« 「さらば八月のうた」の抽選予約に申し込む | トップページ | 「佐倉義民傳」を見る »

2010.06.05

「ポンペイ展」に行く

 昨日(2010年6月4日)、2010年3月20日から6月13日まで、横浜美術館で開催されている「ポンペイ展 世界遺産 古代ローマ文明の奇跡」に、職場のお姉さんと3人で仕事を抜け出して行って来た。

 会期末も近いし、平日とはいえ週末の午後に行ったせいか、そこそこの混雑だった。
 それでも、チケット売場にほとんど人は並んでおらず(2番目で買えた)、展示室に入ってからも、少し待てばすべての展示品を最前列でゆっくり観ることができた。
 周りがガランとした中で見るのも淋しいものなので、ちょうどいい感じだったと思う。

 実は、私は最初に「ポンペイに行こうよ」と言われたときに「ん? 何それ? どっかのレストラン?」と返したくらいに、訳が判っていない。
 そういうわけなので、行く前に公式サイトを覗いて勉強したところ、こういう風に説明があった。

**********

 西暦79年8月24日。イタリア南部、カンパニア地方にそびえるヴェスヴィオ山が大噴火しました。ポンペイやエルコラーノなど周辺の街々は、一昼夜にして 火山灰の下に埋没し、当時の姿を残したまま、およそ1700年の眠りにつきます。

 中略

 本展覧会では、ナポリ国立考古学博物館の全面的な協力のもと、ポンペイからの出土品を中心に、日本初公開を含む壁画、彫刻、工芸品、日用品など約250点を紹介します。家々を飾った色鮮やかなフレスコ画をはじめとして、イタリア国外へは初出品となる約60点の銀食器群、ポンペイの郊外にある別荘から出土した浴槽および給湯システム、その床面を飾っていたモザイク画の展示は、本展 の見どころのひとつ です。豪華な宝飾品、 凝った意匠の家具や調度 などからは、当時の富裕者たちの生活水準の高さがうかがえ、生きることを楽しむ古代ローマ人の姿が浮かび上がります。

**********

 なるほど。
 絵画展や彫刻展というよりも「出土品展」なのね、と納得した。

 紀元1世紀というと、カリギュラとかネロとか、かなりイメージの悪い皇帝が続いた時代のようだ。
 ネロ帝の死後は混乱期が続いたという。
 そういう時代でも、ローマからそこそこ離れた場所にあったからなのか、ポンペイの人々の生活は余裕があるように、どちらかというとあり過ぎるようにさえ見えた。
 皇帝は皇帝として、交易で栄えたポンペイの街は安定し裕福だったということなんだろうか。

 正直に言って、「これ」という興味がないまま行ってしまったので、見ていて面白いけれど、これといった感想が浮かばない。
 超有名人ではないだろう人の大理石像を見て「これって等身大かしら」「ローマ人って体格良かったのかなぁ」「昔なんだから今より栄養状態は良くないだろうし、もっと小柄だったんじゃないかしら」「でも大理石像が造られるくらいの人なんだから、逆に栄養状態は相当によかったと考えるべきか」などと愚にも付かないことを考えて口に出してしまう。
 一緒に行ったお姉様方はさぞ閉口していたに違いない。申し訳ない限りである。

 信仰と銘打たれたコーナーには、ウェヌス像に代表される、いわゆるローマ神話の神々の像が並んでいる。その他、ポンペイ土着の神様であろうラル(家の守り神)や、ゲニウス(家族の守り神)も祀られていたようである。
 あら、キリスト教ではないのねー、と思う。
 ネロがキリスト教を嫌った時代の直後だからなのか、ローマ帝国で広まったキリスト教はそもそも土着の宗教に寛大だったのか(唯一絶対神を説く宗教が他の宗教に寛大だとも思えないけれど)、ローマ帝国自体の中央統制が行き届いていなくて地方都市だったろうポンペイには到達していなかったのか。
 いずれにしても、キリスト教色が一切ないのが意外だった。
 恐らくキリスト教色がない像やフレスコ画だけを持ってきたとは思えないから、ポンペイの街自体にキリスト教は影響を及ぼしていなかったと考えるべきなんだろう。

 それはそれとして、ウェヌス像ってどうしてヴィーナスって表記してくれないのかしら、とか、いくつかあったウェヌス像を見つつ、ミロのヴィーナスのポーズもこれと同じだったのかしら、などなどと考える。
 やはりどうも私の持つ感想は本質からかなり外れているような気がする。

 娯楽のコーナーが充実しているのは、かなり納得がゆく。
 裕福な貴族が暮らす裕福な街で、人口10000人と推定されているのに20000人収容の競技場があり、剣闘が人気のある競技だったというのだから、そりゃあ「狂乱」とか「爛熟」とかいう言葉が似合う様子だったに違いない。
 青銅の短剣もあったし、鉄の農機具(これは別のコーナー)もあったから、鉄はきっと貴重品だったんだろうな、その鉄を剣闘に回すところまでの余裕はなかったんだな、などと思う。

 装身具のコーナーで一際光っていたのは、やたらと太い金のネックレスである。
 幸運の印だという車輪のアイテムが付き、ペンダントトップはクロワッサンよりもさらに「輪」に近いのに説明板が「三日月型」と言い張るものが付いている。
 でも、チェーンの部分がとにかく豪華なので、車輪も三日月も小さく(多分、直径が2cmとか2.5cmとかだったと思う)、ちゃちく見えてしまうのが惜しいところである。
 財産となるのはチェーン部分で、ペンダントトップなどは「護符」だったのかなと思う。

 一般家庭の壁を飾っていたというフレスコ画は、やっぱり、公共の場に飾られていたというフレスコ画よりは小さいし(しかし、壁に直接描かれていたわけだから、小さいというのも何だか変な気もする)、こう言っては何だけれど、稚拙に見えるものもある。
 しかし、一番謎だったのは、どう見ても器に1cmくらいの白い点々が描かれているようにしか見えない絵の説明板に「空豆かひよこ豆が盛られている」とキッパリと書いてあったことである。
 枝になっている果実の説明には(木も葉も描かれていたにも関わらず)「桃と思われる果実が」とか「桃かりんごだと思われる」などと曖昧に書いてあったのに、本当に謎である。
 少なくとも、「空豆かひよこ豆」とまで断言できるほど鮮やかには描かれていないと思う。
 「きっと、別の資料から特定できたのよ」と言われたのだけれど、私は、この当時のポンペイでは豆は空豆かひよこ豆しかなかったんじゃないかと睨んでいる。
 私的には、ポンペイ展最大の謎である。

 家具調度のコーナーで光っていたのは、イルカのモザイク画と、浴室を再現した展示である。
 イルカのモザイク画は、どう見てもイルカには見えない。これは、モザイク画以外のいるかもイルカには見えなかったから、モザイク画の問題ではない。
 クノッソスのいるかは、もっと写実的にイルカだったぞ、あっちの方が古いんじゃないのか、などと思う。
 それか、あのモザイク画がイルカを模していると思ったのは後世の誤解で(モザイク画なのだから、これはイルカの絵であると説明があったとは思えない)、本当は別のものを描いたんじゃないかとすら考えたくなる。

 浴室は、本当に浴室である。
 湯船があって、お湯を貯めるタンクがあって、お湯を温めるボイラーがあって、青銅製の蛇口がある。
 実際のところ蛇口の仕組みがどうなっているのかはよく判らなかったのだけれど、しかし、蛇口があるというのが凄いではないか。
 そして、ローマ時代には、シャワーではなく、水浴びでもなく、お風呂だったんだなと思ったら、何だかローマ人に親近感が湧いたのだった。
 火山の爆発で埋まってしまった街なのだから、もしかして、ポンペイでは温泉があったりしたのだろうか。

 そして、生産活動のコーナーで鉄器を見て、何故かぐうたらなイメージがあるキューピッド(ここでは「クピド」と表記されている)が働いている絵も見る。
 このポンペイ展で見たキューピッドの絵は、どれも結構大人のキューピッドで、3頭身ではなく6頭身くらいにはなっていて、今ひとつ可愛げがない。しかし、働いているのだから、エライ。
 キューピッドがかくれんぼをしている絵があって、その絵のキューピッドは例外的に可愛かった。

 「饗宴」と名付けられたコーナーの白眉は銀器の食卓セットである。
 4つずつ揃っているのを見て、この頃はあまり大きなホームパーティはせず、小さく友人たちで集まるパーティが主だったのか、それともこの家は家族4人で大人2人と子供2人だから杯は2つしかないのだろうかとか、でも普段使い用に銀器というのは贅沢すぎるんじゃないかとか(磨くのも大変である)、色々考える。
 考えるけれど、もちろん、答えは出ない。

 あと、家具調度のコーナーだったか饗宴のコーナーだったか忘れたけれど、テーブルなどなどの足が必ずライオンの足になっているのが、ちょっと怖かった。
 小さかったり大きかったりするとデフォルメされている感があって特にどうとも思わないのだけれど、「ライオンってこれくらいのサイズだろうな」という大きさのものを見ると、何だか迫力があり過ぎてコワイのである。

 これは、その後の「憩いの庭園」コーナーにあった、噴水の足などについても同じことを考えた。
 それにしても、ローマ時代の庭園はかなり発達していたらしく、噴水も色々なパターンがあって面白かった。どうせなら水を噴き上げているところを見たかったなと思う。

 そんなこんなで1時間30分くらい、ポンペイ展を満喫し、横浜美術館のコレクション展も眺めて帰って来たのだった。
 やはり、よく判らないなりに、生活に密着した展示物は楽しい。会期も残り少ないけれど、お勧めである。
 でも、1400円はちょっと高い。

|

« 「さらば八月のうた」の抽選予約に申し込む | トップページ | 「佐倉義民傳」を見る »

*美術館・博物館」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「ポンペイ展」に行く:

« 「さらば八月のうた」の抽選予約に申し込む | トップページ | 「佐倉義民傳」を見る »