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2010.06.14

「罪と、罪なき罪」を見る

リリパットアーミーII「罪と、罪なき罪」
作・演出・出演 わかぎゑふ
出演 コング桑田/野田晋市/千田訓子/上田宏/谷川未佳
    祖父江伸如/美津乃あわ/福井千夏/曾我廼家八十吉
    八代進一(花組芝居)/粟根まこと(劇団☆新感線)
    森崎昌弘(Mouce Piece-ree)/橋本太輔(Zsystem)
    や乃えいじ(PM/飛ぶ教室)/茂山宗彦/柊巴
    浅野彰一(あさの@しょーいち堂)/山下明里/西岡香奈子
観劇日 2010年6月12日(土曜日)午後7時開演
劇場 座・高円寺1 G列3番
上演時間 2時間40分 
料金 4500円

 ロビーでは、パンフレット(1000円)、何やら12日の昼間にイベントがあったようでそちらの「テキスト」と銘打った25年の記録が1000円、、TシャツやDVD等々が販売されていた。

 この日のサインは、兄弟を演じた八代進一と上田宏の2人だった。

 ところで、この日のチケットを持っていれば16時からのイベントに参加OKだったことを、今頃になってWebサイトを見に行って知った。かなりショックである。

 ネタバレありの感想は以下に。

 玉造小劇店の公式Webサイトはこちら。

 初演を見ていて、ストーリーは完璧に覚えているよ、と思っていたのだけれど、確認してみたら初演は2年前だった。それは覚えている筈である。
 「先生」と呼ばれる、司法省の役人といえばいいのか、裁判官といえばいいのか、初演で朝深大介が演じた役を、今回は野田晋一が演じているのが、一番の変化という感じがする。もちろん、今回初参加の役者さんもいるし、そういえば明治天皇の皇后の役がなくなっているし、「改訂版」というだけの変化と継続があるように感じた。

 あと「ここは変わったかも」と思ったのは、上田宏演じる「若」と呼ばれる若手弁護士ら3人が、粟根まこと演じる大倉伯爵の前で上演した仮想裁判のシーンである。
 こんなに長かったかしら、こんなに巫山戯ていたかしら、と首を捻った。
 イベント終了後すぐの上演ということで、もしかしたら、アドリブが多くなっていたのかも知れないと思う。

 千田訓子演じる狂言回しが話を進めて行くのは初演通りである。
 彼女の衣装が袴姿からドレスになったのも違いといえば違いと言えるかも知れない。それにしても、千田訓子の進行ぶりは、強弱あり緩急あり、様々なテクニックを交えて「時代背景の説明」だったり、人間関係の説明だったり、下手に挟むと無味乾燥になりかねない台詞をやすやすと伝えているようにさえ見える。
 まさに、変幻自在である。
 かなり、様々な要素を詰め込んでいるお芝居だから、そういうほっとする時間がないと厳しいのかも知れない。

 伏線の張り方はやっぱり見事である。
 最初の牛鍋屋のシーンで、「若」とその異母兄である八代進一演じる判事の溝の内と会わせたり(このシーンに明治天皇夫妻が現れなくなってしまったのは残念である)、
 「若」の学友である中上川の素性が知れなかったり、
 先生の家の新しい女中であるトキの初っぱなのシーンで「状」という字が付いているのは大切な手紙だから必ず自分に届けるようにと先生が言い聞かせたり、
 見合いのために里帰りして寝込んでしまったヨシが再び先生の家に現れたり、
 いわゆる「大津事件」の判事を任されて「ロシア皇太子に斬りかかった津田三蔵は、今後の外交関係を考え、必ず死刑にしなければならない」と法を曲げるようなことを言われてお酒に逃げていた先生が、迎えに来たヨシに「何か耳にしなかったか」と尋ねて自分が担当することを暗に伝えてしまったり、
 子供が作れなくなったことを気にして離縁を申し出た先生の奥様のことを説明するシーンでヨシが「どうして必要なところに来なくて、来なくていいところに来るのか」と呟いていたり。

 同時に、「若」の仲間である、や乃えいじ演じる吉川と、柊巴演じる牛鍋屋の女主人との見合い話では、結婚の条件やら男と女の考え方やら、商売人の考え方から、「明治」の時代の雰囲気が一気に醸し出され、かつ強制的に配布され、さらに、後のシーンで、若ら3人をこの女主人が匿ってくれることへの伏線にもなっているのだから、本当に見事である。
 惚れ惚れと見ていればいいって、何て楽ちんで楽しいのか。

 裁判に備えて先生の洋服を揃えているヨシは、同時にトキのスパルタ教育も敢行している。
 何か間違えると「腕立て伏せ!」「走れ」「荷車だ!」と叫んで本当にトキは実行する。客席はそのたびに揺れていたけれど、こっそり、いや、ここで驚いたら逆に失礼でしょう、役者さんたちは日頃の鍛錬でこれくらいはそう堪えていないに違いないと思っていた私である。

 「先生」は大倉伯爵らの圧力に負けて、ただ死刑を宣告するだけの裁判を引き受けることにする。
 その裁判の前日、弁護人を買って出ようとした「若」らは暴漢に襲われ、「先生」はヨシと「津田三蔵を救うにはどうすればいいか」という話をしてしまう。曰く、身内の者の証言は信用されないが、覚悟を示せば取り上げられることもある。例えば、腹を切って訴えた人物がいる、などと、「賢く物を考えるようになったヨシ」が嬉しい余りに、しゃべってしまうのだ。
 それは、自分のこととなれば必死に考えるに決まっているのである。
 そして、どう考えても(というか、初演を見ているのでこの先の展開を知っているのだけれど)、覚悟を決めたヨシが、もの凄く幸せそうな笑顔を見せてスポットライトを浴びているのが切なすぎるのだ。

 そして、裁判の当日、先生が裁判長、溝の内が判事として法廷で、被告人である津田三蔵に対する尋問も何もないまま、そもそも法廷にすら来させないまま、死刑判決を言い渡そうとする。
 そこへ、若が駆け込んできて、傍聴希望者がいると訴える。
 その傍聴希望者が明治天皇自身だというのだから、破天荒といえば破天荒、これ以上の人選はないだろうといえばこれ以上の人選はない。
 茂山宗彦演じる若の仲間の1人が実は皇族の端の端の端に連なる人物で、その伝手で明治天皇を担ぎ出して来た、ということのようだ。

 初演では、ここで、昨日に若ら3人を襲ったのが大倉伯爵とその肝いりの森崎昌弘演じる日比野という判事だということが判明して2人は退廷を命じられるのだけれど、今回は、明治天皇が、というよりも、コング桑田が「物販の清算をしなくちゃいけないから手伝って!」と2人を連れて行ってしまった。
 やはり、この日はイベント仕様だったのか?
 初演の流れの方がお芝居としては整合性が取れていたのに、何だか勿体ないような気もする。粟根まこともコング桑田も、ここでこういう風に遊ばなくても、十分に芝居中に役柄として遊んでいたし、それが楽しいアクセントになっていたと思う。

 ともかく、邪魔者は去り、祖父江伸如演じる津田三蔵も入廷し、やっとあるべき裁判が開始される。
 しかし、今度は、津田三蔵がひたすら「自分を死刑にしてくれ」としか言わず、自分を弁護しようという「若」にも、検事役を引き受けたその兄溝の内にも、全く協力しようとしない。

 そこへ、「先生」の旧友である、単なる酔っぱらいのオヤジに見せかけておいて実は帝大医学部教授だった、曾我廼家八十吉演じる久馬が現れ、この裁判の判決に重大な関わりがあるとして自殺したヨシが残したという手紙を「先生」に見せる。

 ヨシの手紙で津田三蔵がロシア皇太子に斬りつけた理由を知った「先生」は、「死刑にしてくれ」と泣き叫ぶ津田三蔵を見据え、無期懲役を言い渡す。

 最初は「法を曲げて津田三蔵に死刑を言い渡さなくてはならない」という状況だったのが、最後には、「本人の心情を考えて死刑を宣告してやりたかったのに無期懲役を言い渡す」という結果になり、また、自分の不用意な言葉や、何より、「正当に裁判をする」という覚悟がなかったばかりにヨシを死なせてしまったと「先生」は嘆き、久馬は嘆くな、それがヨシの望んだことだと諭す。

 トキがヨシの残した「嘆願状」を絶対に先生に届けるのだと言い張ったシーンが(それは、久馬からの伝聞なのだけれど)初演ではもう少し効いていたように思うのだけれど、どうだったろう。

 そして、ラストシーンは、先生とわかぎゑふ演じる奥様が養女としたトキを連れて牛鍋屋を訪れるところである。
 最初のシーンで揉めていた「若」の仲間と溝の内も現れる。
 そこに、初演では「先生」が目で追うという演出があったと思うのだけれど、今回は、誰も目をやらないという演出で、ヨシと津田三蔵を彷彿とさせる2人が牛鍋屋にやってきて、幸せそうに店内に入って行く。
 そこで、幕である。

 ストーリーを知っていて、台詞や展開もほぼ予測がつくのに、でもやっぱり泣かされてしまった。

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コメント

 しょう様、コメントありがとうございます。

 そして、イベントに参加されて、しかも! ビンゴで当たって、出演者のみなさんとお写真を撮っていらしたのですね。
 おめでとうございます!

 イベントの様子を書かれたブログのエントリーも拝見させていただきました。
 楽しそうですね〜。
 カーテンコールで、わかぎさんが「堪能させていただきました」とおっしゃっていた意味がよく判りました。
 私は、見逃したことがしみじみつくづくとショックです・・・。

 お芝居、よかったですよね〜。
 そういえば、このお芝居はDVDを買っていませんでした。でも、買ったら、家で見るたびに泪しちゃいそうです。

 お芝居の感想もお待ちしています!

投稿: 姫林檎 | 2010.06.16 22:07

姫林檎さん、こんにちは。
あらー、ビンゴ大会参加されなかったんですね、、、
それはそれは残念です。
私は遅れて入ったにもかかわらず、
ビンゴが出まして、お写真頂いて来ました♪
↑ちょっと自慢

本当にこのお芝居は良くできていて、
あまりに好きだったので、DVDを買ってしまった位なので、
再演は嬉しかったです。
今回のヨシ役の谷川さん、なんだか女らしくなってる様な気がします。
その辺もより涙を誘いましたねぇ。
私はまだお芝居の方のレポは書いていませんが、
イベントのレポは書いたので、
様子だけでもご覧下さいませ。

投稿: しょう | 2010.06.15 21:01

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