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20th Anniversary Special「LOVE LETTERS ラヴ・レターズ」
作 A.R.ガーニー
訳・演出 青井陽治
出演 松尾スズキ/大竹しのぶ
観劇日 2010年6月21日(月曜日)午後7時開演
劇場 パルコ劇場 N列29番
上演時間 1時間50分(15分の休憩あり)
料金 5000円
20周年ということで、ロビーでは記念パンフレットが販売されていたらしいのだけれど、中味や値段はチェックしそびれてしまった。
ロビーの壁面には、これまで出演したカップルの写真が飾られていた。
なかなか楽しい企画だと思う。
男優の衣装にスーツが多いのは必然だとして、女優の衣装に白が多かったのが意外でもあり、納得できるなという風にも思えた。
ネタバレありの感想は以下に。
松尾スズキは黒のスーツ、大竹しのぶは白いワンピースでスカートの裾は前は短めで膝丈くらい、後ろの方に向けて長くなっている。
2人とも(推定)50代なんだよなー、と思う。そうは見えない。
朗読が始まると、松尾スズキが、猫背をキープし、でも全体として意外なくらい端正な少年になっている。
手紙の書き手であるアンディは元々が生真面目な少年という設定だとは思うけれど、それを奇をてらわずにここまで端正に表現するとは思わなかった。意外である。
時々、噛んで言い直したりしていたけれど、そのかなり前の方から言い直すところがまじめさを表しているようにすら感じられる。
メリッサを演じる大竹しのぶは、彼女が若い女性を演じるとき特有の高めの声で舌足らずにスタートした。
この、感情の起伏の激しい、心の赴くままに生きようとしているらしいメリッサは、ある意味、大竹しのぶのハマリ役なのではないだろうか。そう思うためか、かなり抑えめに入ったように感じられる。
もっとも、そのうち化けの皮が剥がれてきて(褒めています。念のため。)、ドスの効いた声も披露するのだけれど、最初はちょっとわがままなお嬢様でスタートである。
そして、2人ともスタートはまっすぐ前を向き、姿勢良く腰掛けている。
それが、朗読が進むに従って、2人の姿勢もどんどん崩れてくる。脚を投げ出してみたり、完全にそっぽを向いてしまったり、間にコーヒーテーブルをおいて隣合って座っているのに、完全に背中を向け合ったりしている。
そんなに大きく動きをつけているわけではないけれど、これまで見た上杉祥三と長野里美、佐々木蔵之介と中嶋朋子のカップルより、体を使っている感じがするし、笑いが多いようにも感じられる。
15分間の休憩を経て、後半である。
大竹しのぶの衣装はそのままで、髪の感じが少し変わったようにも思ったのは気のせいだったかも知れない。
松尾スズキが「いかにもサラリーマン」な感じの普通のスーツに着替えていたように思うのだけれど、これまた確信がない。休憩前の方が、何というか「洒落っ気のある」スーツだったような、中に着ているシャツが黒っぽかったような気がするのだけれど、どうだったろう。
僅か15分前のことを覚えていない自分が哀しい。
後半が始まって、2人とも意外なくらい声を変えて来なかった。
ずっと座ったままの舞台で、50年近くにわたってやりとりした手紙を読むという形の舞台なのだから、年齢の変化を表すには衣装と声を帰るのが手っとり早いと思うのだけれど、2人とも「後になって考えると、多少、低音にしたかも知れない」というくらいの変化しか声には頼っていなかったと思う。
そして、後半に入って、どうしてこのカップルの朗読に笑いが起こるのかやっと判ったような気がした。
大竹しのぶがメリッサの書いた手紙を読んでいるとき、松尾スズキはそれを読んでいる「アンディ」がしたであろうリアクション(頭を抱えたり、知らない振りをしてみたり、首を振ってみたり)をしていて、それがいかにも「奔放な女性に翻弄されている真面目一辺倒の男」っぽくて笑えるのだ。
一方の大竹しのぶは、松尾スズキが読む「アンディ」の手紙を聞きながら、というか、聞いているかどうかも今一つ定かではない。放心状態のように見えたり、「聞きたくない」と全身で叫んでいるかのようなリアクションをしている。彼女からはどちらかというと、笑いよりも切なさが発散されていたように思う。
もちろん、2人とも「自分が演じている人物」が書いた手紙を読んでいるときにも姿勢を変えたり、声を変えたり、コーヒーテーブルに置かれた水を飲んで間を開けたり、色々としている。
でも、印象としてはむしろ手紙を読んでいないときの2人の方が存在感があったように思う。
幼なじみで、ティーンの頃から恋人同士だったアンディとメリッサは、アンディが日本駐在時に日本女性と恋愛をして結婚寸前まで行ったことからメリッサが切れ、結局、メリッサが先にアンディではない男性と結婚することになる。
一方のアンディは結局一人で米国に戻ってきてそれから結婚し、3人の子供に恵まれ、上院議員にまでなる。
「君の名は」に近いようなすれ違いもののメロドラマだ。
お互いが自分の結婚式に相手を招待し、お互いが招待された結婚式に欠席するのだから、どうして上手く行かないのかと思ってしまう。
少なくとも、「手紙」ではなく「メール」のやりとりになってしまうだろう昨今では成立しにくい(し得ないとまではまだ言いたくない気もする)お話なのである。
不倫関係の末に、上院議員選挙が迫っており、またスキャンダルとなったことを恐れたアンディがメリッサに別れを告げ、そのことが契機となって、元々が精神的に不安定な傾向のあったメリッサは入院することになる。
そして、「会いに行く」というアンディに斬りつけるような断りの手紙を書いたメリッサは、自殺してしまう。
最後は、メリッサの死を悼む手紙をメリッサの母に宛てて書いたアンディの手紙の朗読で終わる。
ここだけは、この「ラブ・レターズ」という舞台で唯一、判りやすい演出がされていて、照明はどんどん暗くなり、2人を照らす四角形の照明だけが最後まで残り、そして、手紙を読むアンディに対して、もう返事を書くことのできないメリッサがどこかから答えるのだ。
よくよく考えると、全くハッピーエンドではないし、気持ちのよいエンディングではないのだけれど、何故かこの2人を羨ましく感じている自分が我ながら謎である。
奔放なメリッサとシャイなアンディ。
実は、大竹しのぶのメリッサ以上に、松尾スズキのアンディは適役なのかも知れない。
この2人の「ラブ・レターズ」を見られてよかったと思う。
テンポ良く進み、「2時間、カップルによって前後する」とアナウンスのあったこの舞台は、この2人は1時間50分で幕となったのだった。
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コメント
123さま、コメントありがとうございます。
そして、お二方の年齢を教えていただいてありがとうございます。
松尾スズキさんは40代後半だったんですね。大変失礼をいたしました。
50代に見えなくても不思議はありませんでしたね・・・。
ここの部分は、見ていたときの私は松尾スズキさんを50代だと思っていた、ということでこのままにしておこうと思います。
お許しくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2010.06.22 20:51
> 2人とも(推定)50代なんだよなー、と思う。そうは見えない。
大竹さんは52。松尾さんは47。
投稿: 123 | 2010.06.22 12:17