れて眠ってしまった彼らに対して催眠ガスを撒き、誰か一人だけを残してみましょう、ということだった。
この辺りから、「海底基地ではもっと大きな不安を戦わなければなりません」という「研究員」の説明が白々しく思えてくるのだけれど、それはまあいい。
「7人に対する拍手の大きさを聞き分けるという技をお見せします」と言いつつ、BとEとFとで決戦拍手を行うことになり、最終的にEが選ばれたのに対して、研究員がそれこそ素で「Eさんでいいんですか?」と言っているのがなんだかおかしかった。
同時に、今日ってマニアックな客が集まっているのかしら、という感じもしておかしい。
腹筋善之介を一人で残せば、絶対にパワーマイムが始まるだろうと思った人が多かったに違いないのだ。
もっとも、ここではパワーマイムは行われず、客席から「Eさんと話したい人!」と募って真っ先に手を挙げた女性を舞台上に上げ、「とにかくどうでもいい会話を仕掛けてください。相手の質問に答える必要はありません」と言って、後は全部その女性に任せていた。
太っ腹!
しかし、演劇の観客というのはこういうことには強い。その女性は全く動じることなくマイクを持ち、「今日はいい天気ですね」とか「今日のお昼はハンバーガーを食べました」とか、Eさんである腹筋善之介の質問は一切無視して日常的なことをずっとしゃべり続けていた。
後藤ひろひとが後ろを向いて笑いをこらえている様子だったのもおかしい。
これは、岡田義徳か相武紗季が指名されることを装丁しているのかな、実際にそうなるのかな(このお芝居はまだ初日が開けてから間もない)、でも、それだとバリエーションに乏しくなってせっかくの「枝分かれ」の面白さがなくなってしまうんじゃないかな、という気もした。
ここは、Piperのメンバーを指名して、それぞれのワザを見せてもらう、というのが楽しい行き方なのではなかろうか。
それでも、「Eさんでいいんですか?」という先刻セリフが聞いたのか、次の「観客が楽しめる余興を行ってください」という要求に対して、3チームに分かれて行われているリハーサルのうち1つをお見せしましょうという選択肢では、AとBとEという3人の組が選ばれることになった。
ちなみに、このときは見たいと思う組み合わせのときに起立してください、というオーダーだった。
確か、この前に挙手で選んでくださいという選択肢もあったと思うのだけれど、それが何だったのか、どうも思い出せない。
ところで、この「余興をしろ」というオーダーの辺りから、彼ら(最初に気づいて指摘するのがEであるというところがやっぱりポイントだと思う)は、自分たちは決して海底基地のスタッフを選ぶための試験に参加している訳ではないのではないかと気づく。
Eから語り始めたところによると、ここに集められた7人は、「みんな誰かに追われている」「何かから逃げようとしている」という共通点があることが判明するのだ。
他の6人は皆「犯罪」かあるいはそれに近いところから逃げているのに対して、Fさんだけが「母親に押しつけられそうになっている見合い相手から逃げている」というのが、まあ、ご愛敬である。
それはともかく、この余興で観客を楽しませることができたら、1人1つずつ欲しいものをあげましょう、とも言われて、7人は「余興」に本格的に取り組み出す。
でもって、その「余興」のリハーサルとして、AとBとEの3人が何を見せてくれたのかといえば、Eである腹筋善之介が、他の2人に対して、「脳みそでターザン」という「パワーマイムの基本中の基本」であるらしい「技」を伝授する、というシーンだった。
前にテレビで相武紗季を見たときに、志村けんから何かのギャグを教えてもらい、結構楽しそうにそれをやっているのを見て「コイツはやる!」と思っていたのだけれど、彼女はパワーマイムも結構楽しそうにこなしていた。
もっとも、このパワーマイムの練習は、実はパフォーマンス集団のリーダーであるというCが出てきて「それは、明日の余興の役には立たないから」と止めて終わる。
その唐突さ加減もいい。
そういえば、Eをトイレから呼び出そうという歌を作るときには、山内圭哉が「僕は歌を作るのが得意なんだ」と音頭を取っていたし、微妙に役者さんの素を使っているのも楽しい。
そういうわけで、披露された「余興」は、ダンスあり、打楽器の演奏あり、パワーマイムありの、なかなか楽しい時間だった。でも、楽しかったけど、ちょっと長かった、ような気がする。
そして、余興に対する観客席の大拍手により、彼ら7人は「欲しいモノ」を手に入れる。
携帯電話が3台、心臓の薬、パソコン、ガムテープ、あと1つは何だったろう。
「誰か一人、残る人は誰でしょう」と「研究員」が客席から何人かを指名して答えさせる、「Bさんが残ると思う」「何故ですか」「好きだから」「いいでしょう。好き嫌いというのも立派な答えです」というやりとりが可笑しい。
そして、そんなやりとりをしている間に、7人は携帯とパソコンでこの「海の家」のコントロールを乗っ取り、薬からニトロを取り出して何やら細工して爆弾を作り上げ、「どうしてこの7人が集められたのか」と研究員に詰め寄るのだ。
この研究員、あっさりと「それには答えられません」と言う。
どんな実験をしていたのか、本当は試験などではないんじゃないか、と言いつのる。
この辺りが実は私には判っていなくて、「こんな試験をしてもいいのかということを試験していた」と研究員が言ったような気もするし、「何かあったら7人ごと燃やしてしまってもいいと言われているのだ」とも言っていた。
それで、結局、ここではこの7人を閉じ込めて一体何を行っていたのだろう。
その「落ち」がちゃんとカタルシスのある形で収束しなかったのが不満である。私は大団円が大好きなのだ。
ラストシーン、7人がドアを爆破して外に出るのを許すか、7人を何かで燃やしてしまうか、その結論は客席でスポットを浴びた人と研究員とのジャンケンで決められることになる。
おいおい。
そして、「私はジャンケンは相当に強いです」とキッパリと大見得を切った研究員が、あっさりと負けるところが可笑しい。
これで勝っていたらシャレにも何もならないのだから見事である。
いや、勝っていたら勝っていたときのリアクションがちゃんと用意されていると思うべきなんだろう。
そして、研究員はジャンケンに負け、「それなら彼らにドアを爆破させましょう。しかし、彼らはきっと開演前に署名してもらったボードを元に皆さんのところにきっと復讐しに行きます」と捨て台詞を残し、さらに「私は責任者としか書いていませんから大丈夫です」と得意げに去って行く。
ドアの爆破音が響き、7人は、復讐を誓いながら次々と開いたドアから出て行く。
暗転である。
この後、絶対に「落ち」があると信じて待っていたのに、派手な照明で始まったのは出演者全員による歌と踊りだった。
「天才脚本家」のときのようなオチを期待していた私には、かなり肩すかしだった。
全ての謎は収束させてくれ、そもそも「ニュー エナジー オブザベーション」なんていう研究施設名とか、新しいエネルギーを研究しているとか、いかにも大仰に始めたのに全く何のオチも付けられていないではないか。
終わったときには、そうやって心の中で「こらー!」と叫んでいたのだけれど、2時間25分(恐らくはアドリブ等々の関係で上演時間はかなり前後するのだと思われる。ロビーに張ってあった紙には上演時間2時間5分と書かれていたように記憶している。)、大技小技の連発にかなり大笑いしてすかっとしたのは確かである。
いくつかの選択肢によって、全く同じ芝居を見る確率はとても低いだろう。
昨日と今日と連続して見ている人がいたのだけれど、舞台上から「昨日と結末が違うでしょう?」と川下大洋が話しかけていたし、ロビーで予約販売していたDVDについても「きっと今日とは違うものが見られる筈です」とも言っていた。
確かに、他のパターンだとどうなるのか、気になる。
いずれにしても、どのパターンを選んだとしても、大笑いできることは確かである。
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